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帰宅

 屋敷では、清人と奏太が帰ってくるのが遅いことに、琴音がブーブーと文句を言い始めていた。


「絶対に寄り道してるよ! きっと好きなものとか買って猫と戯れてるんだ!」

「……琴音じゃないんだから。第一、兄ちゃんと奏太は仲が良くないし」

「あ、そっか。でも帰ってくるの遅くない?」

「んー。野菜とかちゃんと選んでるとか?」

「清人くんならともかく、奏太がそんなことするわけないわ。奏太ってば料理できない系男子だし」

「兄ちゃんも料理してるところ見たことない」


 琴音と樹里の二人で、帰ってくるのが遅い理由をあーだこーだと考えていた。

 悠真はそんな二人の会話を聞きながらテレビを見て、雪乃はソファに座って読書に勤しんでいた。

 と、そんな時だった。

 屋敷の玄関が開く音がして、やっと帰ってきたと言わんばかりの勢いで琴音が走っていき、それに続いて樹里も走ってついていく。そして玄関に突っ立っている奏太へ声をかけた。


「おかえりー。ちょっと遅かったんじゃないのー?」

「おかえり。あれ? 兄ちゃんは?」


 奏太一人で、清人の姿が見えない。樹里はキョロキョロしてから奏太に問いかけた。

 フルフルと首を振る奏太。


「何よ。ケンカしたの? せっかく仲良くなるチャンスを琴音様が与えてあげたっていうのに……。って荷物は? 買い物袋は?」

「…………」

「ちょっと、黙ってちゃわかんないじゃない。もしかして清人くんに全部持たせて、自分は先に帰ってきたわけ? ちょっと奏太、聞いてるの?」

「琴音。待って」


 琴音の言葉にうつむく奏太。奏太は玄関の段差に腰を下ろして、二人に背を向けた。

 その異変に樹里が気が付いた。


「奏太。何かあったのか?」

「……俺は」


 奏太は声を絞り出すように続ける。


「俺のせいだ。マスケラに勝てたのは樹里の鬼の面のおかげだったのに、慢心もいいところだよ」

「急にどうしたの?」

「マスケラということは……もしかして父に会ったのか?」


 琴音は樹里を見て、そして奏太の反応を待った。

 奏太は首を縦に振った。


「俺がこうして帰ってこれたのは、あいつのおかげだ。あいつがマスケラ達の気を引いてくれたから逃げてこれた。置いてきた分身も長くはもたないだろうし……」

「それで、兄ちゃんは?」

「わかんねぇ。仲は良くなかったけどさ、悪いやつじゃないって言うのはわかってんだ。本当なら今すぐ助けに行きたい。でも今のままじゃマスケラにだって勝てる気がしない。もっとマスケラに勝つことを考えておけばよかったんだ。それか俺がもっと強ければ……」

「奏太……」


 琴音はへこむ奏太になんて声をかければいいかわからず、拳を握りしめた。奏太の想いをくみ取って自分が今から向かったところで、清人はいないだろうし、なによりマスケラに勝てる気がしない。

 そんな琴音を一瞥した樹里が奏太に声をかけた。


「奏太。気にするな。兄ちゃんは大丈夫だ。ここは日本だし、殺人は起きないさ。生きていればまた会える!」

「そんな能天気な……」

「能天気なんかじゃない。私の父は、私と兄ちゃんには手を上げない。そして父に従順なマスケラだって、手を上げることはしないだろう。だから大丈夫」


 そう言って樹里は奏太の肩をグッと掴んだ。その力が痛みを感じるほどに強くて、奏太は樹里が口ではそう言っていても、本心は清人のことを心配をしていることを悟った。

 そして両手で自分の顔を挟み込むようにして叩くと、『よしっ』と気持ちを入れ替えて気合いを入れた。


「樹里。清人が連れていかれそうなところはわかるか?」

「多分、ウチの家だと思う」

「家か……」


 文字通り、ホームグラウンドである。


「よしわかった。場所の目星はついた。あとはマスケラに勝たないことには話にならないんだよな」

「それは僕にやらせてほしい」


 背後からかけられた声に三人が振り向くと、悠真と雪乃が立っていた。


「マスケラとは僕が戦う」

「戦うって、俺たちこの間ぼろ負けしたんだぜ?」

「大丈夫。次は負けない」


 そう言う真剣なまなざしを向ける悠真を、奏太は信じることにした。


「わかった。リーダーがそう言うならリーダーに任せる!」

「奏太……」

「ただし! 危なくなったら誰かを呼べ。俺の分身でも、雪乃でもすぐに駆けつけるから」

「ちょっと私はー?」

「琴音は移動手段がないだろ。走って駆けつけて間に合いませんでしたー、じゃ話になんないだろうが。樹里も同じだ」


 奏太にそう言われ、返す言葉の無い琴音。樹里はわかっていたらしい。


「どうする? 今すぐ向かうか?」

「奏太。落ち着け。そんなに急がなくても大丈夫だ。それに夜は危険が危ないって言うだろ」

「すごい危ないのね」

「ゆ、雪乃は変なツッコミをしなくていいから!」


 樹里の発言に丁寧にツッコミを入れた雪乃は、樹里の元へと歩み寄る。

 そしてやさしく抱きしめた。


「ちょ、何すんだ!」

「幼女への熱いハグ」

「もうちょっと言葉を選んで言え!」


 とはいえ、清人のことを心配しているせいか、雪乃のおかげで樹里の不安が少し和らいだのは事実だった。

 そして五人は、明日の午前中に屋敷を出発し、清人がいるとされる二人の家へと行くことに決めた。

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