励ましの言葉
夜。
清人と樹里を加えて、いつもよりも多くなった人数で食卓を囲み、夕食を食べた。
楽しげに食べる中、悠真だけは早々と食べ終え、自分の食器を下げて洗い終えると、そのまま出て行ってしまった。そんな悠真の背中を残ったメンツは困った顔で見送った。
悠真は、自分の部屋のベッドにうつ伏せに寝ていた。
結局あれからずっと考えているのだが、考えれば考えるほど深みにはまってしまい、マスケラのあの面が思い浮かんで、また沈んでの繰り返しだった。
コンコン。
そんな悠真の部屋の扉がノックされた。悠真は身体をむくりと起こし、立ち上がって扉を開けた。
「やぁ」
「……何か?」
「ちょっとお話しない? ほら。まだあんまり悠真くんと話したことないから、友好を深めようと思って」
「今、そんな気分じゃ」
「おー。ここが悠真くんの部屋かー。あれだね。シンプルだねー」
悠真が止める前に清人は悠真の部屋の中へと入り込み、キョロキョロと部屋の中を見回していた。悠真はその背中を見て小さくため息をついて勉強机の椅子に腰を下ろした。それを見た清人はニコッと微笑み、ベッドに腰を下ろした。
「悠真くんは何か趣味とかないの?」
「……特には」
「そうなの? 人生趣味とかないとつまんなくない?」
「……別に」
「そう」
悠真は、まっすぐと自分見てくる清人の視線に耐えきれなくなり、目を反らして外を見た。清人も悠真の視線を追うように窓の外を見た。周りは森で囲まれているために真っ暗だが、真っ暗なおかげで窓の向こうに見える空には星が瞬いていた。
しばしの沈黙が流れた。
「……悠真くんはさ、どうしてあの三人と一緒にいるの?」
「え?」
急に聞かれた質問の意味を理解できず、思わず清人を見た悠真。その清人は窓の外を見たままだ。
「他の三人とは違うタイプで、割と冷静に一歩下がった位置から周りを見てる感じだから、どうして奏太くんや琴音ちゃんや雪乃ちゃんと一緒にいるのかなぁっていう素朴な疑問」
「…………」
横目で悠真を見た清人。見られた悠真は顔を背けた。
「きっと僕と樹里が知らない過去があるからこの屋敷で暮らしてるんだとは思うよ。でも僕も樹里もそれを知らないから知りたいってわけ」
「…………」
「あ、言いたくないなら別にいいんだけど……」
それでも押し黙る悠真。清人はまた外へと視線を戻し、続けて話した。
「僕にはさ、悠真くんはまだ心を開いてないように思えるんだ。僕が三人に聞いた印象しかないけどさ、もしかしたらマイペースな三人に気を使って、自分がしっかりしなくちゃって思ってるからかもしれないし、グランマさんにリーダーになりなさいって言われたから頑張ってるのかもしれないし。だからこそ頑張ってるのはみんな知ってるはずさ。てゆーか、みんなそう言ってた」
清人は悠真の反応を見るが、特に反応は無い。
「でも悠真くんはさ、あの三人とは仲間であり同居人であり友達なんでしょ? もうちょっと素直になってもいいんじゃない? 言いたいこと言って、笑いあって、弱音吐いてもいいんじゃないの?」
「…………」
「それが仲間ってやつじゃない?」
「……何がわかるのさ」
「何もわからないよ。悠真くんとは話したことないし。だから聞かせてよ」
まっすぐ見つめる清人。清人を見た悠真と目が合い、清人が笑みを作る。
悠真も、清人がただ話しに来たのではなく、自分のことを励ましに来たということには気が付いた。
しかし何をどう説明すればいいのか全然わからなかった。
だからとりあえず、清人の質問に答えることにした。
「……僕はあの三人が羨ましい」
「羨ましい?」
「いつも言いたいことを言って、やりたいことをして、夢中になれることも持ってる。僕とは違う。僕にはあの三人が眩しい」
「ふんふん」
「僕が持ってないものを持ってる。きっとあの三人からしてみたら、僕も三人が持ってないものを持ってるんだろうけど、多分その量が違う気がするんだ」
悠真は三人の顔を思い浮かべながら話す。
「奏太とか琴音とか雪乃たちといると、僕も何か変われそうな気がするんだ。だからこうやって一緒に暮らして、一緒に仮面を使ったりもしてるんだけど、なんか違う気がして……」
悠真は、あまり話したことのない清人にここまで話すのはどうかとも思ったが、ここまで打ち明けたことだし、ここまで来たらもう相談してしまおうと決めた。
「清人は、そういうの感じたことない?」
「僕は……無いかな。他人は他人だし、自分は自分だし。自分ができることをすればいいと思うよ」
「僕ができること、か」
悠真は、あのマスケラ相手にできることを考えた。しかしあの面を思い出すと何も考えられなくなってしまう。
「でもまずは周りに迷惑をかけないことが一番だと思うなー」
「迷惑?」
「みんな心配してたよ?」
「そっか……なんか悪いことしちゃったかな」
「それは悪いことだよ。でも、迷惑をかけるならみんな巻き込まないと」
「え?」
「きっとあの三人なら一緒に巻き込まれたいって思うさ。それが仲間ってもんでしょ」
そう言って悠真に笑いかける清人。
「そう、なのかな」
「そうそう。もっと気楽に言ってみればいいじゃん。仲間だって友達だって、なんでも共有すればいいさ。楽しかったら楽しい。怖かったら怖い。泣きたいほど嬉しかったら一緒に大はしゃぎしてこそ仲間だって!」
「……大はしゃぎは、僕にはまだレベルが高いかな」
そう言って、悠真と清人はクスクスと笑いあった。
そしてきっと全員がいるであろうリビングへと清人と悠真は向かった。
リビングへと顔を出すと、そこにいた四人の視線が悠真へと集まった。そして奏太、琴音、雪乃の三人は『やばっ!』という顔になった。
「げっ!」
「悠真!?」
「あっ」
見てはいけないものを見てしまった。
リビングのテーブルの上には、飾りつけの素材が散乱しており、あとは飾るだけとなっていた。そして一番目を引くのは、大きなマスケラっぽい見た目のボケボケの画像。画質が足りない!
「えっと……これは?」
「いやー、そのー」
「えっと、き、清人と樹里の歓迎会をやろうと思って……」
「新入りだけに激励は任せられない! って琴音が言ってた」
「こ、こらっ! 雪乃は変なこと言わないで! それなら奏太も言ってたじゃん!」
「なんで俺まで巻き込むんだよ!」
「うわー。僕、そんなに信用されてなかったわけ?」
「兄ちゃんをなめ過ぎだ」
各々がやんややんやと騒ぐのを見て、悠真はぷっと吹き出してから声を出して笑った。
その悠真の笑いに清人以外の全員が驚き、顔を見合わせてホッと笑みを浮かべた。
その後、清人と樹里の歓迎会と称した『悠真を励ます会』が行われ、その中で特大マスケラ画像をビリビリに破る悠真に、拍手と歓声が起きたという。




