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敵と友達

「あらら」


 雪乃(ゆきの)樹里(じゅり)が争っている傍らで、兄の清人(きよと)は遠くからマスケラと他三人の戦いを見ていた。マスケラの能力は『分身』だとは聞いていたが、まさかあそこまで大量展開できるものだとは思っておらず、素直に感心していると同時に、いきなり最終決戦みたいくなってしまったあの状況にただ驚いていた。

 そんな清人ことホワイトマスクが漏らした言葉が雪乃の耳に入り、ホワイトマスクが見る視線を先を追った。

 そこには完全にピンチに陥ってる三人の姿が見えた。

 琴音と奏太は背中を合わせてマスケラに囲まれており、悠真に至っては腰を抜かしているのか、尻餅をついていた。


「よそ見しとる場合ぁああ!!」


 樹里が振り下ろした金棒をまたも紙一重でかわすと、手のひらを樹里の前に差し出して雪乃は言った。


「樹里。おしまい」

「うっ、おっ?」


 今まで幼女幼女と呼ばれていたのに、急に名前で呼ばれたため、驚いて言葉が詰まってしまった樹里。


「ごめん。説得はまた今度」

「ま、まだ勝負は終わってないだろうが!」

「それどころじゃなくなった。味方のピンチには駆けつけたいタイプ」

「ピンチ?」


 樹里の言葉に雪乃が三人のほうを見た。

 その雪乃の視線の方を見た樹里は、マスケラの数に素直に驚いた。


「な、なんじゃあれは……」

「すごいね。あいつ、あんなに増えれたんだね」

「増えるとは聞いていたが、あんなに増えるとは……兄ちゃんは知ってたの?」

「俺も初めて知った。あの数は厳しいんじゃない?」

「あれは仮面ライダーでもヒーロー戦隊でも無理だと思う」

「あれはお芝居だからねぇ」

「というわけで、幼女、お兄さん。これでおしまいね」

「ちょっ」

「はいはーい。また学校でねー」


 そう言ってぴょーんと飛び跳ねるように駆けていく雪乃の背中を、清人が手を振って見送った。

 そんな簡単に逃がしてしまった清人に樹里がつっかかった。


「兄ちゃん! どうして逃がしたのさ! 仮面を手に入れるチャンスだったのに!」

「ホントにそう思ってるわけ?」

「うっ……」

「お兄ちゃんに隠し事はダメだぞー。樹里だってせっかくできた友達なんだ。少しは寛容にならないと。少なくともマスケラ君は本気みたいだし」

「……兄ちゃんはマスケラが負けると思ってるのか?」

「あの状況だと負けないんじゃないかな」

「じゃあ……」

「そうだね。あの子たちには悪いけど、きっと負けるだろうね」


 清人の言葉に何も返さず、じっとマスケラのほうを見ている樹里。そんな妹を見て、清人は小さく笑った。


「どうする?」

「……」

「別に助けに行ってもいいんじゃない?」

「……でも、敵だし……」

「友達のピンチじゃないの?」


 鬼の面が清人の方を見上げる。仮面はかぶっているが、長年共に生きてきた妹のことだ。清人にはどんな表情をしているかなんて手に取るように見えていた。

 そんな可愛い妹に向かって清人は言う。


「背中、押そうか?」

「……もう大丈夫。兄ちゃん、お父さんに怒られないかな?」

「怒られたら家出しよう。その時は手伝うよ」

「……ありがと。兄ちゃん」

「愛しの妹だからね。兄として当然のことさ」


 そう言うと、鬼の面をつけた樹里が、ドスドスとマスケラたちのほうへと走って行った。

 ホワイトマスクをかぶった清人は、上を向いて星空を見た。


「夜逃げだな」



 マスケラに囲まれた奏太と琴音は、何人ものマスケラを相手にしており、すでに息が上がっていた。猿の面をつけた奏太は、副作用の頭痛で今にも倒れそうだったが、隣で戦い続けている師匠の琴音が頑張っている以上、先に倒れるわけにはいかないと思い、踏みとどまっていた。そんなわけで立っているのがやっとという状況である。

 マスケラの実体がある分身は、一定のダメージを与えることによって消えることがわかった。だがしかし、実体のある分身と、そうでないものを見分ける方法がわからず、ただやみくもに目についたマスケラを踏んだり蹴ったり殴ったりするしか方法がなかった。そのために体力がガスガスと減ってしまっていた。

 一方、悠真は、普段は冷静な思考回路が完全に崩壊してしまっており、『ただの蜘蛛の面をかぶった少年』となってしまっていた。

 

「どうしたんスか? もう終わりっスか?」


 とても残念そうに言うマスケラの男。他の色のマスケラに奏太と琴音の相手をさせて、本体である黒マスケラは悠真の前へとやってきていた。もちろん能力による瞬間移動で。

 戦意喪失してしまっている悠真へ声をかけたところで、まったくもって返事が返ってこない。

 黒マスケラは大きくため息をついて、悠真のつけている蜘蛛の面を回収することに決めた。

 あっけない幕切れではあったが、目標が達成できるならと思い、しぶしぶといったように面へと手を伸ばした。


「上から来るぞー気を付けろー!」

「ん?」


 気を付けろと言われたので、上を見てみると、黒い人影が降ってくるのが見えた。

 とっさに手を身体ごと引いて悠真と距離をとり、上からの奇襲をかわした。

 さっきまで自分が立っていた位置に振ってきた兎の面をつけた少女を見据えた。


「……親分を倒してきたんスか?」

「あっちは放置。こっちが大事」

「微妙に韻を踏んでるあたり、余裕ばっちりじゃないっスか」

「褒めても何もでません」

「ご褒美に仮面でもくれると嬉しかったんスけどねぇ。まぁ力づくで貰うから」

「うりゃあああ!!」


 黒マスケラの声を掻き消すかのような勢いのある声。

 黒マスケラにしてみれば、その声はとても聞き覚えのある声である。

 そしてその声がした方を見てみると、金棒を持った親分が、自分の分身であるマスケラたちをバッタバッタとなぎ倒したりぶっ飛ばしたりしているのが見えた。


「……どういうことだよ、これ?」


 そう呟いて兎へと視線を戻すと、兎は人差し指を中指を立ててピースした。


「前言撤回。勧誘成功しました。ブイッ」



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