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分身と本体

「どりゃぁああ!!」

「ひゃー」


 阿修羅の面をつけた琴音(ことね)の飛び蹴りをおちゃらけた声と共にしゃがんでかわす赤マスケラ。しゃがんだところへ猿の面をつけた奏太(かなた)の如意棒が勢いよく伸びてきて狙い打ってきた。しかしそれも横に転がってかわされる。転がった先に蜘蛛の面をつけた悠真(ゆうま)が攻撃を仕掛けに行くが、たどり着く前に黒マスケラが横から右の正拳突きを繰り出してきたのが見えたので、慌ててブレーキをかけて横へと飛び退いた。


「やっぱり駄目だ。琴音、奏太。足場、消すよ」


 元々琴音が話し合いの場を作るために蜘蛛の糸で作っていた空中の足場。しかしこのままでは蜘蛛の能力が使えなく、不利な状況が続くために、悠真がその糸を消すことにした。話し合いも終わりマスケラの能力も八割方わかったこともあり、もうこの足場は用済みだろう。高さビルの二階。面を付けているこの状態なら負担は微々たるものだろう。

 足場を消し、全員が落下していく中、悠真は空中で思った。マスケラの能力が『だいたいあっている』というのはどういうことなのだろう。確かに本体がわからないのはおかしい。でも分身ならば攻撃は当たらないはず。分身自体に実体があるのか。


「いろいろ考えてるみたいっスね。でもわからないならわからないと思うよ」

「また背後に……」


 地面に着地するなり青マスケラに背後を取られた悠真。振り返ることなく動くことなく、蜘蛛の視野の広さのみで敵を視界に入れておく程度にしている。振り向いてもあの面が見えるだけで攻撃はされない。今までもそうだったから。

 視界の端では、奏太と琴音が赤と黒のマスケラと攻防を続けている。


「ん? 目の前にいる?」


 ふと思いついたことがあり、視界では背後にいる青マスケラへ向けて、立ったままの姿勢からかかとを振り上げる。後ろに一歩下がってその間合いから離れた青マスケラへ、蹴りの勢いで振り向きざまに糸を数本指先から伸ばす。勢いよく糸は青マスケラへ伸びていき、身体に触れたと思った瞬間、そのまま通り抜けた。

 これは実体ではない。そう悠真は判断した。


「だから分身には攻撃は当たらないって言ってるじゃないっスか」

「知ってる」

「無駄なことが好きなんスねぇ」

「無駄も積もれば山になるんだよ。覚えておいた方が良い」

「勉強になりましたー」


 ならば本体は赤と黒のどちらか。しかしあの二つも本体ではない。そう決めつけたのはあの瞬間移動から。

 そう考えを巡らせていると、青マスケラがケラケラと笑いながら答えた。


「本体がどれか考えてるんスか?」

「…………」

「心の声とか聞いてないッスよ? この状況だとそれを考えてるかなって思っただけだよ」

「教えてくれるわけ?」

「教えてほしいなら教えてあげるけど」

「…………」

「まぁお駄賃は仮面一個だけどね」


 そう言ってケラケラと笑う青マスケラ。それを見ていた悠真が若干イラッとしたと思ったのか、青マスケラは姿勢を正して一つ咳払いをした。


「オホン。あんまりおちゃらけてると親分に怒られるんし、そろそろ正解発表をしましょうか」

「正解?」

「本体を知りたいって言ってたじゃないっスか。教えてあげるッスよ」


 疑いつつも少し期待してしまう悠真。しかし嘘ではありませんよーとばかりに青マスケラは続ける。


「こっちはそっちの能力を知ってるのに、そっちは知らないって言うのはフェアじゃないじゃないっすか。そう思いません?」


 悠真は答えない。


「……無言っスか。まぁいいや。俺の能力は、分身を作り出して、その分身の元へ移動できる能力ッス」

「っていうことは……?」

「あそこで黒いマスケラをつけてるやついるじゃないっスか。あいつが本体ッスよ」


 悠真は疑いながら聞く。


「本当なのか?」

「ここまで来て嘘ついてたら、こっちがなんか恥ずかしくなってくるんで勘弁してくれっス。黒が本体。それだけは本当。そして間違いを一つ教えてあげるよ」

「間違い?」

「本体だけが実体だと思ってるでしょ? こっちは実体と実体がない分身をどちらも作れるってわけ」


 そういうことか。これでマスケラの能力がわかった。これで対等に戦える。

 そう考えた悠真に青マスケラがさらに続ける。


「と、ここまで話したわけだけど、どうしてこんなに相手に能力を話したと思う?」

「……それでも勝てる自信があるから?」

「んーだいたい正解。じゃあどうやって勝つと思う? ヒントは俺の能力は分身と移動だけで、力はそのまま。いや、ちょっと仮面の力で強くはなってるかな。ちょっとだけね」


 悠真は思考を巡らせるが、『フェアじゃなかったから』ということしか考え付かない。


「キミ、リーダーっぽかったから君に話したんだけど、相当混乱してるみたいだね。『フェアじゃないから』とかそんな理由だと思ってるでしょ?」


 次々と当てられている自分の思考に、マスケラに若干の恐怖を覚えた。


「リーダーとか司令官とかガードとか監督とか、指示を出したりチームの要になってる人間が慌てちゃうのはマズいっスね。これで負けたら君のせいだよ?」

「そ、そんなことは……」


 落ち着いているように、平静を保っているように装いつつ声を出したが、声が震えてしまった。


「相当キテるっすね。では正解発表ー。パチパチ」


 そう言うと、青マスケラの周りに赤のマスケラが移動してきた。

 しかし視界の端ではまだ琴音と奏太が黒と赤のマスケラと戦っていた。そしてその二人のそれぞれの背後から青マスケラが同時に蹴りを入れた。その勢いで前のめりに倒れ込む琴音と奏太。

 突然現れた二体の青マスケラに二人は驚いた。

 急激に増えたマスケラ。

 そして悠真の目の前には青と赤の他に、黄と緑のマスケラもいた。


「これでわかったっスか?」


 目を丸くして驚く悠真。

 そんな悠真に青マスケラは真面目なトーンで言う。


「戦いは質よりも量なんスよ。ここからが本番ッス」

???「戦いは数だよ!」

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