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残念無念

 琴音に言われ、各自面を変えた。

 琴音は阿修羅、奏太は猿、悠真は蜘蛛。

 変え終わるのをきちんと待っていた赤マスケラへ向けて、琴音が言う。


「攻撃してこないの? 面を付けかえてる最中が一番チャンスなんじゃないの?」

「いやぁ。なんていうんスかね、合体シーンと変身中は攻撃してはいけない的なルールってあるじゃないっスか。それだよ」

「ホントは攻撃できないんでしょ?」


 ニヤリと笑う琴音。仮面のせいで表情は見えないが、その雰囲気は全員に伝わった。

 仮面から出ている後頭部を手でかきながら赤マスケラが言う。


「そんなことないッスよ? ちゃんと攻撃できるし」


 そんな赤マスケラの言葉は気にせずに琴音は言った。


「蜘蛛って意外と視野が広いのよ。たくさん目があるからだと思うんだけど、それのおかげで面をかぶってても普段の倍以上の視野があるわけ。もちろん死角はあるけど、その死角も微々たるもの。でもその死角を突いて近づいてそばにやってきたと考えるのは、ちょっと難しい。じゃあどうやって近づいてきたか。答えは簡単。マスケラの能力は、分身を作り出す能力なのよ! だから私たちの背後にだって分身を生み出せるし、いきなり消えたり出てきたりすることができるのよ!」


 琴音は赤マスケラに指を差し向けながら言い放った。

 それを聞いた赤マスケラがケラケラと笑った。下にいる黒と青も同じように笑った。


「な、何がおかしいのよ! 図星でおかしくなっちゃんたんでしょ!」

「いやーすんませんッス。あまりにも図星でびっくりしたわー」

「やっぱりね。私の考えに間違えは無か」

「でもちょっとハズレっす」

「え?」


 赤マスケラが琴音の自信満々な空気を遮るように言った。それに意表を突かれた琴音はきょとんとした顔で見返す。もちろん仮面のせいで表情は以下略。


「琴音」


 悠真に呼ばれた琴音は、悠真が見ている方向を見る。横を向いていた悠真の視線の先には、黒マスケラが立っていた。


「お、おい、琴音!」


 そして奏太が琴音の名前を呼び、悠真とは違う方を見ていたその視線の先には、青マスケラが立っていた。

 三人はあっという間に三人のマスケラに囲まれてしまった。

 そしてマスケラが声をそろえて言う。


『本体はどれでしょうか?』


 その声とマスケラの不気味な表情に、三人は寒気のようなものを感じた。

 そのなかでも琴音の頭の中は混乱していた。自分の仮説によると、黒と青のどちらかが本体で、その分身との連携攻撃、そして赤マスケラを生み出すことで、自分たちを撹乱し攻撃しているものだと思っていた。しかしふたを開けてみると、マスケラ全員が瞬間移動ともとれるような移動をしてきたのである。本体は分身を作り出すため、その移動はできないと踏んでいたのだが、実現されてしまっては、さっきまでの仮説が成り立たなくなってしまったのだ。

 完全に混乱する琴音。そんな琴音に悠真が声をかけようとした。


「琴音っ!」

「!?」


 悠真が口を開きかけたとき、奏太が琴音に向かって叫んだ。顔は目の前にいる青マスケラのほうを見たままだ。

 

「たくさんいるからとか分身するとか関係ないだろ! 本体がどれかわからないなら、全部ぶっ倒しちまえばいいだろうが! それが俺の知ってる師匠、高峰琴音だろっ!」


 奏太の長台詞に、赤マスケラがぱちぱちとささやかな拍手を送っていた。

 そしてその喝に琴音は、自分らしくもなくいろいろと考えていた頭をからっぽにし、フッと笑みを浮かべた。

 


「……フフッ。奏太のくせに生意気なんだよ……。よっしゃあ! 行くぞ野郎ども! あたしに続けぇっ!!」

「お前がリーダーかよ!」

「調子のいいこと」


 琴音の威勢のいい声と共に、奏太と悠真がそれぞれ言い、琴音の後ろに続くように赤マスケラへ向かって駆け出した。

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