路地裏
平和な日々が一週間ほど続き、久しぶりの夜のお仕事となった。
四人は、久しぶりの出動に胸を躍らせている者もいれば、そうでない者もいた。
「強くなった俺の力をみせてやんよ!」
「奏太。静かにしてね」
「あ、悪い。ちょっとテンション上がっちまった」
「これだからガキンチョは」
隣ではしゃぐ奏太が悠真に注意されたのを見て、呆れたようにため息をつく琴音。
「琴音だって、家出た瞬間にテンション上がりすぎてすっ転んでたじゃねぇか」
「それは言わない約束でしょ?」
「そんな約束はした覚えはない」
「なんだとー!」
「やんのかー!」
「二人とも。静かにしないと帰ってもらうよ」
「「ごめんなさい」」
悠真に静かに一喝され、静かになる二人。仲が良いのやら悪いのやら。
そんな四人は今現在、商店街へと来ている。
グランマの情報によると、商店街で事件が起こるらしいとのことで、今路地に潜んでその時を待っているというわけだ。
ジッと商店街の通りを見ている悠真と、さっきまで騒いでいた琴音と奏太、そして暗い中で兎の面をつけて文庫本を読んでいる雪乃。そんな雪乃に奏太が声をかける。
「そんなに暗いところで本読んでたら目、悪くするぞ?」
「大丈夫。そのための兎だから」
「ん? どゆこと?」
「うさぎは夜目が効くの。だから暗いところで本を読むのには最適」
「……まさかそれだけのためにそれを選んだわけじゃないよな?」
「まさか」
まさかね。
「あれかな?」
そんな中、悠真が呟いた。
その声に反応して琴音と奏太が悠真の横から顔をのぞかせた。その三人の視線の先には、例の青と黒のマスケラの仮面をかぶった男が二人並んで歩いていた。その後ろにジーパンに赤いパーカーを着たホワイトマスクと、やけにリアルな鬼の面をつけたちびっこが並んでいた。どう見ても怪しい。
その異様で異質な雰囲気は、琴音と奏太の気分を高揚させるのに十分だった。
それを察知した悠真は、先に釘を刺しておいた。
「まだ行ったらダメだからね」
「わかってるって。不意打ち上等!」
「勝てば官軍!」
「わかってるならいいけど、声が大きい」
そんなコントめいたことをしている三人の後ろで文庫を読んでいた雪乃だが、月明かりでわずかに当たっていた文庫への光が遮られた。何かと思って文庫から目を離して上を見てみると、そこには赤いマスケラがこちらを見ているのが見えた。というよりも、ほぼ目の前にいた。
近距離で向かい合う赤のマスケラと兎。互いに面をつけているので表情は見えない。
雪乃は目の前で見ている赤のマスケラから目は離さずに、しおりを挟んで文庫を閉じ、いつものポーチにそれを仕舞って静かに言った。
「悠真」
呼ばれて振り向いた悠真は、雪乃のを見下ろしている赤いマスケラに驚いた。さっきまで通路で並んで歩いていた二人の青と黒のマスケラが、いつの間にか後ろに回っていたことに驚いた。
「どうもー。良い子は寝る時間じゃないかな?」
「へ?」
「うおっ!」
急に背後から聞こえてきた聞きなれぬ声に、琴音と奏太も驚いて振り返って、振り返ってまた驚いた。
集まった視線に、ヒラヒラと手を振って返す赤マスケラ。とっさに持っていた面を各自つける。悠真はピエロ、奏太は阿修羅、琴音は蜘蛛。
悠真は、通路にいたマスケラを確認した。しかし先ほどと変わらずに並んで歩いている。こちらのマスケラは赤。マスケラは複数個あるのか?、と悠真は思った。
「ずいぶんと冒険熱心なんスねぇ。お散歩ですか? 学生なら勉強しないとダメじゃないの?」
「な、なんだよお前は!」
「前にあったじゃないかー。我々はマスクオブデスティニー。君たちの仮面を手に入れる者さ」
「そのマスクオブデスティニーってなんなのさ!」
「まぁまぁ。ウチの親分もそこにいることだし、直接聞いてみたら?」
「親分?」
「あの鬼の面をつけたちっこい子」
だんだんと近づいてくる四人をのぞき込んで見ている悠真は、鬼の面をつけた子を見た。若干眠たそうにあくびをしているのか、面の口の部分に手を当てて首を少し上に上げていた。そして悠真は背後の赤マスケラをちらっと見た。
悠真の視線が赤マスケラを見たのに気が付いた雪乃は、ここにいるマスケラに攻撃の意志は無いのだと察し、すくっと立ち上がって三人の元へ歩み寄った。そして琴音の手を取って通路側へと出ていく。悠真も同じように奏太の腕を掴んで通路へと出た。
そして四人は、通路から歩いてきた四人の前へと姿を現した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
連載が一つ終わったので、更新頻度を上げてお送りいたします。
次回もお楽しみに!




