混入
マスケラの男と遭遇してから一週間が経とうとしていたころ。
彼らの通う学校に、季節外れの転校生がやってきた。
琴音と悠真のクラスには男子、奏太と雪乃のクラスには女子が、それぞれ転校してきた。
二人は兄妹らしく、親の転勤の都合だそうだ。
二年生組のクラスにて。
「初めまして。皆上清人です。親の都合で引っ越してきました。どうぞ仲良くしてやってください」
「キャー!」
そう笑顔で言うと、教室内の女子たちが黄色い声援を送った。
なんせさわやかイケメンである。モテないはずがないだろう。
しかし琴音はさわやかイケメンには興味はないようで、周りがキャーキャー言っているのを笑いながら見ていた。悠真はのんびりと空を見ていた。
先生が空いてる席へと座るように指示し、悠真の隣の席に腰を下ろす清人。
「よろしくね」
隣の席の悠真に向かって、さわやかスマイルであいさつをする清人。
「ん。こちらこそ」
それをいつものように、少し気の抜けた返事で返す悠真。
そしてまたすぐに外をボケーっと眺めるのであった。
奏太と雪乃のクラスにて。
「は、はじめまして。お父さんの転勤の都合で引っ越してきました、皆上樹里です。よろしくお願いします」
そうペコリとあいさつをした樹里は、周りからの視線をしっかりと受け止めてから付け加えた。
「こう見えてもちゃんと高校一年生です。飛び級とかはしてません」
そして流れる『そっかー』という空気。
樹里は幼女である。
完全に高校生に見られない幼児体型の持ち主で、前の学校では『ロリクイーン』という称号まで与えられていた。この学校で言うつもりはないらしい。
そして先ほどの清人とは兄妹である。
教師のマニュアルに書いてあるかのように、同じように空いてる席へと座るように指示された樹里は、雪乃の後ろの席へ移動して座る。
「よろしくな。俺、翠山奏太。なんかわかんないことがあったら聞いてくれな」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
「なんで敬語なんだよ。同い年なんだろ? タメ口でいこうぜ」
「は……うん。よろしく、翠山くん」
「おう。そっちの本読んでるやつは、烏丸雪乃。話しかけたら話してくれるから雪乃に聞いてもいいからな」
「よ、よろしく」
前の席の雪乃に話しかけると、雪乃は本をパタンと閉じて振り返る。
「よろしく。おっ」
「?」
「思った以上に幼女だった」
「よ、幼女って言うなー!」
教室中の視線が樹里に集まったのだった。
そして昼休み。
一年生組の教室に転校生の清人がやってきた。
もちろん妹の様子を見に来たのであるが、周りには積極性の高い、最近の女子高生たちが群れをなしていた。
「樹里ー」
「兄ちゃん!」
突如現れたイケメンと、それに寄る幼女に、全員の視線が集まった。
「幼女、その人はお兄さん?」
「幼女って言うな! 私の兄です」
「なに、もう友達できたの?」
「友達じゃないもん」
「まぁまぁ。席が近かったよしみということですかね」
「そっか。これからも樹里と仲良くしてあげてね。そっちのかわいい子もね」
「……かわいい子?」
清人がそう言うと、言われた雪乃は首をかしげた。
そしてニコニコと笑う清人と、頭にハテナを浮かべる雪乃の間に、奏太が割り込んだ。
「初対面の人をいきなり口説いてんスか?」
「いやいや。本音を言っただけだよ」
「本音でもそーゆーことはあんまり口に出さないほうがいいっスよ」
「んー。気を付けるよ」
警戒心全開の奏太と、何を考えているかわからない風に笑顔を作る清人。
「奏太」
「兄ちゃん?」
そんな二人に、雪乃と樹里がそれぞれ声をかけた。
「私、かわいいって言われちゃった」
そう無表情で言う雪乃。
そんな雪乃を見て、小さくため息をつくと、横を素通りして自分の席へと戻る奏太。雪乃もそれに続く。
席へ座ると、雪乃に奏太が言う。
「雪乃のかわいさは俺が一番知ってるんだからな」
「奏太ってば、ツンデレさん」
「うっさい!」
そして残された清人と樹里が小声で話す。
「兄ちゃん。目的を忘れたらダメだよ」
「わかってるって。親分」
「ちょ、ちょっと! その呼び方は学校でしないでって言ってるでしょ!」
「あはは。ごめんごめん」
「んもぅ!」
そんな兄と妹だった。




