阿修羅と蜘蛛
阿修羅の面をつけた琴音と蜘蛛の面をつけた悠真。
琴音は腕と足のストレッチをして、準備運動をしている。
「おい。いつまで待たせるんだよ」
しびれを切らしたのか、プリキュアが話しかけてきた。
「ん。じゃあそろそろ行っちゃうよ」
「大丈夫?」
「任せて。あのくらいなら、私一人でイケる気がする」
「無理は良くないかな。サポートは任せてね」
「絶対的に信頼してるからね」
悠真が差し出した手をパシンと叩くと、琴音は相手を挑発するように左足を上げた構えをとり、左手でチョイチョイと『かかってこい』と手首を動かした。悠真は叩かれた手をジッと見つめ、気を取り直して敵の三人を見据えた。
その挑発に乗ったのか、ウルトラマンを先頭に三人が襲いかかってきた。ウルトラマンは琴音の目の前まで来ると、顔めがけて大きく腕を振りかぶった。
琴音は、その腕を笑みを浮かべて簡単に素早く身体を傾けて避けると、その避けた勢いを利用して、上げていた足を腕と交差するようにウルトラマンの顔へとぶつけた。
「うごっ!」
倒れたウルトラマンと下の構えに戻る琴音。
ウルトラマンの影からプリキュアのビームが飛んでくるが、これを同じように身体を傾けて避けた。その瞬間を見計らって、避けた先にピカチュウが突っ込んできた。
ピカチュウが捕まえたと思った瞬間、琴音の身体が不自然な動きをし、傾けていた体勢から、まるで重力が逆に働いたかのように跳ね上がって、ピカチュウの腕から逃れた。
そのありえない動きに驚いたのもつかの間、琴音の蹴りがピカチュウを襲うが、ピカチュウは腕でガードして受け止めつつ、五歩ほど後退した。その時に、琴音の身体から伸びる複数の細い糸が電灯の光に反射して見えた。
琴音のありえない動きは、後ろの悠真の蜘蛛の糸によるものだった。
それに気づいていたのか、横に回ったプリキュアが完全に死角となっていた位置から、悠真にビームを撃ち込んだ。
しかし悠真は、見えていたかのように軽々と数歩程度の動きで避けると、指から二本くっつく糸を出して、プリキュアの身体につけた。そしてその二本をまとめて持ち、力任せに引き寄せるようにして、琴音のいる方へとぶん投げる。
「琴音!」
「合点承知!」
飛んできたプリキュアを怯むことも躊躇することもなく左足で一蹴すると、残ったピカチュウに向き直った。
悠真は、ピカチュウに対しても同じように糸を付けることもできるが、例の静電気のせいでうかつに触れないことを思い出してやめた。かわりに琴音の後ろに回って、同じようにピカチュウを見る。
「ドラァ!」
「うおっ!」
突如横から伸びてきた如意棒を、慌てながらも避けるピカチュウ。
そして右には阿修羅と蜘蛛、左には猿と狐。
そんな四人に挟まれたピカチュウは、戦闘態勢を解いて頭をポリポリとかいた。
「いやーお見事お見事。やっぱり強いわー」
「は?」
「ふん。負け惜しみか。そんなのを聞くまでもなくぶっ飛ばしてやるぜ」
「待って、奏太。その人には色々と聞きたいことがあるから」
今にも如意棒でぶっ飛ばさんとしている奏太を制止すると、悠真は一歩前に出てピカチュウに向かって問う。
「そのお面はどこでもらったんですか?」
「やっぱりこの面の力に気づいてたか。さすが親分が狙うだけのことはありますね」
「親分? やっぱり誰か絡んで」
「おっと! 俺の口からはこれ以上は言えないんだわ。ごめんね」
「この状況で逃げられるとでも?」
「もちろん」
悠真の挑発に、ピカチュウはお面の向こうで笑いながら答えた。
そして下を向いてピカチュウのお面を外すと、服の中から取り出した派手なマスケラの面をつけた。
「……それも仮面?」
「まぁそういうことかな。今日はやっと出会えた記念にお面で遊んだけど、次はこっちで相手するから。そこんとこよろしくお願いしますね」
そう言いながら自分の顔につけた青いマスケラの面を指差す。
「とはいえ、こっちも逃すわけにはいかない」
悠真は糸をマスケラの面の男へと伸ばした。
「そうはいかないって言ってるでしょ」
「なっ!」
突然後ろから話しかけられた悠真は、糸を伸ばすのをやめて、後ろを振り返った。
そこには黒いマスケラの面をつけた男が立っていた。
「まだ仲間がいたのか」
「いやいや、仲間じゃないっすわ」
目の前の黒マスケラがそう言い、
「今日の勝利報酬に教えてあげるよ」
さっきの青マスケラの男が続けた。
少しだけ混乱している四人をあざ笑うように黒マスケラと青マスケラは同時に言った。
『これがマスケラの力さ』
そう言って地面に向かって何かを投げつけると、一瞬にして煙幕が巻き起こり、その場にいた全員がその煙幕に巻き込まれた。
「ゲホゲホっ」
「くそっ! 逃がすか!」
「なんも見えないー!」
「覚えておけ! 我々、マスクオブデスティニーは、お前たちの仮面を奪ってみせる! ハハハハハ!」
煙幕が消えた頃、すでにマスケラの男の姿はなく、そこにはお面を外されて倒れたままの五人の不良と、仮面をつけた四人が残されていた。




