狐と猿
猿の面をつけた奏太は、本当に猿になってしまったかのように、しゃがんで頭をポリポリとかいていた。
その隣で狐の面をつけた雪乃は、どこからか取り出した番傘をクルクルと回してさしながら、ご機嫌そうな顔を浮かべていた。もちろん仮面越しだから以下略。
そんな二人を見て、初代のライダー一号が不敵な笑みを浮かべながら言った。もちろん仮面越し以下略。
「ふんっ。いくら仮面を変えたからって、俺たちに勝てるわけがないだろ」
「そうだぜ! 俺たちはなんたって正義のヒーローなんだからな!」
続けてフォーゼが言った。
そんなニヤニヤと笑っている(もちろん以下略)三人を見て、猿真似をしていた奏太が雪乃に視線を送った。仮面の小さな穴から互いの目を合わせると、小さくコクリと頷いた雪乃を見て、猿の面の奏太だけ走って向かっていった。
「行くぜぃ!」
奏太はさっきと同じようにモモタロスに向けてまっすぐ走る。そしてさっきと同じようにジャンプして飛びかかった。
モモタロスは先ほどと同じように、突っ込んでくる奏太を受け止める体制に入っていた。
しかし奏太は飛び蹴りではなく、耳の上あたりから小さな棒のようなものを取り出し、それをモモタロスへと向けた。
そして大声で一言。
「伸びろっ! 如意棒!」
「はっ?」
その声に驚いて、変な声が出たのもつかの間、モモタロスは一瞬で伸びてきたその如意棒に、ぶっ飛ばされてしまった。
勢いよく後ろに転がっていくモモタロスを横目で見ながら、フォーゼは空中に浮いたままの奏太に向かって、飛び蹴りことライダーキックを仕掛けた。
しかし。
「知ってる? 格ゲーの中では、傘って最強の武器って言われてるんだよ?」
そんな声が聞こえたと思った矢先、フォーゼの目の前に赤茶色が広がった。一号からは何が起こったのか見えており、その赤茶色の正体は、狐の面をつけた雪乃の番傘だった。
フォーゼは、キックの勢いを止めることができずに、その番傘めがけて突っ込んでしまう。本来ならば、傘は蹴られたら壊れてしまうが、この番傘はその程度では壊れなかった。
キックを受け止めた雪乃は、番傘をフォーゼに向けたまま上へと回り込む。そして番傘を閉じて、フォーゼに姿を現したかと思いきゃ、そのまま番傘でフォーゼを叩き落とす。その威力はなかなかのもので、モロに腹に受けてしまったフォーゼは、地面に背中からビターンと落ちた。
呼吸ができずにゲホゲホとむせているフォーゼ。そんなフォーゼへ、番傘を閉じたまま振りかぶった雪乃が降ってきた。フォーゼは慌ててガードをしたが、そんなもので防げるはずもなく、寸止めした雪乃の番傘はクルリと反転し、フォーゼの股間を的確に居抜いた。悶絶の表情を浮かべているであろうフォーゼの前で、なむなむと手を合わせる狐の雪乃。
「さてと。残るは初代さんだけか」
「さっきのお返しをしたい」
一号を挟んで、前には如意棒をクルクルと回す奏太と、後ろには番傘を開いてさし直す雪乃。
「ど、道具なんてずるいだろ……」
「知らん。勝った方が正義なんだよ。負ける正義のヒーローなんてテレビ放送もされないだろ」
「ぐっ……」
「それにさっきのフォーゼのライダーキックを受けたとき、やっぱり威力は普通の蹴りと一緒だった。きっと身体能力を向上させる程度で、そのお面はたいして効果はないのかも」
「マジで?」
「まじで」
緊張感を解いて話す二人に、一号がわなわなと震えた。
「お前ら……馬鹿にしてんじゃねぇぞぉ!!」
怒りを露わにして振り返り、雪乃の方へと走っていった。
それに気づいた雪乃は、一号めがけてさしていた番傘を開いたまま向け、自分の姿を一号の視界から消した。一号からは傘だけが見えていたのだが、そんなものは飛び越えてしまえばいいと言わんばかりの跳躍で、傘ごと飛び越えようと地面を蹴り、雪乃の真上へと飛んだ。
そして傘越しに見えてきたのは、狐の面をかぶった雪乃の姿だけではなく、猿の面をかぶった奏太の姿もあった。
「いらっしゃーい」
「は?」
そう言った奏太は、持っていた如意棒で一号を思い切り殴った。キチンと顔を狙って叩きつけられた如意棒は、一号がつけていたプラスチック製のお面を割り、一号をモモタロスが倒れている場所へと吹っ飛ばした。
「これは雪乃が蹴られた分のお返しだ」
傘をさし直した雪乃の横に並び、奏太は如意棒を縮めて耳にかけ直した。
一号は、薄れゆく意識の中で、猿の面をつけた男が二人いるように見えたとかなんとか。




