閑話➈ー2 動きはじめる闇
「へえ……五階層のエリアボスって初心者用のチュートリアルみたいなもんだけど、ちょっと細工してやればここまで暴れるのね」
薄暗い部屋の中、壁一面に設置された数々の画面が照らす光を浴びてな笑みを浮かべる飯島。目の前のモニターには、エリアボスと激戦を繰り広げる瑛士たちの姿が映っていた。
「ずいぶん苦戦しているようだけど、こんなところでやられてもらったら困るのよね」
モニターを眺めながらテーブルに置かれたコーヒーを一口飲み、飯島が小さく息を吐いたその時だった。ちょうどルリが鉄牙狼へ突っ込んでいく様子が映し出される。
「ふふふ……そのまま突っ込んで大丈夫かしら?」
飯島が余裕の笑みを浮かべ、勝利を確信した瞬間――一筋の光が画面を横断するように走る。
「え? 今の光はなに? ドローンの不調かしら?」
持っていたコーヒーカップを机に置き、画面に顔を近づけるようにして凝視した。すると、爆発音と共に画面が真っ白に染まり、何が起こったのか確認できなくなる。
「ちょっと! 何も見えないじゃないの! どうなってるのよ!」
飯島はモニターの両端を掴み、大声で叫んだ。
電源を入れ直したり、コントラストを調整したりするが、何度試しても画面は真っ白のままだった。
「クソっ……一台しかドローンを飛ばさなかったことが仇になったわ」
飯島が悔しそうにモニターを睨んでいると、少しずつ視界が戻り始める。
次の瞬間、映し出されたのはお面を付けた少女がルリに抱きつき、泣きじゃくる姿だった。
「チッ……無事だったとは、悪運が強いわ。共倒れになってくれていた方が都合がよかったのに……新開発の薬品を投与した結果が分かっただけでも良しとしましょうか」
親指の爪を噛みながら歯を軋ませ、悔しそうな表情で呟く飯島。
「でも、サンプルが少ないわね……彼らが偶然うまくいっただけかもしれないし、もう少し検証が必要だわ」
モニターを睨みつけ、全身を小刻みに震わせながら怒りを露わにする。ふと他の階層を映していた画面に視線を移した瞬間、ある名案が閃いた。
「そうだ! 迷宮内は治外法権……ということは何をしても大丈夫……つまり私にとって実験サンプルを集めるにはもってこいの場所。研究所の時みたいに、使えない実験体の処分に頭を悩ませる必要なんてないじゃない」
先ほどまで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた飯島は、一転して笑い声を上げ始める。
「あはは! なんで忘れていたんだろ? 迷宮内は自己責任なんだし、何をやっても大丈夫じゃない。別に瑛士くんたちで試さなくてもいいわけだし! そうそう、使えない奴らを迷宮作業員に配置換えすれば、最期に人の役に立てる仕事ができて本望でしょ!」
モニタールームに響き渡る高笑いはどんどん大きくなり、廊下を歩いていた黒服の部下たちの耳にも届く。
「おい、また飯島博士が何か思いついたみたいだぞ……」
「ああ……あの高笑いが響くときって、ろくなことがないからな」
「どうする? 紀元部長に報告を上げるか?」
「いや、やめておこう。巻き込まれたら俺たちにも災難が降りかかるぞ」
黒服の男たちが話しながらモニタールームの前を通り過ぎた時だった。扉が開く音が響くと、部屋の中から白衣に身を包んだ飯島が姿を現した。
「あら? アンタたち、ちょうどいいところにいたわね。紀元をすぐに呼びなさい!」
「は、はい!」
「いい? 五分以内にここに連れてくるのよ。できなかったらどうなるか、わかっているわね?」
「も、もちろんでございます! すぐにお連れいたします!」
直立不動で飯島の言葉を聞いていた男たちは、紀元を探して廊下を駆け抜けていった。
「さあ、楽しい実験の時間が始まるわよ」
飯島の高笑いが廊下中に響き渡り、狂気の宴は本格的に幕を開けようとしていた。
最後に――【神崎からのお願い】
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