第2話 迷宮の怪談?
音羽のおかげで三階層のモンスターが一網打尽にされた直後、瑛士のスマホから通知音が鳴り響いた。
「ん? なんかすごく嫌な予感が……」
スマホを取り出してみると案の定、コメントが猛威を振るっていた。
《チャットコメント》
『ミルキー様、かっこよすぎじゃね?』
『スマホで何か操作していたけど、そんな機能あったんだ!』
『ミルキー様と無邪気にはしゃぐルリ様……尊すぎる……』
『やはりこのカップリングが神! ほんとの姉妹みたい……やはり百合は至高』
『ミルキー様×ルリ様のイチャイチャに挟まる一般男性w』
『ところでルリ様のご主人って何してるの?』
『二階層の爆発に巻き込まれて……安心しろ、二人はオデがぐふふ』
『おい! 百合に挟まろうとしてるやつがいるぞ! 粛清だ!』
『ご主人さん、御冥福を祈ります……安らかにwww』
『ご主人=サンドバッグ説www』
『ルリ様の「ご主人」呼びが尊すぎて耳が幸せ』
『運営に頼んでご主人だけ視点カメラつけてwww』
コメントを見た瑛士の顔色がどんどん赤くなり、思わず大声で叫ぶ。
「コイツラ……人が大人しくしてれば言いたい放題しやがって!」
「ご、ご主人どうしたんじゃ?」
瑛士の叫びにびっくりしたルリが慌てて駆け寄ってきた。
「どこの怪談話だよ! 俺は幽霊じゃねぇ! 配信用のドローンはどこだ?」
「それなら右側にある岩場の辺りを飛んでおったような……」
恐る恐るルリが指さした方を見ると、カメラを積んだドローンが岩の上に鎮座していた。
「あいつか……」
瑛士が無言で近づいていくと、逃げられないように両手で本体を掴み、カメラに向かって吠える。
「誰が死んだって! この通りピンピン生きてるわ! 勝手に人を殺すんじゃねーよ!」
配信画面に瑛士の顔がドアップで映し出され、コメント欄は大喜利状態になる。
《チャットコメント》
『ギャー! 化けて出たwww』
『近い近いwww 男のドアップなんて見たくねwww』
『あら? 近くで見てもいい男ね。スクショ取ってオネエグループに共有したわ』
『南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、この画面下から強い怨念が……』
『おい、誰か胡散臭い陰陽師を呼んでこいwww』
『悪霊退散、悪霊退散、困ったときには~♪』
『こらwww歌うんじゃねーよwww』
『ホラータグ付けとけ運営!www』
『心霊映像として切り抜き決定』
『逆にイケメン角度なのが腹立つ』
『今日から“ドアップの人”って呼ぶわ』
『推し二人と並ぶと存在が罰ゲームw』
『ご主人の顔でスマホ画面割れたんだが賠償請求いい?w』
次々と流れるコメントに訴える瑛士に対し、タブレットでコメントを見ていたルリと音羽は爆笑していた。
「あはは! ご主人と下僕どものやり取りが面白すぎるのじゃ!」
「くっ……ほんと何をムキになってるのかしら」
「あ? 原因はお前らだろうが! なんでちゃんと無事だったと言わねーんだよ!」
二人の笑い声を聞いた瑛士が食ってかかる。
「え? それは黙っておいたほうが面白いじゃない」
「そうじゃぞ。それにご主人……本当に気がついておらんのか?」
「は? 何がだよ?」
ルリが投げかけた言葉の意味がわからず、あっけにとられる瑛士。
「配信を開始したのは音……ミルキー先輩が仮面をつけてからなのじゃ。ドローンカメラはずっと固定されているわけじゃないからのう。要するに最初からご主人の様子は全部写っていたのじゃよ」
「はぁ? それじゃあコイツらは俺が無事だってことを最初から……」
「もちろん知っているに決まっているのじゃ」
ルリから放たれた言葉に膝から崩れ落ちる瑛士。するとコメント欄は再び大盛りあがりになる。
《チャットコメント》
『乙www』
『抜けてるところが面白すぎwww』
『さすがルリ様のご主人www』
『新しいおもちゃが現れたぞwww』
『ふふふ、おちゃめな君もかわいいぞ! 夜道で襲っちゃおうかな♪』
『ご武運を祈る……新しい扉を開いたら報告ヨロwww』
『ふむ……受けなのか攻めなのか非常に興味が湧く……』
コメントを見た瑛士は地面に手をついて項垂れていると、隣に音羽が現れて肩に手をおき、優しく語りかける。
「大丈夫、私が一番よくわかってるから……」
「ありがとう。持つべきものは幼馴染だよな」
「そうよ。全世界にあなたの勇姿を見せつけてやりなさい!」
「そうだな! 名誉挽回だ!」
「わかればいいのよ。じゃあ、まずはお手」
「はい……じゃねーよ! 誰が犬だ!」
瑛士の大絶叫が三階層に響き渡ると同時に、コメント欄も一気に盛り上がる。
「あーひどい目にあった……」
疲れ果てた瑛士が岩に腰掛けながら項垂れていると、仮面をずらした音羽が不思議そうな顔で話しかける。
「そんなに疲れてどうしたの?」
「お前らのせいだろうが! さんざん俺のことを弄びやがって……完全におもちゃにされてるじゃねーか!」
「え? ちょっとおちゃめなジョークだったのに……」
「絶対楽しんでいただろ! それより、素顔を出していいのかよ? まだ配信中だろ?」
素顔をさらしている音羽に疑問を投げかけると、彼女の隣に立っていたルリが胸を張って答える。
「配信ならとっくに終わっているのじゃ。ご主人が項垂れている間にな」
「そういうことはもっと早く言え!」
再び絶叫が響くが、耳を塞いでいた二人には聞こえていなかった。肩で息をする瑛士に対し、音羽が非常とも取れるお願いを言い始める。
「それだけ元気があれば大丈夫ね。瑛士くん、さっきドロップしたアイテムがあるはずだから回収よろしくね」
「え……俺が一人で回収するのか?」
「当たり前でしょ? か弱い女子二人にこんな危険な岩場を捜索しろっていうの?」
「そうじゃぞ、ご主人! さっき言ったじゃろ? 音羽お姉ちゃんとわらわは俺が守るって」
「はいはい、俺が悪かったってことでいいか……ってなるか!」
「そうよ、私のことは命より大事って言ってくれたじゃない!」
「お前らの妄想に俺を巻き込むな!」
二人から次々と放たれる曲解に思わず叫ぶ瑛士だったが、上目遣いで見つめる二人にかなうはずもなかった。
「……なんで俺がこんなことしなきゃいけねーんだよ……」
文句を垂れながら岩の間に手を突っ込み、ドロップアイテムを探す瑛士。すると近くの隙間から光が漏れていることに気が付いた。
「ん? 何が光っているんだ?」
まるで瑛士を呼ぶかのように輝いている物体の正体とは——
最後に――【神崎からのお願い】
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