第8話 違和感の正体と音羽の指示
「ご、ご主人……あの二人のどこがおかしかったのじゃ?」
困惑するルリに、瑛士が低く鋭い声で言った。
「まだわからないか……ルリ、配信で顔出ししているだろ?」
「ああ、特に隠す理由もないしのう。それがどうした?」
「あの二人、お前の配信を見て救われたと言ってたよな?」
「ああ、確かに言っておったが……?」
ルリの反応に、瑛士は深くため息をつき、額を指で押さえた。
「覚えてないのか? 初めて迷宮に来た時、俺が警備員に説教されたろ?」
「ああ、そんなこともあったのう。あれはご主人が悪いのじゃぞ! わらわのソフトクリームを……」
「ソフトクリームのことはどうでもいい!」
「何を言うか! これは重大案件じゃぞ。音羽お姉ちゃんと緊急会議を……」
「やめろ! 話がややこしくなる!」
ルリがタブレットを取り出しかけた瞬間、瑛士が素早くその手を押さえる。
「止めるな、ご主人!」
「ソフトクリームくらい帰りに買ってやる」
「本当じゃな?」
「本当だ。だから話を聞け」
「……まあ、わかったのじゃ」
渋々頷くルリに、瑛士は表情を引き締めて話を戻す。
「警備室に連れて行かれたとき、一緒にいた警備員がいただろ?」
「ああ、わらわの下僕がおったのう。自分のソフトクリームまで差し出す良い下僕じゃった」
「ああ、熱狂的なお前のファンだ。初対面の態度はどうだった?」
「別室に移った瞬間、顔を真っ赤にして涙を……ん?」
瑛士は畳みかける。
「ファンなら、顔を見た瞬間に緊張してパニックになるはずだ。なのにあの二人は?」
「ほぼ無反応じゃったな……」
「だろ? 顔出ししてるお前を知らないなんてありえない。しかも配信で救われたと言うならなおさらだ」
雷に打たれたようにルリの目が大きく開かれる。
「……あの二人が態度を変えたのは、名前を名乗ってからじゃ」
「そういうことだ。しかも先を目指しているのに低階層で罠にかかるなんて不自然だ」
「たしかにじゃ……」
その足元にルナがすり寄る。
「キュー?」
「大丈夫じゃよ。ほら、こっちにおいで」
「キュー」
ルリはルナを抱き上げ、瑛士に向き直る。
「ご主人、あの二人の目的は?」
「まだわからないが、警戒は必要だ」
「そうじゃな……では三階層を攻略するのじゃ!」
槍を手に歩き出すルリ。
「おい、勝手に行くな!」
「心配性じゃな、ご主人は!」
「キュー!」
「……人の話を聞かないやつらだ」
瑛士が追いついた瞬間、息が詰まる光景が飛び込んできた。
「……のう、ご主人。あれは何じゃ?」
「ストーン・ゴーレムの残骸だ。しかも何体も……」
「爆発の原因はあの二人じゃなく、こっちかもしれん」
「あり得るな……だが説明がつかない」
進行方向には胸部に大穴を開けられたゴーレムの死骸がずらりと並んでいた。
「人間の仕業じゃないな」
「わらわもそう思うのじゃ。この傷口から微かに魔力を感じる……」
「そういえばルナがいなくなった後に爆発音がしたな」
「まさか……」
二人の視線が一斉にルナへ向けたが、小さな体はただ首をかしげるばかりだった。
その時、瑛士のスマホが鳴った。
「音羽か……」
瑛士が渋々通話をつなぐと、興奮した様子の音羽が早口でまくしたてる。
「あ、瑛士くん? ルナちゃんを連れて帰る方法が見つかったわよ。何階層にいるんだっけ?」
「本当か? 今は三階層にいるぞ。それでどうしたら良いんだ?」
「三階層ね……ちょうどよかったわ。瑛士くん、嫌かもしれないけど……今から言う通りに協力してくれる?」
「なんか嫌な予感しかしないんだが……」
「ルナちゃんのためだから、協力してくれるよね?」
「いや、まあ……それは協力したいけど……」
「協力するわよね?」
スマホ越しに背筋を押しつけられるような圧力が走る。
「もちろん協力させていただきます……」
「素直でよろしい。そうしたら瑛士くんから見て、四体目のストーン・ゴーレムのあたりに一冊の本が落ちているの」
「一冊の本? まさか、お前……」
「文句を言う暇があるなら、黙って探しなさい」
音羽に促され、瑛士は短く息を吐き、無言で歩き出した。
その時、茂みの影がかすかに動いた。
瑛士たちに忍び寄る影は、もう手を伸ばせば届く距離まで迫っていた。
そして、このあと思わぬ形で賢治と遥香に再会すると予想した者は……誰一人としていなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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