閑話⑰-5 焦るとロクなことがない……
上機嫌で笑い続けていた紀元だったが、部下のある一言が脳裏をかすめる。
(そういえば……迷宮の責任者が奇妙な事を言っていたな。迷惑系配信者とかいう輩が彷徨っているとかなんとか……)
一気に冷静さを取り戻し、椅子に座り直すと部下の言葉を改めて思い返す。
(迷宮管理をしていた前理事どもが、いなくなったことを嗅ぎ回っているとか言っていたな。別に大した問題ではないが、博士があの会話を聞かれていたとしたら?)
さまざまな考えが脳内を駆け巡った時、一番起きてほしくない最悪のシナリオにたどり着く。
(博士の性格を考えれば、自分に危険を及ぼす人物は徹底的に排除する……一番気がかりなのが雫が話した少年の存在だ。俺が遭遇した子たちと特徴がよく似ているし、やけに博士が親しげだったな……いや待てよ?)
今まで断片的な情報だったピースが、パズルのように少しづつ組み上がる。しかし、確証が持てない紀元は、雑念を振り払うように頭を左右に振る。
(豚どもは裏社会ともつながりのあるヤツラだ……突然消えても大騒ぎになることはないが、今回はただの一般人だ。迷宮の中ではなく、ギリギリ外のエリア……配信者であるということは、カメラを持ち歩いているはず)
「これは相当不味くないか? 万が一、鉢合わせして何かが起ころうものなら……すべての計画が頓挫しかねない。博士たちをなんとしてでも止めないと!」
机に両手を勢いよく叩きつけて立ち上がると、そのまま会議室から飛び出す。すると、ちょうど廊下を歩いてきた部下とぶつかりそうになる。
「わ! 本部長、どうされたんですか? いきなり飛び出したら危ないですよ」
「すまない、それよりも博士はどこにいるか知らないか?」
「飯島博士ですか? 白いフードを被った人たちと歩いているのを見たような気がします」
「ほ、ほんとか! どこへ向かって歩いていたかわかるか?」
部下の話を聞いた紀元が、苦虫を噛み潰したような表情で聞き返す。
「えっと、たしか駐車場の方へ向かって……」
「駐車場だな、わかった!」
「え、本部長? どうしたんですか?」
話を遮るように言葉を被せると、部下を押しのける勢いで廊下を走り出す紀元。背後から部下の呼ぶ声が響いているが、彼の耳に届くことはなかった。
(頼む、間に合ってくれ……)
祈るような気持ちで階段を駆け下りて駐車場に続く扉を開けた時だった。紀元の目に飛び込んできたのは、普段飯島が使用する黒い社用車が敷地を出ていくところだった。
「ま、間に合わなかったのか……」
三階から全力で階段を駆け下りたため、息も途切れ途切れになりながら膝をついて項垂れる紀元。彼の願いも虚しく、車のエンジン音はどんどん小さくなっていく。
「クソッ……なんとしてでも止めないといけないのに……今から鍵を取りに戻っていては間に合わないし、どうしたらいいんだ」
苦悶の表情を浮かべて地面に拳を打ち付ける紀元に対し、背後から声を掛ける人物がいた。
「ずいぶん焦っていたみたいだけど、何があったの? 話くらい聞くわよ」
「ありがとうございます……博士にどうしても伝えなければいけないことがあったんですが……」
「ふーん、そうだったのね。でも、まだ諦めるのは早いんじゃないかしら?」
地面を向いたまま悔しそうに話す紀元に対し、励ましの声がかけられる。
「諦めたくないですよ! でも、もう遅いんです……車は出発してしまったし、今から追いかけようにも行き先がわからないので……」
「そうなのね。一つ疑問に思うんだけど、あんたが見たのって、本当に探していた車だったの? 見間違えとかじゃなくて?」
「見間違えるわけがないじゃないですか!」
感情を逆撫でするような言葉を聞いて思わず声を荒げ、振り向いた紀元は声の主を見て思わず固まってしまう。
「だーかーら。車だけじゃなくて、中に誰が乗っていたのか見たのかって聞いてんの」
「は? え? な、なんで博士がここにいるのですか?」
「なによ、私が駐車場にいたらいけないの?」
「いえ、それは違いますが……あれ? まさかドッペルゲンガー?」
「なんでそうなるのよ! 私みたいなナイスバディーで天才的頭脳を持つ美女が二人もいるわけがないでしょうが!」
「……いや、ナイスバディーは盛り過ぎどころでは……」
飯島の顔から足まで視線を動かすと、思わず本音を呟く紀元。しかし、彼女はその言葉を聞き逃さず、鋭い眼光を向けて睨みつける。
「は? あんた……今、すごく失礼なことを言ったわよね?」
「イ、イエ……ナニモイッテオリマセン」
「……まあいいわ。それで私に伝えたいことって何?」
疑いの眼差しを向けながら飯島が問いかけると、我に返った紀元が話し始める。
「そうでした。博士、ダンジョン付近をよからぬ配信者が彷徨いているみたいで……大事になる前にこちらで排除するご相談をしたかったのです」
「あーそのことね。気にすることはないわよ、もう手は打ってあるから」
「へ……もう手は打ってあるんですか……? いや、でも前理事のように迷宮内で処理は難しいかと思いますが」
困惑する紀元が言葉を選びながら問いかけると、飯島は不敵な笑みを浮かべて答える。
「ふふふ、そんなことわかってるわ。大丈夫、私に任せておきなさい、すべてうまくいくようになっているから」
豆鉄砲を食らった鳩のように呆然とする紀元に対し、飯島はそのまま楽しそうに笑い始めた。
彼がその言葉の意味を理解するまでに、時間はかからなかった……
最後に――【神崎からのお願い】
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