第4話 下僕は実はすごい人だった?
「ふはは! カリスマ配信者とは何たるかを思い知らせるいい機会なのじゃ! わらわの大勝利で終わるのは間違いないのじゃがな!」
タブレットの前で身体をのけ反らせ、高笑いが止まらないルリ。その様子を見た瑛士が不思議そうに話しかける。
「何を大声で出して笑ってるんだよ。まあ、おかげで助かったけど……」
「ん? ご主人ではないか! 音羽お姉ちゃんとの話し合いは終わったのか?」
「ああ、まあ……なんというか……」
瑛士が気まずそうな顔で視線を向けた先には、ルナを持ち上げて固まっている音羽の姿があった。
「ん? 音羽お姉ちゃんはどうしたのじゃ?」
「いろいろあるんだよ……まあ、そっとしておいてやってくれ。それよりも、なんでそんなにご機嫌なんだ?」
「これを見るのじゃ!」
自信たっぷりにルリが人差し指を指した先にあったのは、迷宮オープンキャンペーンの第二弾と書かれたページだった。
「なになに? 配信者限定キャンペーンの開催だと?」
瑛士が首をかしげながら画面を見ていると、ルリが腕を組んで話しかける。
「その下が重要なのじゃ。ほれ、はやく読み上げるのじゃ」
「はいはい、わかった。『迷宮攻略配信をする配信者へ、いーちゃんからの挑戦状よ! 一回のリスナー数、コメント数、同時接続数でいーちゃんを上回ることができたら、素敵なご褒美を用意してあげるわ! 私のオフィシャルグッズでも良し、展望フロアを含む飲食店の食べ放題券でも良し……あなたの望みをかなえてあげる! まあ、私を越えることなんてできるとは思えないけどね』……って、なんだこれ」
内容を読み上げた瑛士が大きく口を開けて呆れていると、ルリが腕を組みながら勝ち誇ったような顔で答える。
「ふふふ、わらわの実力を甘く見ておるようじゃのう。目に物を見せてやろうではないか!」
「いやいや、ちょっと待て! 何で最初から勝つことが前提なんだよ」
「は? わらわがいーちゃんごときに負けるとでも思っておるのか?」
「いや、まあ……負けるとは思ってないというか、負けるほうが難しいのは間違いないが……」
瑛士が言い淀んでいると、ルリが大きなため息を吐きながら呆れた様子で話し始める。
「はぁー、ご主人はわかっておらんのじゃ。ヤツの配信に来るのは大半がアンチじゃろ? それに対してわらわの配信に来るのは、熱烈な下僕ども……やる前から勝負は決まっているようなものじゃ!」
「俺だってお前が負けるとは到底思えない……普通に考えればな。だが、相手はあの飯島女史だぞ? 何の対策もなしに負け戦を仕掛けてくるとは思えない……」
言葉を聞いたルリは左手を顎にあてると、俯き加減で考え始める。
「言われてみればそうなのじゃ……世界的な人気を誇るカリスマ配信者が参戦するというのに、こんなキャンペーンを打ち出すのはちょっとおかしいのじゃ」
「誰が世界的なカリスマなんだよ……初めて聞いたぞ」
「ん? ご主人、ちゃんと現実を見た方が良いのじゃ。今や迷宮は国の垣根を超えて、一大観光地になっておるのじゃ。それに、わらわの下僕どもを見るがいい」
ルリが慣れた手つきでタブレットを操作し始めると、配信者専用の管理画面が現れる。そしてその中にあるスパチャの履歴を表示させながら話し始める。
「ほれ、これが下僕どもからのスパチャ履歴じゃ」
「げっ……相変わらずえげつない金額が並んでるな……」
「そんなことはどうでもいいのじゃ。このリストを見て、何も気が付かんのか?」
ルリが不満そうな表情で話した先に表示されていたのは、各リスナーの国別表記だった。
「へえ。さすがというべきか、本当に全世界に向けて発信されているんだな……って、あれ? お前って英語とかで配信したことなんてないよな?」
「もちろんなのじゃ。そんなめんどくさいことまでして、配信したくないからのう」
「そうか……でも、なんで海外のリスナーがこんなにいるんだ?」
瑛士が違和感を感じたのは、海外リスナーが異様に多かったことだ。ルリは彼らと同じ日本語を使って配信をしており、他の言語で話している姿など見たことがなかったからだ。
「ああ、そのことじゃが……どうやら、ある一定以上の下僕を獲得すると、オプションで同時翻訳機能が解放されるようじゃな。わらわの場合は一瞬で条件達成してしまったので、いつからかは定かではないのじゃ」
「……まあ、お前の規格外は今に始まったことじゃないからな……」
「ははは! ようやくわらわの凄さを認めたようじゃな!」
ルリの高笑いがリビングに響き渡ると、画面を触っていた瑛士があることに気が付く。
「な、なあ……ルリ、この、ちょっと読み方がわからない人なんだが……ものすごいスパチャの額になってないか?」
「ああ、その下僕じゃな。油田とかを持っているとか、わけわからんことを言っておるやつじゃのう。信仰する神をわらわにしたいとか、なんとか言っておるのじゃ」
「……いや、それってかなりヤバい話じゃね?」
スマホで何かを調べ始めた瑛士が小刻みに震えはじめるが、ルリは一切気にする様子はない。
「何を言っておるのじゃ? ああ、そういえばこの間も何か言っておったのう。自分は王族だから配信会社を買収して、わらわの物にするとか、寝ぼけたことを言っておったのじゃ」
「いや、それマジだぞ! い、今調べたら……ガチの王族じゃねーか! お前のリスナーどうなってるんだよ!」
「いやいや、ご主人? インターネットの世界じゃぞ。なりすましも大量におるし、気にすることはないのじゃ。それにわらわと商談がしたいのであれば、マネージャーであるご主人とミルキー先輩を通すように言っておいたのじゃ」
「いつからお前のマネージャーになったんだよ! まったく勝手なことしやがって……どうなっても知らねーぞ」
寝耳に水の言葉を聞いた瑛士が大声で訴えかけた時だった。彼のスマホから聞いたことの無い通知音が鳴り響く。
「ん? なんだこれ? こんなアプリは入れた覚えはないぞ……」
不審に思いながらも通知を開いた瑛士は、手の震えが止まらなくなり、スマホを落としてしまった。
突然届いた通知とは、いったい何だったのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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