第5話 迷探偵ルリ爆誕?
瑛士は、ずっと引っかかっていた謎をルリにぶつけてみた。
「そう言われてみれば、不思議じゃのう……」
瑛士の質問を聞いたルリが腕を組みながら考え込み、重苦しい空気がリビングを支配し始める。
(ルリ、何か答えてくれ……)
自らの心臓の音がどんどん早くなるのがわかるほど、追い詰められていく瑛士。永遠とも思える沈黙の時間に耐え切れなくなった時、ルリが顔を上げた。
「ご主人、いろいろ考えてみたのじゃが……」
「ルリの考えを聞かせてくれ!」
いつになく真剣な表情をしたルリの視線が、瑛士に向けられる。息を飲み、心拍数が上がる音を感じながら答えを待つ瑛士。
「うむ、わらわが出した結論じゃが……本当に覚悟は良いか?」
「ああ、どんな答えであろうとも受け入れる準備はできてる。早く教えてくれ!」
「わかったのじゃ……」
目を閉じて小さく息を吐き、真剣な眼差しを向けるルリ。その迫力に圧倒され、思わず息を飲む瑛士。部屋中に張り詰めた空気が漂う中、彼女が口を開く。
「結論から先に言おう。わらわには……わからん!」
「はぁぁぁ!? ふざけるな! あれだけもったいぶっておいて『わからん』ってどういうことだよ!」
返ってきた答えに納得できるわけもなく、怒りを露わにする瑛士。しかし、そんな彼の様子を気にすることなく、ルリは悔しそうな表情を浮かべていた。
「わからんものは、わからんのじゃ。くっ……稀代の名探偵と呼ばれたわらわをもってしても、この謎は迷宮入りなのじゃ……」
「お前は“迷”探偵のほうだろうが! 謎なんて一つも解いたことないくせに!」
「なんと! わらわの活躍を知らぬとは……」
「知らねーよ! だいたい引きこもってゲームか謎配信してるようなヤツが、何を“活躍”してるんだ?」
「しかたがない、教えてやろう! 先日話したドラマの犯人を、誰よりも早く見抜いておったのじゃぞ!」
「それはドラマの話だろうが! 視聴者にもちゃんとわかるように作られてるんだよ!」
「何を言うか? 主人公が解き明かす前に言い当てたのじゃぞ? 下僕どもの『さすがルリ様! 名探偵ですぞ!』と拍手喝采だったのじゃからな!」
「お前のファンって、何か洗脳でもされてるんじゃないのか……」
胸を張って堂々と言い放つルリに対し、がっくりと肩を落として何も言えなくなる瑛士。
「おや、ご主人? どうしたんじゃ? まだ謎は解決しておらんぞ!」
「全部お前のせいだろうが!」
リビングの窓ガラスが揺れるほどの大絶叫が響き渡る。
「危なかったのじゃ……咄嗟に耳を塞いでおらんかったら、大変なことになったのじゃ。ご主人? やけに疲れ果てておるが、大丈夫か?」
「おーまーえーなー」
「冗談はこのくらいにして、本題に入るぞ」
「ふざけんな! 今までの時間を返せ! モーゲンダッツを全部没収するぞ!」
「な、なんてことをするのじゃ! わらわの生命線を奪い取ろうなど……鬼畜の所業にもほどがあるぞ!」
「うるさい! お前がふざけてばかりいるからだろうが!」
「ちょっとしたジョークでないか。そんなこともわからずムキになって……わらわの……あ゛い゛ずを……」
真っ赤な顔で抗議するルリの目には、今にもこぼれ落ちそうな大粒の涙が溜まっていた。
(まずい……さすがにやりすぎたか……)
その姿を見た瑛士は、申し訳なさそうに彼女へ声をかける。
「……わかった、俺がちょっとやりすぎた……」
「わがればよいのじゃ……スカイシールアイス三段重ねで許してやるのじゃ」
「なんでそうなるんだよ!」
「なんじゃ? 不満なのか? 別にかまわんぞ、ちょっと下僕どもに愚痴配信を……」
「私が悪うございました! 頼むからこれ以上、殺害予告とか増えるのだけは勘弁してください!」
光の速さでルリの足元に駆け寄り、見事なスライディング土下座を披露する瑛士。その様子に満足したのか、ルリが勝ち誇ったような顔で話し始める。
「苦しゅうないぞ。さて、本題に入るとするかのう。ご主人、ちょっと手を休めて外の空気でも吸わぬか?」
「いったいどういう風の吹き回しだよ?」
顔を上げた瑛士が不思議そうに聞くと、ルリが人差し指を口に当てて制止する。耳元に近寄ると小声で囁く。
「これから外に出るまでは、わらわに話を合わせてほしいのじゃ。ご主人ならこの意味が分かるじゃろ?」
「……嫌な予感がするが、まさか?」
瑛士が聞き返すと、すぐにルリは部屋の隅にあるコンセントに視線を送る。
「なるほど、そういうことか……ルリ、準備も一段落したことだし、ちょっと外の空気を吸いに行くか?」
「そうじゃな。だいぶ涼しくなってきたじゃろうから、気分転換に行くのじゃ」
わざとらしく声を上げると、リビングから庭へ出る二人。蔵の近くにある木陰まで移動すると、ルリが口を開く。
「ここまでくれば大丈夫じゃろ。おそらく、わらわたちの会話は筒抜けじゃろうからな」
「ああ、まさか盗聴器が仕掛けられている可能性があるとはな……まあ、犯人の目星はついているが」
「そのことなんじゃがな……ご主人が思っているような代物ではなさそうじゃぞ」
「は? コンセントの裏に盗聴器が仕掛けられているんじゃないのかよ?」
ルリの言った言葉の意図が理解できず、驚いて聞き返す瑛士。
「落ち着いてよく聞くのじゃ。盗聴するものは仕掛けられておるが、ただの機械ではなさそうなんじゃ……ほれ、迷宮で見た水の本があるじゃろ?」
「そういえばあったな。何の関係があるんだ?」
「んー、言いにくいのじゃが……アレと同じ魔力反応を感じるのじゃ」
ルリが明かした衝撃の告白に、瑛士は言葉を失う。
誰が、何の目的で瑛士の家に魔法を使ってまで仕掛けたのか?
最後に――【神崎からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




