第1話 新たな仕掛けがログインしたようです
悪夢のような限定配信から一夜明け、朝日に照らされる迷宮をリビングから見つめていた瑛士。
(昨日の配信は……夢じゃない。迷宮で惨劇が起きたのは事実だ)
小さく息を吐くと、左右に頭を振って俯きながら考えを巡らせる。
(決して飯島女史がやったことは称賛されるようなことではないが、処刑されたヤツラはいなくなって当然……むしろ、この世から害悪を消してくれたと感じている自分がいるのはなぜだ? あれほど憎んでいる相手なのに……)
心の中で葛藤が始まり、両手を固く握りしめる瑛士。やり場のない怒りと嫌悪感が徐々に心に広がり始め、目の前にあるガラスに拳をぶつけようとした時だった。
「気持ちはわかるけど、物に当たるのは良くないわよ」
「音羽か……いつからいたんだ?」
瑛士が後ろを振り向くと、白いTシャツにショートパンツを穿いた部屋着の音羽が立っていた。
「ほんと気がついてなかったのね。ずっと前からいたわよ……瑛士くんがソファーで寝息を立てている頃かしら?」
「は? いやいや……俺が起きたときには誰もいなかったはずだし、そもそも扉が開いたら音が鳴るように仕掛けをしておいたはずだが……」
扉を見るが、仕掛けが取り外された様子は無いどころか、誰かが開けたような痕跡すら見当たらない。音羽が言っていることが理解できない瑛士は、不思議そうな顔で問いかける。
「なあ、どう見ても扉が開いた形跡すら無いんだが……お前はどうやって中に入ってきたんだ?」
「えー? それを聞いちゃうの?」
両手を頬に当ててわざとらしく笑顔を浮かべる音羽に対し、怪訝な顔で問い詰める瑛士。
「は? お前は何を……家の中から入るには扉以外は無いし、庭から回ろうにも鍵がかかっているぞ。あとはキッチンにある勝手口になるが、二重ロックが掛かっていて外からの侵入は無理だ」
「そうね。どう考えても正攻法で突破するのは無理よ」
言葉を聞いた音羽が小さくため息を吐くと、腕を組みながら答え始める。
「覚えてない? 瑛士くんがルナちゃんや翠ちゃんが自由に出入りできるように、壁の近くに出入り口を作ったこと」
「ああ、ペット用のやつか? ドアノブを開けて入るなんてできないからな。たしか壁の下を押すと一部が回転して、中に入れるように……って、まさか?」
瑛士が慌てて壁を見ると、音羽が嬉しそうな表情で近づいていく。
「せっかくだからちょっと改造して、壁が反転するようにしちゃった。しかも、私の生体認証しか登録していないからセキュリティもバッチリよ!」
「『セキュリティもバッチリよ』じゃねーよ! いつの間にうちをからくり屋敷みたいにしてるんだよ!」
「え? だって、いざ敵や泥棒ネコが紛れ込んだら……証拠と撃墜は必須じゃない」
「……そもそもここは俺の家なの! それに生体認証の機械なんて、どうやって手配を……」
「あー、これは魔法だから大丈夫。ちょっと術式が複雑だから、ルリちゃんに手伝ってもらったのよ!」
「テメーも関与していたのか! ルリー!」
家を揺らすほどの瑛士の大絶叫が響き渡るが、音羽は涼しい顔で話し続ける。
「そんな大声出すほどのことかしら?」
「当たり前だろうが! 知らないところでどんどん家が改造されてるんだぞ?」
「あら? 別に日常生活に影響があるようなことじゃないし、なにか問題でもある?」
「う……いや、問題があるとはそういうことじゃなくてだな……」
「そもそも、瑛士くんが悪いんでしょ?」
「なんで俺が悪いことになってるんだ?」
言葉を聞いて心当たりがなさすぎる瑛士が首を傾げていると、急に真顔になった音羽が淡々と話し始める。
「まさか身に覚えがないとか言わないわよね?」
「いや、心当たりなんて……」
「この間、私に隠れてスパチャにメンバーシップ、さらには別サイトで複数の有料会員にまでなっていたわよね? モリライブとかいうヤツラの」
「……いや、それは推し活の一環というか……」
瑛士が言い淀んでいると、音羽の目が鋭く光り、さらに畳み掛ける。
「まあ、スパチャとメンバーシップくらいはわかるわよ。限定の配信とか、メンバーにしかわからない情報もあるからね。でも……なんで複数のサイトで有料会員にまでなる必要があるのかしら?」
「い、いや……それは同志との語り合いというか、表では話せないこともたくさんあるわけで……」
「ふーん……表では話せないことね~。じゃあ、有料会員になっているサイト……ルリちゃんを呼んで一緒に鑑賞しても問題ないわよね?」
言葉を聞いた瑛士の顔が一気に真っ青になると、大量の汗が額から流れ落ち始める。
「い、いや……ルリにはまだ早いというか、刺激が強いというか……」
「あら? 二次創作はありがたいと思っているわよ。だけど……瑛士くん、何歳だっけ?」
「……」
「思春期の男の子だし、興味があるのは仕方ないけど……女の子と一緒に同居していながら、そういうものを見るってね?」
「い、いや……それはなんというか……」
「いいのよ。私は理解のある方だから、ね? でもよかったわ、瑛士くんが違う道に目覚めていたんじゃないか心配だったし」
次々と放たれる言葉が瑛士の心を抉り、口から魂が抜け始めようとする。しかし、音羽の追撃はとどまることを知らない。
「大丈夫よ、瑛士くん……たとえ恋愛対象が同性や幼女に向かったとしても、私が正しい道へ戻してあげるから……たとえ精神が崩壊したとしてもね!」
「ちょっと待て! あらぬ誤解をされかけているんですが? それに精神を崩壊させるってアカンだろうが!」
「任せて! 私は心が広く、各方面に話が分かるって有名だから!」
「何が大丈夫なんだよ!」
瑛士の絶叫が再び響き渡ると、リビングに向かう足音が大きくなって勢いよく扉が開かれる。
「あーもううるさいのじゃ! わらわの安眠を妨害するとは何たる事態なのじゃ! 変な通知が来て気分が悪かったところに、大声を出すんではないのじゃ!」
「キュー! キュキュ!」
ピンクのパジャマを着て脇にタブレットを抱えたルリと、怒り心頭で鳴き声を上げるルナがリビングに入ってきた。
「あ、いや、起こすつもりはなかったのだが……」
あまりの剣幕に瑛士が後退りしながら言うと、音羽が優しく声を掛ける。
「ごめんね、ルリちゃんとルナちゃん。この重罪人にはちゃんと償わせるから」
「いやいや、お前のせいだよな?」
必死に訴えかける瑛士を無視し、頬を膨らませて怒るルリたちに問いかける。
「そういえばルリちゃん、さっき変な通知が来たって言っていたけど……何があったの?」
「そうじゃった! これなんじゃよ」
脇に抱えたタブレットをルリが操作すると、覗き込んだ音羽が思わず声を上げる。
「え? 『迷宮攻略イベント開始』どういうこと?」
画面に映し出された文字に言葉を失う音羽。
通知の内容とはどんなことなのか――?
最後に――【神崎からのお願い】
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