閑話⑯-4 峯川の正体
飯島の衝撃的なデータを発見してから数日後、本部長室の机に突っ伏していた紀元。抜け殻のようになっていると、扉をノックする音ともに声が聞こえてくる。
「本部長。決裁を頂きたいのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「峯川か……すまないが、ちょっと待ってくれ」
「わかりました、失礼します」
紀元の返事を無視するかのように扉が開き、一人の女性社員が入ってくる。
「お前な……ちょっと待ってろと言ったのが、聞こえなかったのか?」
「すいません、外が騒がしくてしっかり聞こえませんでした。それにしても……昼間っから机に突っ伏して寝ていられるなんて、いいご身分ですね」
「うるせーよ……こっちはお前と違って忙しいんだよ。いくら従妹とは言えども会社では本部長と呼べといってるだろうが、雫!」
めんどくさそうに顔を上げると、書類を片手に睨みつける雫に、苦言を呈する紀元。
「ハイハイ、ワカリマシタヨーホンブチョウサマ」
「絶対わかってないだろ……まったく、なんで俺のいる会社に転職してきやがるんだよ」
「別にいいでしょ? 実力で入ったわけだし、悟兄さんのコネは使ってないし」
「お前が良くても俺が困るんだよ! ただでさえめんどくさい案件だらけで頭が痛いのに……」
従姉妹の雫が、紀元のいる会社に転職してきたのは想定外だった。
「はぁ……あの時、俺が面接をしていれば……」
頭を抱えて大きなため息を吐くと、一年前の出来事を激しく後悔していた。
紀元が同席しなければならない急な出張が入ったため、最終面接の日程を変更しようと人事に相談していた時だった。
「ふふふ、全て私に任せておきなさい!」
突然、紀元の背後に現れた飯島が話に割り込んできた。
「博士……日程を変更していただくので大丈夫です」
「なによ? この私が直々に面接してあげるって言ってるの? むしろ光栄に思われるべきよ!」
「お忘れですか? 以前面接された時、顔が気にくわないとか話がつまらないとか、とんでもない理由で全員不採用にしたじゃないですか」
「はあ? 何が問題なの?」
「大問題ですよ! ろくに話も聞かずに、その場で追い返したじゃないですか!」
鬼の形相で紀元が飯島に詰め寄るが、当の本人はどこ吹く風といったように涼しい顔をしている。
「気に入らないから仕方ないでしょ? 問題を起こされるより、よっぽどいいじゃない。人事としても助かるんでしょ?」
「あ、え、まあ……正職員の解雇となると、いろいろ問題が起こるので……」
急に話を振られた人事担当者が、困惑した様子で答える。その言葉を聞いた飯島が、胸を張って声を上げる。
「ほらごらんなさい! 私は人事も助けたのよ? 正しい経営判断だと言ってほしいわ」
「……もういいです」
何を言っても論破される様子を見て、反論する気をなくした紀元が、肩を落としながら答える。
「最初から素直になればいいのよ。紀元、あんたは安心して出張に行ってきなさい。あ、お土産は忘れないでよ」
「あ、ちょっと博士!」
上機嫌になった飯島は高笑いしながら部屋を出ていった。項垂れる紀元を見て、人事担当者が恐る恐る声をかける。
「本部長……私たちも、何とか博士が暴走しないように見張ってますから」
「た、頼む……優秀な人材を失うわけにはいかないからな」
無事出張を終えて会社に戻った紀元が人事に面接の件を聞いたが、箝口令が敷かれているのか、誰も答えようとしなかった。それから半年後、廊下で後ろから声をかけてきた人物の姿を見て、膝から崩れ落ちたのだった。
「まあ、私にとっては好都合だったけどね。悟兄さんが面接官だったら、間違いなく落とされたでしょうし」
「当たり前だ! 俺は身内と一緒に働くのは嫌なんだよ!」
「まあ、いいじゃない。私も憧れの人に面接をしてもらえたし、こうして働いているんだから。それに苗字も違うし、普段接点も無いんだから、気にすることじゃないでしょ?」
「いつかお前がボロ出さないか、ひやひやなんだよ! それにあの人はやめといたほうが……」
紀元が呆れたような表情で見上げると、殺気のこもった視線を向ける雫。
「なに? 私の尊敬する人をバカにするって言うの? いくら悟兄さんと言えども……」
「わかった、わかったから落ち着け……お前の独占欲は尋常じゃないんだからな」
怒り狂った犬のように歯ぎしりをして、唸り声を上げる雫。彼女と視線を合わせないように顔を背けた時、紀元のスマホが通知音を鳴らす。
「はい、紀元です……はあ、今からですか? わかりました、すぐ行きますので」
大きくため息を吐くと、未だ睨みつける雫に話しかける。
「呼び出しの電話が来たから、俺はもう行くぞ。あとで書類は届けてやるから、机の上に置いておいてくれ」
「はーい、わかりました。急な呼び出しって、悟兄さんもちゃんと仕事してるんだね」
「当たり前だろうが……早く行かないとまずい相手なんだよ」
立ち上がると、早足で部屋から出ていこうとする紀元。
「誰から呼び出されたの? 本部長様を呼び出すなんて、よっぽどじゃない?」
「そりゃそうだろ……お前の尊敬するお方だよ」
心底めんどくさそうに答えると、そのまま部屋を出ていく紀元。残された雫が鬼の形相で睨みつけていたとも知らず……
「……やっぱり悟兄さんは敵ね」
肩を震わせながら、歪んだ光を宿した目で扉を睨みつける雫。
「ふふふ……ご安心くださいませ、飯島博士。必ず魔の手から救い出しますから……」
不敵な笑みを浮かべた雫が盛大な勘違いをしていると、紀元が知るのは、まだ先のことだった……
最後に――【神崎からのお願い】
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