第4話 ルリの過去
「そういえば……何者かに封印されていたって言ってたよな? この切れ端と何か関係があるのか?」
「……わらわは一度、バラバラにされておるのじゃ……」
「いや……意味がわからねぇよ。ルリはここにいるじゃないか!」
ルリの言葉に驚き、声を張り上げる瑛士。しかし彼女は気にするそぶりも見せず、淡々と語り続けた。
「ご主人、わらわを最初にどこで見つけたか覚えておるか?」
「最初って……倉庫を整理していて、見覚えのない古書を見つけたな。たしか雷に打たれて……まさか?」
「その通りじゃ。わらわの本体、『神々の魔導書』という禁忌の書物じゃよ」
ルリが右手を上げると、まばゆい光と共に一冊の古書が現れる。茶色の革で覆われたそれは、鎖のようなものが複雑に絡み合っていた。
「解呪」
唱えた瞬間、本が光を放ち、鎖が音を立てて解け、本に吸い込まれるようにして消えていった。本がひとりでに開き、勢いよくページをめくり始めるが、途中で止まってしまう。
「やはり……欠損部分が多すぎるからじゃな……」
悲しげに呟きながら本を閉じたルリは、瑛士の方へ向き直る。
「ご主人、迷宮で見つけた切れ端を本の上に置くのじゃ」
「ああ、これでいいのか?」
「うむ。その上に、ご主人の手をかざしてくれ」
「わかった」
言われた通りに手をかざすと、瑛士の手が虹色のオーラに包まれ、本が共鳴するように黄金色に輝き始めた。
「おい、これ大丈夫なのか? 爆発とかしないだろうな?」
「ご主人とわらわの魔力が共鳴し始めたのじゃ。……ちょっと失礼するぞ」
ルリが瑛士の手を握ると、輝きがさらに強まり、切れ端が本の中に吸い込まれていく。完全に吸収されると光は収まり、茶色の本が宙にふわりと浮かんでいた。
「いったい何が起きたんだ……」
困惑する瑛士を横目に、ルリは本を手に取りページをめくる。
「一部じゃが、修復できたのじゃ。おそらくご主人の魔力も少し増えておるはずじゃよ」
「魔力が増えてる? どういうことだ?」
「あの切れ端は、神々の魔導書の一部……どうやら迷宮出現の儀式に使用されたようじゃ。本来なら完全な書が必要じゃったが、何らかの意図でわざと失敗するようにページを切り取ったようじゃな」
「わざと失敗させるため? いったい誰が、何のために……」
「わらわにも分からん。はっきりしているのは、わらわを研究所から持ち出したのがご主人の父上じゃったこと。そして……精巧な偽物まで用意していた」
「ますます意味が分からん……なんで親父はそこまでやる必要があったんだよ……」
ルリから語られた新たな事実に、瑛士は混乱を隠せなかった。
「父上が何を考えていたのかは分からん。わらわはすでに封印された後じゃったからな。ただ一つ言えるのは、迷宮の中に意図的に閉じ込められたということじゃ」
「は? 誰かに閉じ込められたんじゃなくて、自分からってことか?」
「あくまで推測じゃがな。欠損部分が多すぎるせいで、断片的な情報しか残っておらん。バラバラになったページが集まれば、全ての謎が明らかになるはずじゃ」
「なるほど……その欠けた部分は迷宮内に散らばってるってわけか」
「ご名答じゃ。モンスターに化けているかもしれんし、どこかに埋まっているのかもしれん。未開拓の階層に隠されておる可能性も高いのじゃ」
「……ほんと面倒なことをしてくれたぜ、あのクソ親父……」
吐き捨てるように言う瑛士。その右手を、ルリがそっと握りしめる。
「ご主人、お願いじゃ……わらわの欠片を一緒に探してほしいのじゃ……嫌な思いをさせてしまうかもしれんが……」
瑛士は彼女の方へ視線を向ける。うつむいたままのルリは肩を小さく震わせ、必死に訴えようとしていた。
「俺が協力しないなんて、いつ言った? こうなったらとことん付き合ってやるよ。親父にも聞きたいことが山ほどあるしな」
「ほ、本当か? でも……いつかは魔法を……」
「覚悟はできてるさ。いざという時は読書魔法を使う。でも、本当に必要な時だけな」
「あ、ありがとうなのじゃ!」
顔を上げたルリの目には涙が浮かび、そのまま瑛士に抱きついた。彼女が落ち着くまで、瑛士は優しく受け止めていた。
「あー、スッキリしたのう。ありがとうなのじゃ、ご主人」
「別に構わねーよ。俺も迷宮を攻略する目的がはっきりしたしな」
「うむ、ご主人の配信者への道も明るいということじゃな!」
「は? 俺は配信者になるつもりはないぞ」
「今さら何を言っておるのじゃ……わらわの配信に参加した時点で、すでに手遅れじゃ」
「そうだった……」
これまでの経緯を思い出し、肩を落とす瑛士。
「まあ、心配することはないぞ。ご主人の名前まではまだ割れておらんからな」
「そうだな。ん? 俺の名前はバレてないって?」
「そうじゃろ? わらわが一度でも名前で呼んだことがあったか?」
ルリの言葉に、瑛士は耳を疑った。
「な、なあ、一つ聞きたいことがあるんだが……」
「どうしたのじゃ?」
「なんで『ミルキー・マジカル』は俺の名前を知ってたと思う?」
瑛士の放った一言が、リビングの空気を一変させた。
なぜ瑛士の名前を彼女が知っていたのか?
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