第10話 狂気の宴が幕を開ける
音羽とルリが呆然と立ち尽くしていた時、ソファーで気絶していた瑛士が意識を取り戻す。
(いってぇ……音羽のヤツ、本気で殴りやがったな。ん? 飯島女史の配信が始まったか? ……下手に起きられる雰囲気でもないし、しばらく気絶したふりをしておくか)
薄目を開け、音羽たちに気が付かれないようにテレビを見る瑛士。すると、画面の中からいーちゃんのテンションの高い声が響く。
「コメント開放する前に、いーちゃんが二人に質問しちゃうね! 素直に答えてくれるといいな。じゃあ、迷宮と音声を繋いじゃうよ! もしもーし」
アバターのいーちゃんが手を振ると、迷宮内で椅子に縛り付けられた男性たちの怒号が聞こえてきた。
「おい! わしらをこんなところに縛り付けて何をするつもりだ!」
「そうだぞ! こんな目に合わせて、ただで済むと思うな!」
「ふふふ、ずいぶん元気なようですね。じゃあ、自己紹介とかお願いできるかな?」
怒り狂う男性二人の声などまるで無視して、いーちゃんがテンション高く問いかける。
「貴様……ふざけるのも大概にしろ!」
「わしらのような上級国民を連れ去るとは何事じゃ! ふざけた声で話しやがって……姿を見せろ!」
「あれれ? おかしいな、お名前を聞いたのに答えられないみたいだよ。良い子のみんなはこんな大人になっちゃだめだからね」
まったくかみ合わない様子を見て、ルリが言葉を漏らす。
「相手が怒り狂うのもしょうがないのじゃ。いきなり縛り付けられて、自己紹介しろって無理がありすぎるのじゃ」
「絶対わざとやっているでしょ……もうすぐ飯島女史の本性が現れそうだけど」
画面を見ていた音羽が呟いた直後、男性の一人が地雷を踏み抜いた。
「ふざけるな! 誰のおかげで研究ができていると思っているんだ? 貴様の会社なんぞワシが声を上げれば即潰せるんだぞ、飯島博士よ」
「……へぇ、人が優しく接していれば調子に乗りやがるのね。ほんと心の底から腐った連中だわ」
「正体を現しよったな。さあ、どうするんだ? 今なら許してやらんことも無いぞ?」
椅子に縛られた男性たちが下品な笑みを浮かべ始めると、先ほどまでとは全く違う低い声で、いーちゃんが話しかける。
「私の会社を潰すですって? 面白いことを言うわね……自分たちがどんな状況に置かれているのか、よく考えたほうがいいわよ?」
「は? 笑わせるな! 迷宮管理組合の前理事長だぞ? 議員や各業界の重鎮とつながりのあるワシを脅すとは、いい度胸だ!」
「これだから勘違い研究員は困るんじゃ。副理事とはいえ、裏世界にも顔が効くワシに立てついたことを思い知るがよい」
聞くに堪えない笑い声をあげる男性二人に対し、いーちゃんは声色一つ変えることなく淡々と事実を突きつける。
「わざわざ自ら告白してもらえるとはありがたいわ。みんな、ちゃんと聞いていたわよね?」
「は? 貴様は何を言って……」
「あ、言い忘れてた。この様子は配信してるのよ、インターネットを通じてね」
いーちゃんの言葉を聞き、男性たちの顔色が赤色から一気に青ざめる。
「あと、自分たちが今どこにいるのか、わかってるかな? ここは迷宮の二階層、しかもど真ん中になるんだよね。ある特殊な方法で、あなたたちにはモンスターが近づけないようにしてあるけど……よく周りを見渡した方がいいわよ」
話を聞いた男性たちが慌てて辺りを見回すと、数メートル離れた位置でホーンラビットたちが取り囲んでいた。明らかに殺気立ち、彼らを敵として見なしているようだ。
「お、おい……やけに好戦的に見えるのだが……」
「そりゃそうでしょ。縄張りのど真ん中で、彼らの主を倒しちゃってるわけだし。足元に転がってるでしょ?」
恐る恐る男性たちが足元を見ると、一回り大きなモンスターが胸を撃ち抜かれた状態で倒れていた。
「ひっ! な、なんでこんなところに!」
「お、おい! た、助けてくれ! 金か? 金ならいくらでも払うぞ!」
「貴様、理事長であるワシを差し置いて命乞いか! な、何が欲しいんだ?」
先ほどまでの威勢は消え去り、大量の冷や汗を流しながら暴れ出す男性二人。自分だけでも助かりたいという気持ちが先行し、醜い言い争いを始める。
「ワシの力で引き抜いてやったというのに、何たる醜態だ!」
「やかましい! いつも偉そうにふんぞり返って、何かあれば全て金で解決しようとする汚い豚が!」
「なんだと? 貴様こそ忘れたのか? 罪に問われぬよう、全てもみ消してやったことを!」
「あ? そんなもの、今となっては関係ないわ! チッ、こんなことになるのであれば、さっさと消しておけばよかった」
「貴様……無事に生きていけると思うな!」
椅子に縛られていることなど忘れたかのように、口論を続ける二人。ここでしびれを切らしたいーちゃんが、一喝するように声を上げる。
「あーもう見てられないわ! ホント見苦しいったらありゃしない。せっかく視聴者のみんなと楽しく質問タイムをしようと思ったけど、気が変わったわ」
冷たく言い放つと、今度はリスナーに向けてテンション高く話しかける。
「みんな、ごめんね! 楽しみにしていた質問タイムだけど……まともに答えてくれなさそうだから、急遽中止になっちゃった。その代わりに、今から楽しいゲームを始めようかなって思うんだ」
いーちゃんの切り替えの早さに、配信を見ていたルリが思わず声を漏らす。
「いったい何を考えておるんじゃ……」
呆然と立ち尽くすルリを見て、険しい顔をした音羽が話しかける。
「ルリちゃん……これから起こることを目に焼き付けておいて」
「え? それはどういう意味なのじゃ?」
意味が分からずルリが聞き返すと、苦虫を噛み潰したような表情の音羽が声を絞り出す。
「飯島女史が普通のゲームなんてやるわけない……わざわざ迷宮に拉致してまでね」
「それはいったい……」
ルリが聞き返そうとした時、画面の中からとんでもない発言が飛び出す。
「さあ、彼らには鬼ごっこを楽しんでもらうわね!」
いーちゃんが宣言すると、画角が切り替わる。画面に映し出されたのは、目が血走って角が光るホーンラビットの姿だった。
「ふふふ、みんな殺る気満々ね! 題して『ホーンラビットから逃げ切ろう』よ」
「な、なんじゃと!」
いーちゃんの発言を聞き、驚いて固まってしまうルリ。
本性を現した飯島が仕掛ける狂気の鬼ごっこ――男性たちの運命はいかに?
最後に――【神崎からのお願い】
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