第9話 やはりトラブルしか起きなかった
音羽たちが呆然とテレビを見ながら立ち尽くしていると、再び甲高い声が響く。
「あーあーもう大丈夫よね? 早く私のアバターをお披露目できるようになんとかしなさいよ! みんな、おまたせ! 謎多き天才美女・いーちゃんの降臨だよ!」
「じ、自分で天才美女とか言ってるのじゃ……頭は大丈夫なのか?」
「ま、まあ、天才なのは間違いないけど、明らかに災害の方の天災よね……」
音羽とルリが引きつった笑みを浮かべていると、画面が切り替わり、アイドル衣装に身を包んだ二次元のキャラが映し出される。
「これで映ったかしら……うん、大丈夫そうね。はーい、限定配信に招待された幸運なあなたにだけお披露目よ! ここからはいーちゃんと一緒に楽しみましょう!」
着物のような洋服に腰まである黒髪を靡かせながら一回転し、画面の向こうにウインクを飛ばす。その様子を見た音羽は、嫌悪感が天元突破したような表情でルリに話しかける。
「ルリちゃん、ごめんなさい。最後まで耐えられる自信がない……今すぐにでも画面を破壊したい衝動に駆られているわ」
「気持ちはすごくよく分かるのじゃが、まだ何も始まってないのじゃよ。とりあえず落ち着いてほしいのじゃ」
「そうね、まだ動くのは早いわ。もう少し様子を見てから決めましょう」
「……」
音羽の言葉を聞いたルリは、何も言い返すことができなかった。言いたい放題言われているなど知る由もなく、画面上ではいーちゃんが必死に話し続けていた。
「今回の配信は、私の独断と偏見で選んだ人だけの特別回なのよ。とっても光栄なことなんだからありがたく……ちょっと誰? 同接がひとり減ったじゃない! 選んであげてるんだから最後まで見なさいよ!」
「……これは即ブラバしたくなるのじゃ。しかも、どこかで見たことあるようなアバターじゃしな」
呆れ果てたルリが思わず言葉を漏らすと、すかさずいーちゃんが声を上げる。
「ちょっと、そこのあんた……切られてもしょうがないとか思ったでしょ! それに、このアバターがパクリとか思ったわよね!」
「げっ、なんでわかったのじゃ?」
呟いた言葉を言い当てられたルリが驚いていると、音羽が右手を肩に置きながら優しく語りかける。
「ルリちゃん、聞こえてないから大丈夫よ」
「で、でも見事に言い当てたのじゃぞ? どこかで聞かれていたとしか……」
「昔から被害妄想の激しいヤツだったからね。その証拠にコメント欄も閉じてあるでしょ?」
音羽が指差したところを見ると、配信中のコメント書き込みを禁止するメッセージが表示されていた。
「ありゃ? 配信コメントを閉じるとはけしからんのじゃ。下僕どもとコミュニケーションを取りながら配信するから面白さがあるというのに」
「ルリちゃんや私だと面白くなるけど、飯島女史の場合はアンチコメばかりだからね……」
「むう、理解に苦しむのじゃ」
フグのように頬を膨らまして不服そうに声を上げるルリ。
(ほんと、ルリちゃんは可愛いわね)
彼女の様子を見て音羽が微笑ましく見つめていると、再び画面の中から声が響く。
「見なかったことを後悔するといいわ。さーて、今日は特別な配信ってことでゲストも呼んでるの。誰がきたか、みんなわかるかな?」
笑顔で語りかけるが、コメント欄を閉じてあるせいで誰も答えない。反応が一切返ってこないこと気付いたいーちゃんが、早口になる。
「あれれ? なんでみんな答えないのかな?」
「……コメント欄を閉じてるからでしょ。バカなの?」
蔑むような目で画面を見つめて音羽が呟くと、徐々に苛立ち始めたいーちゃんが声を上げる。
「おかしいな? みんなノリが悪いよ!」
「別に引っ張る必要もないじゃろ……早く言ってくれんかのう」
興味が失せたルリが大きなあくびをした時だった。甲高い金切り声とともに、飯島が誰かに詰め寄る声が聞こえてくる。
「ほんとノリが悪い……って、ちょっと! コメント欄が閉じてるじゃない! どうなってるのよ!」
「え、あ、それは……最初の指示で、許可があるまで解放するなとおっしゃられたので……」
「はあ? 何を言っているの? スピーカーに上げる人間は許可制だけど、コメントまで閉じろとは一言も言ってないでしょうが!」
「そ、そんなことを言われましても……こちらの指示書に書かれた通りに実行したので……」
「ちょっと見せなさい!」
スタッフと思わしき男性から書類らしきものを奪い取る音が聞こえ、しばし沈黙が訪れる。乱暴に何かを叩きつける音とともに、怒鳴りつけるような声が響く。
「何よこれ……『絶対コメント欄が荒れるから、解放するのは博士が気がついてから』ってどういうことよ! 今すぐ解放しなさい!」
「し、しかし……この状況で解放するのは……」
「私がいいって言っているのが聞こえないの? 賞賛のコメントであふれかえるに決まってるでしょ!」
「わ、わかりました。正解を発表した後の質疑応答のタイミングはどうでしょう? ゲストを交えてのほうが盛り上がる……かな、なんて……」
男性が恐る恐る提案すると、沈黙した重苦しい空気が流れる。すると突然、上機嫌になった飯島が声を上げる。
「いいじゃない! あなた、やるわね。それでいきましょう。じゃあ、正解発表を始めるから頼んだわよ」
「わ、わかりました」
震える声で了承した男性の声が遠くで聞こえると、先ほどとは打って変わって、テンション高く笑顔のいーちゃんが画面に現れる。
「ごめんねー、ちょっとトラブルがあったみたい! 気を取り直して正解を発表いっきまーす!」
「い、一体、何をわらわたちは聞かされておるのじゃ……」
「さ、さあ……理解したら負けのような気がするわ」
ドン引きしているルリと音羽だが、次の一言で言葉を失って固まってしまう。
「正解は……前迷宮監理団体の理事長と副理事長でした! 彼らは特別に、迷宮の二階層のど真ん中にお越しいただいております!」
映し出されたのは、草原の真ん中に設置された椅子に、縛り付けられた脂ぎった男性二人。必死に何かを叫んでいるように見えるが、音声が切られているせいで何も聞こえなかった。画面右下に小さくなったいーちゃんが現れ、笑顔で語りかける。
「ふふふ、すごく楽しそうに何かを叫んでいるわね。よっぽど、みんなとお話したいのかしら?」
怒り狂った姿が映されているが、そんなことはお構い無しに話を続ける。
「さあ、コメント欄も解放するわよ! さあ、みんなも一緒に色々聞いちゃおうね。面白いゲームも用意してるから、お楽しみに!」
どう見てもただ事ではない状況に、呆然と立ち尽くすルリと音羽。
ついに幕が開ける――狂気の宴が、飯島の手によって……
最後に――【神崎からのお願い】
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