第7話 ルリの破壊力は最強でした
昼ご飯を食べ終わり、音羽が洗い物をしていると、ソファーに寝転んでいたルリが大きな声を上げる。
「あー! また失敗なのじゃ!」
「どうしたのルリちゃん? いきなり大きな声を上げて……」
驚いた音羽が手を止めてリビングを覗き込むと、ルリと目があった。
「あ、音羽お姉ちゃん。WonderTAILのノーマルルートのボスが強すぎて、何度やってもゲームオーバーになるのじゃ……攻撃しても体力ゲージが全然減らないし、ものすごい弾幕で、どう避けていいのかもわからないのじゃ」
「あー、あのボスか……たしかにすごい弾幕だったような気がするわ」
「そうなのじゃ。ぜひとも開発に関わったという音羽お姉ちゃんに、攻略の仕方を教えてほしいのじゃ」
小動物のように潤んだ瞳で見上げるルリの視線に、音羽の心が揺れ動く。
(う……この視線は反則でしょ。可愛すぎるし、今すぐ抱きしめたくなるじゃない! でも……私が開発に関わったのって虐殺ルートだけなのよね。テストプレイで他のルートもやったけど、ノーマルルートのボスは楽勝だったと思うんだけど……仕方ない、ここはお姉ちゃんとしての威厳を見せつけてあげましょう!)
「いいわよ、ルリちゃんの頼みなら仕方ないわ。私がなんとかしてあげましょう!」
「さすが音羽お姉ちゃんなのじゃ! ぜひともよろしく頼むのじゃ!」
飛び上がるようにソファーから降りると、一瞬で音羽のもとに駆け寄っていくルリ。
(あーもうダメ! 子犬のように思いっきり尻尾を振っている幻影が見える……撫で回して、抱きしめて、頬ずりしたい!)
目を輝かせて見上げるルリの様子を見て、悶え死にそうになる音羽。そんな彼女の様子を見て、不思議そうに問いかける。
「音羽お姉ちゃん、どうしたのじゃ? 急に両手で顔を押さえて、しかも真っ赤なのじゃ! もしかして調子が悪くなって……大変なのじゃ! ご、ご主人を呼びに行かねば!」
顔を真っ青にしたルリが慌てて瑛士を呼びに行こうとした時、音羽が右手で肩を掴みながら話しかける。
「ルリちゃん……瑛士くんは呼ばなくても大丈夫よ」
「じゃ、じゃが……音羽お姉ちゃんに万が一のことがあったら」
「ほんとに大丈夫だからね。不可抗力というのか……ほんのちょっと休めば回復するから」
左手で口元を押さえて顔を伏せ、肩を震わせながら必死に伝える音羽。彼女の様子を伺いながら、納得していないような表情で答えるルリ。
「うーん……音羽お姉ちゃんがそこまで言うのであれば、わかったのじゃ。でも、調子が悪くなったらすぐに言ってほしいのじゃ!」
「う、うん……わかったから、わかったから……」
「ほんとにほんとじゃぞ! わらわの大切なお姉ちゃんなんじゃから!」
潤んだ瞳で必死に訴えるルリを見て、音羽の心は完全に撃ち抜かれた。
(あーもうダメ……そんな目で見られたらもう耐えられないわ)
その場に膝から崩れ落ちる音羽。だんだん呼吸も荒くなり、心配したルリが声をかける。
「音羽お姉ちゃん! ほんとに大丈夫なのか? しっかりするのじゃ!」
「ルリちゃん……お願いがあるのだけど、少しリビングで待っていてくれないかしら?」
「わ、わかったのじゃ。ん?」
返事をすると同時に、リビングに置いてあったタブレットから通知音が鳴り響く。慌てて駆け寄ったルリが確認すると、申し訳なさそうに話しかける。
「音羽お姉ちゃん、申し訳ないのじゃ。どうやら限定配信を見るにはログインが必要だと通知がきてしまったのじゃ。ちょっと自室のパソコンで操作してくるのじゃが、すぐ戻るからのう」
「う、うん、わかったわ。まだ時間もあるから、そんなに急がなくても大丈夫よ」
「わかったのじゃ。何かあったら大声で呼んでほしいのじゃ」
ルリがそう伝えると、急ぎ足で自室へ向かう。彼女の足音が聞こえなくなると、我慢していた音羽の感情が爆発した。
「あーもう、ムリムリムリムリ! ルリちゃん可愛すぎでしょ!」
リビングの床を転げ回り、音羽が大声で叫び始める。
「あんな『音羽お姉ちゃん』って小動物のような目で見上げられて、我慢なんてできるわけがないでしょうが! 可愛すぎるのよ! もう、すぐにでも抱きしめて撫で回したいに決まってるじゃない!」
仰向けに止まった音羽が大の字になり、手足をジタバタさせながら悶え苦しんでいると、静かにリビングのドアが開く。
「……」
視線に気がついた音羽が顔を上げると扉が半分ほど開いており、能面のような顔をした瑛士が無言で見つめていた。
「……瑛士くん、いつからそこにいたの?」
「大丈夫だ……俺は何も見ていないからな……」
静かに扉を閉めようとする瑛士のもとに、音速を超える速さで駆け寄ると茹でダコのような顔で問いかける音羽。
「ねえ、なんで静かに扉を閉めようとしているの?」
「気のせいだ。飯島女史の配信が始まるまで、部屋でゆっくりしてるよ」
「ちょっと待ちなさい……正直に言って……見たんでしょ?」
「何のことかさっぱりわからんな。音羽が奇声を発しながら床を転がり回ってるところなんて、見てないぞ」
瑛士の言葉を聞いた音羽が俯きながら問いかける。
「……いつからそこにいたの?」
「いつだったかな。ルリが『音羽お姉ちゃんに教えてほしいのじゃ』って言ったところなんて、聞いてな……」
「最初から聞いていたのね! これはもう記憶を消すしかないわ……」
「待て待て! 誰にも言わないし、言うつもりもない……って、音羽さん? いつのまにしゃもじなんて持って……ちょっと待て、話せばわか……」
リビングに鈍い音が響き渡ると、スッキリとした顔をした音羽が呟く。
「ふう……これで完璧ね」
しばらくして、ルリがリビングに戻って来ると、怒りに満ちた声が響き渡る。
「こりゃ! ご主人! 飯島女史の配信が始まるというのに、ソファーで寝ておるんじゃ!」
「……」
「返事くらいせんのか!」
微動だにしない瑛士の様子に苛立ったルリが叩き起こそうと近づくと、笑顔の音羽が声を掛ける。
「ルリちゃん、大丈夫よ。そのうち起きるでしょうし、瑛士くんはほっといて一緒に配信見ましょう」
「うーん、でもご主人が一番楽しみにしておったし……」
「始まったらきっと起きるわよ。ささ、こっちに座って見ましょうね」
瑛士からルリを引き離すと、ホッと胸を撫で下ろす音羽。
(ちょっとやりすぎちゃったかしら……ま、まあ、瑛士くんだし大丈夫よね?)
横目でいまだ動かない瑛士を見ると、額から一筋の汗が流れ落ちる。すると、ルリがいきなり大きな声を上げる。
「音羽お姉ちゃん! 始まったのじゃが……ここは……」
「え……迷宮の二階層で間違いないわよね? こんなところで一体何をするつもりなの?」
二人が困惑した様子で画面を見ていると、ハイテンションな甲高い声が響く。
「はーい! 皆さん、おまたせしちゃいました♪ いーちゃんの限定配信、はっじまるよ!」
謎の掛け声とともに画面が暗転し、一気に不穏な空気が流れ始める。
この直後、彼女たちは思い知らされる――悪夢の幕開けということを――
最後に――【神崎からのお願い】
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