第4話 全ては神の導きなの
音羽とルリがタブレットを見て考え込んでいると、床で悶え苦しんでいる瑛士の叫びが聞こえてきた。
「あ、足が! 足が!」
「あーもう、うるさいわね! 全然集中できないじゃない。ちょっとは静かにできないの?」
「そんなことを言われてもってか、そもそもお前が原因だろうが! 音羽!」
両足のふくらはぎを抑えて床を転がりながら、音羽を睨みつける瑛士。
「はぁ……あの程度のことでがたがた言うなんて情けないわ。それでも男の子なの?」
「あの程度って、力いっぱい握ったよな?」
「何を言っているのかわからないわ。たまたま立ち上がろうとしたときに、支えに使っただけじゃない」
「人の足を支えに使うとかないだろうが! このまま治らなかったらどうするんだ!」
両足のふくらはぎを必死にさすりながら猛抗議する瑛士に対し、音羽が蔑むような目で見ると、ルリに声をかける。
「ルリちゃん、この前使った結界を瑛士くんにかけてくれない? これじゃうるさくて話もできないわ」
「それは構わんのじゃが……ご主人は放置していて大丈夫なのじゃろうか? 相当痛そうに見えるのじゃが……」
困惑した目で瑛士を見るルリに対し、音羽は右手を肩に置くと優しく語りかける。
「いい、ルリちゃん。瑛士くんはかまってほしいだけなの。本当はそんなに痛くもないのに、心配してほしいからあんな大げさにしているだけよ」
「そうじゃったのか! ご主人も寂しいならそういえばいいのに、素直じゃないのう」
「お前はアホか! 演技してまで大げさにする必要がどこにあるんだよ!」
音羽の言葉を聞いて納得し始めるルリに対し、必死に訴えかける瑛士。
「ご主人、本当に痛いならそんな元気はあるはずがないのじゃよ。まったく……少しは我慢してほしいもんじゃのう」
「なんでそうなるんだよ! ちゃんと俺の話をだな……」
「はいはい、わかったのじゃ。とりあえず後でゆっくり聞いてあげるのじゃから、今は静かにしていてくれるかのう」
瑛士の叫びも虚しく、ルリが右手をかざすと詠唱を唱え始める。
「申し訳ないが、話が終わったら解除するのじゃ。動くな、世界――終焉静止界」
ルリが詠唱を唱えると、瑛士を包み込むように黒い球状の結界が出現する。
「あ、ちょっと待て! この結界はあ……」
瑛士がなんとかして逃れようと試みたが、数秒後にはすっぽり包み込まれてしまった。
「これでやっと静かになったわね。ルリちゃん、話の続きをしましょうか?」
「ほんとうによかったのじゃろうか? 演技とは思えなくなってきたのじゃが……」
リビングの中央に鎮座する結界を見つめながら、後悔するような表情を見せるルリ。そんな彼女の様子を見た音羽は、頭を優しく撫でながら話しかける。
「ルリちゃん、大丈夫よ。何も間違ったことはしていないわ。瑛士くんもちょっと冷静になる時間が必要なのよ」
「そうなんじゃろうか? わらわはご主人を助けたということで間違いないのじゃな?」
「そうよ。ルリちゃんはカリスマ配信者で、みんなを導く存在……そう、これは神の導きなのよ!」
音羽が力強く言い切ると、曇り気味だったルリの表情に光が戻り始める。
「そうじゃ……わらわはカリスマ配信者なのじゃ! 下僕どもに何度も道筋を示し、悩みや迷いから解き放ってきたのじゃ!」
「そうよ、その調子よ! いい? 人は誰しも完璧じゃないの……時に道を踏み外しそうになったりするわ。そんな時は正してあげることが必要よ……本当の優しさって、ただ寄り添うだけじゃダメなの。時には突き放す厳しさが必要なの」
「突き放す厳しさ……たしかにわらわも『自分で道を切り開くのじゃ』と何度も下僕どもに言ってきたのじゃ」
「そう、それでいいのよ。だから自信を持って進めばいいの」
「音羽お姉ちゃん……ありがとうなのじゃ!」
目を輝かせながらお礼を言うルリを見て、音羽はホッと胸を撫で下ろす。
(ふぅ、なんとかごまかせたわ。ルリちゃんが素直でほんと良かった。まあ、あのまま立ち上がっていても、どうせ頭から床に激突していただろうし、それはそれで面白そうだけど……結果オーライということね)
瑛士が床に激突する姿を想像して思わず笑いが込み上げそうになる音羽。必死に左手で口元を隠し、顔を背けるとルリが心配そうな顔で見上げてきた。
「音羽お姉ちゃん、どうしたのじゃ? なにか辛いことでもあったのじゃろうか?」
「大丈夫よ。ちょっと楽しいことを思い出して笑いそうになっただけだから。それじゃあ、本題に戻りましょうか。ルリちゃんのところに何が届いたのかしら?」
「そうじゃった! これなんじゃが……音羽お姉ちゃんはどう思うのか聞かせてほしいのじゃ」
ルリが指差した先の画面には、「いーちゃんの限定配信に関する大事なお知らせ」と書かれた通知が表示されていた。
「内容が気になるところだけど、これって開いて大丈夫かしら?」
「多分大丈夫じゃと思うのじゃ。万が一わらわのタブレットに何か起こったら、すぐに下僕のハッカー?とかが、特定となんとか攻撃を仕掛けると言っておったのじゃ」
「……DDoS攻撃ね。相変わらずルリちゃんのリスナーは容赦ないわね」
話を聞いていた音羽がドン引きしていると、ルリが画面をタップしてお知らせを開く。
「お、音羽お姉ちゃん! これはどういうことなのじゃ……」
「これは……飯島女史、正気なの?」
タブレットを見たルリと音羽は目を見開いたまま、言葉を失ってそのまま固まった。
飯島女史は一体何を企んでいるのだろうか――?
最後に――【神崎からのお願い】
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