第3話 鬼軍曹ルリが誕生!
怪しげな笑みを浮かべたルリがタブレットを眺めた時、耳をつんざくような瑛士と音羽が揉める声が響き渡る。
「だーかーらー何度も言ってるでしょ? 勝手に勘違いした瑛士くんが暴走したんじゃない!」
「お前の気がついているなら言ってくれたっていいだろ? 黙ってずっと見ているなんて性格悪いぞ!」
どんどん言い争う声が大きくなり、無視を決め込んでいたルリの肩が小刻みに震え始める。
「はあ? 誰が性格悪いですって? 昔から思い込んだら人の話を聞かずに突っ走るのはどこのどなたでしたっけ?」
「それはお前も一緒だろうが! いつも俺を罠にはめようと企んでるのは誰だよ!」
瑛士が発した言葉を聞いた瞬間、ルリの中で何かがキレた。無言で立ち上がると、言い争う二人のもとに近寄り、大声を出しながら割って入る。
「お主ら……人が黙って聞いていれば……うるさいのじゃ! 少しは静かにできんのか!」
怒ったところなど見たことのないルリの雷が落ち、口を開けたまま驚いて固まる瑛士と音羽。そんな二人の様子などお構いなしに話を続ける。
「だいたいじゃな、ご主人! わらわはただゲームを楽しんでおっただけなのじゃ。それなのに勝手に『これは大事じゃ』等と言いだして話を大きくしたのは何故じゃ?」
「そ、それは……お前が涙を流しながら失敗したとか言うからで……」
「そんなの手にゲーム機を持っておったのじゃから、見ればわかるじゃろうが! 普段から冷静に状況を把握せよと言っておる人物は誰じゃったかな?」
「……」
的確に痛いところを射抜かれて何も言えず、ただ俯くことしかできない瑛士。さらにルリの刃は音羽にも襲いかかる。
「次は……音羽お姉ちゃん!」
「ひゃ、ひゃい!」
怒気を含んだ声で名前を呼ばれ、全身をビクつかせて変な声で返事をしてしまう音羽。
「音羽お姉ちゃんもじゃ。わらわとは比較にならぬほど、付き合いが長いのに何たることじゃ……だいたいご主人が暴走するなど今に始まったことじゃないんじゃろ?」
「うん、まあ……昔からと言うか……」
「それがわかっておりながら、なぜ先に釘を差しておかんのじゃ? いくらでもチャンスはあったじゃろうに」
「うっ、それを言われると何も言い返せないと言うか……で、でも、私が止めに入ろうとした時はすでに勘違いが止まらなかったし」
「ふむ、それはわかるのじゃ……が、どうして面白がってずっと黙っていたのじゃ?」
「それは……そのほうが面白いと言うか……」
「その結果が今の状況なのじゃが、どう説明するのじゃ?」
「……」
完膚なきまでに逃げ道を潰されてしまい、額から冷や汗を流したまま固まってしまう音羽。
「二人とも? なんで部屋の中央にボサッと立っておるのじゃ? さっさと床に正座せんか!」
「「は、はい!」」
鬼軍曹のようなルリの怒号がリビングに響き、あまりの迫力に肩をビクつかせて並んで正座する瑛士と音羽。その様子を見たルリは腕を組みながら二人の前に仁王立ちで立ちはだかる。
「だいたい二人ともなっておらんのじゃ。もっと広い視野で冷静に状況を把握しておれば、言い争うなどという醜態をさらさなくても済んだのじゃ」
「ごもっともなご意見です……」
「何も言い返せないのが悔しいわね……」
痛いところを的確に突かれ、何も言い返せない瑛士と音羽。その様子を見て気を良くしたのか、ルリの攻撃はさらに勢いを増していく。
「二人ともこれを機によく反省することじゃ。完全無欠なカリスマ配信者たるわらわのように、いかなる時も隙を見せないことが大事なのじゃ」
調子に乗ったルリが意気揚々に語る様子を見て、口元を僅かに釣り上げた瑛士が話しかける。
「ルリ、今回の件は俺に非があったとよーく反省している」
「うむ、大変良い心がけじゃ」
「それはそうと、自分で完全無欠のカリスマ配信者と言ったよな?」
「わらわのような超人は何をやってもすべて成功するのじゃ!」
「ほう? じゃあ、なんでゲームごときであんな大絶叫したり、失敗を続けていたんだ?」
思わぬ反撃を受け、ルリの顔色が一気に悪くなり始める。
(よし、ここが突破口だ!)
何かを確信した瑛士が一気に畳み掛けるように、攻勢を強め始める。
「どうした? 言い返せないのか?」
「そ、それは違うのじゃ……そう、わざと違うルートを選んで楽しんでいただけなのじゃ!」
「へえ、楽しんでいただけか……じゃあ、なんでこの世の終わりみたいな顔して涙を流す必要があるんだ?」
「え、演出じゃよ! ほれ、感情豊かに楽しんだほうが面白いじゃろ?」
慌てた様子で取り繕おうとするルリに対し、決定的な一言を瑛士が放つ。
「お前のやっていたWonderTAILってゲームな。俺はとっくにクリアしてるんだが?」
「な、なんじゃと……そんなはずはないのじゃ!」
「少し考えたらわかるだろ? 俺の家に置いてあったものだぞ。誰が買ったと思ってるんだよ」
何も言い返すことができず、後退りを始めるルリを見た瑛士がゆっくり立ち上がろうとしたときだった。
「ギャー! あ、足が、足が!」
両足を抑えながら床でのたうち回る瑛士に対し、ゆっくり立ち上がるとゴミを見るような目で言葉を吐き捨てる音羽。
「はい、そこまでよ。まったく……普段正座しない人が急に立ち上がったら、どうなるかくらいわかるでしょ」
小さく息を吐いてルリに向き直ると、深々と頭を下げる音羽。
「怖い思いをさせてごめんね。ルリちゃんの言う通り、今回は暴走する前に叩きのめしておいたわ!」
「あ、ありがとうなのじゃ……でも、ご主人は大丈夫なのか?」
「心配する必要はないわ。足が痺れているだけだし、ちょっとお灸をすえるために両足のふくらはぎを抓っておいたのよ」
笑顔で話す音羽を見て、ルリは心の中で固く決心した。
(この家で一番怒らせてはいけないのは、音羽お姉ちゃんなのじゃ……)
額から一筋の汗が流れ、ルリが固まっていると音羽が優しく声をかける。
「そういえば、何かタブレットを見て険しい顔をしていたけど、何かあったの?」
「そうじゃった! こんな物が急に届いたんじゃ」
慌ててタブレットを手に取ると、画面を見せるルリ。
「へえ……面白いじゃない……もうちょっと詳しく知りたいわね」
画面を覗き込んだ音羽の顔に怪しげな笑みが浮かぶ。
ルリが差し出したタブレットには、何が表示されていたのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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