第2話 瑛士の盛大な勘違い
瑛士と音羽が真剣な表情で話し合いを進め、リビングに緊迫した空気が流れ始めたときだった。
「あー! また失敗したのじゃ!」
突然、ルリの悲痛な叫びがリビングに響き渡る。
「何があった、ルリ? 緊急事態発生か?」
「緊急事態どころじゃない大事件なのじゃ! わらわはどうしていいのか……」
瑛士が視線を向けると、ソファーから立ち上がったルリが泣きそうな表情で二人を見つめていた。
「どうしたんだ? 状況が全くわからないが……泣くほどの事とは、いったい何が起こったんだ! ルリ、冷静に説明してくれないか?」
「この状況で冷静になんて説明できないのじゃ……わらわは、わらわはどうしたらいいのじゃ……」
「くっ……俺がルナたちを連れて散歩に行っている間にも、状況は刻一刻と悪化していたのか……」
苦虫を噛み潰したような表情で拳を握り、唇を噛み締める瑛士。
「瑛士くん、なんか盛大な勘違いをしてるみたいだけど……」
「音羽、何を言っているんだ! ルリが涙を流して訴えかけるほどの事が起きているんだ……勘違いとか、そういう問題じゃないだろ!」
「いや、あのね……なんて説明していいのかわからないけど、大丈夫だから、落ち着いてほしいなって……」
「落ち着いていられるか! 飯島の配信が明日に迫り、迷宮で不穏な動きがあったんだ。万が一を考えて、危機管理をしなければいけないだろうが!」
「……」
何を言っても話の通じない瑛士に対し、音羽は額に手を当てて俯き、大きなため息を吐いた。
(あー瑛士くんって、変なスイッチ入ると、昔から人の話を一切聞かない子だったわ……)
音羽が諦めの境地に達しかけた時、ふと脳裏にある考えが浮かぶ。すると口元が自然に釣り上がり、笑みを浮かべ始める。
(いいこと思いついちゃった。ルリちゃんも素でやってることだし、ちょっと煽ってみようかしら? ふふふ、面白いことになるわよ)
「音羽、どうしたんだ? 急に肩を震わせ始めて……なにか困ったことがあれば、すぐに言えよ! 今はみんなで協力して乗り越えなければいけないからな」
「そ、そうね……この大事な時を、大切に……し、しないといけないわね」
(ダメ、笑っちゃダメよ。頑張って抑えるのよ、私)
肩を震わせながら必死に笑いをこらえる音羽。ちょうど顔を伏せているため、瑛士の角度からは音羽まで涙をこらえているように見えた。
「クソ、俺がいない間に二人に何があったんだ……」
「ご主人、もとはといえば、わらわがいけなかったのじゃ……音羽お姉ちゃんに相談したばっかりに、こんな事態を引き起こしてしまったのかもしれぬ」
「な、何だと? ルリ、お前の身に何が起こったのか、詳しく教えてくれないか?」
鬼気迫るような表情で瑛士が問いかけると、困ったようにルリが言い淀む。
「詳しくは言えないのじゃ……ご主人を巻き込むわけにはいかぬ! これは、わらわの責任なのじゃ!」
「な……ルリ、お前は何を言っているんだ! 困ったときに頼ってこそ仲間であり、家族ってもんだろ?」
「うう、そこまで言われると困ってしまうのじゃ。音羽お姉ちゃんに続き、ご主人まで……こんなわらわに優しい言葉をかけてくれるのじゃな」
優しい言葉を聞いたルリは、涙目で瑛士を見つめ返す。
「ああ、当たり前じゃないか。困った時はお互い様だし、だから音羽を頼ったんだろ?」
「うむ、わらわではどうしても解決できない問題が多すぎたのじゃ……そんな時、音羽お姉ちゃんはいつも優しく助けてくれるのじゃ……何の恩返しもできていないのに……」
「恩返しなんてどうでもいいんだよ。俺たちは、お前が笑顔でいてくれたら、それで十分なんだ」
「ご、ご主人……」
瑛士の優しい言葉を聞き、涙が目からこぼれ落ちるルリ。慌てて手で拭いながら、必死に声を上げる。
「わ、わらわは……幸せ者なのじゃ」
「まずは落ち着けよ。そこにティッシュがあるから鼻をかんで、いいと思ったら話せよ」
ルリは無言で頷き、ティッシュを手に取って鼻をかむ。さらに深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、ゆっくり話し始めた。
「ご主人、本当になんでも聞いていいのじゃな?」
「今さら水臭いぞ! どんな悩みでもぶつけてこい!」
不安な表情で問いかけるルリに対し、右手で胸を叩きながら優しい笑みを浮かべる瑛士。
「わかったのじゃ……いや、こんなことをご主人に聞くのは……」
「おう、どうした? さあ言ってみろ!」
「うむ、実はじゃな……どうしても謎が解けないところがあって、すごく困っているのじゃ」
「ほう? お前に解けない謎だと? どんな難解な謎なんだ?」
瑛士が怪訝な顔で近づいたときだった。ルリが差し出したものを見て、その場で固まってしまう。
「ん? ご主人、どうしたんじゃ?」
「……えっと、ルリさん、ちょっと聞いてもいいかな?」
「なんでもいいのじゃ。やっぱり、ご主人にも難しかったかのう?」
「いや、差し出したものって……最近、お前がハマってる携帯ゲーム機だよな?」
「そうじゃが、どうかしたのか? このWonderTAILの迷路が、何度やっても解けないのじゃよ」
ゲーム画面を差し出したルリが不思議そうに首をかしげていると、耐えきれなくなった音羽が、お腹を抱えて笑い始める。
「あはは! もう無理! お腹痛い!」
「……音羽、お前はいつから気がついてたんだ?」
「へ? そ、そんなの最初からじゃない。あはは! だって……瑛士くん、暴走したら人の話聞かないんだもん」
笑いが止まらない音羽を見て、瑛士の顔がどんどん茹でダコのように赤くなっていく。
「それじゃあ、お前は最初からわかっていながら、止めようともしなかったのか?」
「止めようとはしたわよ? でも人の話を遮ったのは、自分じゃん。たしかに『みんなで協力しないといけない』事案よね……あはは!」
「ふざけんな! 俺がどれほど真剣に……いい加減、笑うのをやめろ!」
怒り狂った瑛士が歩き出すと、全力で逃げ始める音羽。二人がルリとソファーの周りを、鬼ごっこでもするように全力で走り回る。
「いったい二人とも、どうしたんじゃ。ん? こんなときになんじゃ?」
何が起こったのかわからず唖然としていたその時、タブレットが通知音を鳴らす。ゲーム機をテーブルに置き、通知を見たルリが怪しげな笑みを浮かべる。
「ほう。こんなギリギリに連絡をよこすとは……面白いことが起きそうじゃのう」
画面を見ながら怪しげな笑みを浮かべるルリ。
彼女のタブレットに届いた知らせとは――?
最後に――【神崎からのお願い】
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