第1話 ルリが絶叫した理由とは?
飯島から送られてきた限定配信が明日に迫る中、リビングのソファーに寝転びながらゲームをしていたルリが叫び声を上げる。
「あー! もうなんで攻撃が一切当たらないんじゃ!」
「ルリちゃん、どうしたの? さっきからすごい叫んでるけど……」
リビングのドアが開くと、驚いた顔をした音羽が声をかけてきた。
「音羽お姉ちゃん、聞いてほしいのじゃ! 下僕どもにおすすめされたゲームをやっておるのじゃが、このラスボス……こっちの攻撃が全然当たらないのじゃ! それに加えて初見殺しに不意打ち、謎の攻撃が多すぎて、何度やってもすぐゲームオーバーになるのじゃ」
「初見殺しに不意打ち? ルリちゃん、何のゲームをやってるの?」
「これじゃ! ここまで来るのも一苦労じゃったのに、ラスボスが強すぎて話にならんのじゃ」
ルリが差し出してきたゲーム機の画面に映されていたのは、服を着た骸骨のキャラが立っていた。
「ルリちゃん……これってもしかして、WonderTAIL?」
「たしかそんなような名前じゃったな。なんでも片っ端から出てくる敵を倒しまくると、最強のラスボスがいるとか聞いたのじゃ」
「……まあ、たしかに最強のラスボスよね」
ルリがプレイしていたのはWonderTAILという、世界中で大ヒットしたゲームだった。音羽はため息を吐きながら優しく問いかける。
「ねえ、ルリちゃん……ちょっと聞きたいんだけど、このゲームの説明書や攻略情報って見たことある?」
「説明書? そんなものないのじゃよ。ダウンロードストアとか言うところから買ってやっているのじゃ。あと、攻略情報とか見るのは負けじゃと思っておるからのう、自力でここまできたのじゃ!」
胸を張って答えるルリを見て、額に手を当てながら項垂れる音羽。すると、今まで聞いたことのないような低い声で宣言する。
「……よーくわかったわ。ルリちゃん、下僕さんたちとじっくりお話をしたいから、どいつがそのルートを言ったのか教えてくれない?」
「え、それは構わんのじゃが……音羽お姉ちゃん、どうしたのじゃ? めっちゃ顔がこわいのじゃ」
顔を上げた音羽の口元はつり上がっていたが、目は完全に笑っていなかった。
「ルリちゃんに正規攻略ルートを教えなかった人物を問い詰めたいだけよ? そう、小一時間ぐらい……」
「ちょっと待つのじゃ! ものすごく嫌な予感がするのじゃ! それよりも正規攻略ルートってなんのことなんじゃ?」
ルリが慌てて止めに入ると、音羽は大きく息を吐きながら説明を始める。
「あのね、ルリちゃんがやっているWonderTAILというゲームには、敵をほぼ倒さない、もしくはエンカウントした敵を倒すノーマルルート。一切敵を倒さずにエンディングまでいくピースルート。いまルリちゃんがやっている、片っ端から敵を倒し尽くす虐殺ルート。この三つのルートが存在するの」
「な、なんじゃと? そんな奥が深いゲームじゃったのか!」
「普通はノーマルルートから始めて、ピースルート、そして最後に虐殺ルートにいくのが正攻法なの。まあ、ピースルートに行くには、絶対ノーマルルートをクリアしないといけないんだけど……」
「ほえ~、そうじゃったのか」
音羽の説明を聞いていたルリは、大きな口を開けたまま首を上下に動かしている。すると、何かに気がついたように急に動きを止め、質問をする。
「ん? 音羽お姉ちゃんの説明じゃと、最初はノーマルルートに入る予定じゃが……わらわは最初から倒しまくっていたぞ?」
「それがこのゲーム最大の落とし穴なのよ。敵を倒しまくるルート、虐殺ルートは最初から入れてしまう仕様なの。その後、ピースルートに行くと、本来はハッピーエンドなんだけど……必ずバッドエンドになる罠仕様でね。ゲームデータをリセットしないと、絶対に見れない鬼畜仕様なの」
「な、なんじゃと! じゃあ、わらわは永遠にたどり着けないというわけなのか……」
話を聞いていたルリが、この世の終わりのような表情で立ち尽くす。すると音羽が近寄り、優しく肩をたたきながら声を掛ける。
「大丈夫よ、まだラスボスを倒してないでしょ? このデータはそのままにして、別のセーブデータから始めればいいのよ」
「そうか、その手があったのじゃ! 危なかったのじゃ……ゲームマスターの称号を手に入れるため、すべてのルートをクリアーせねばならぬ!」
「ふふふ、頑張ってね! あ、ちなみにそのラスボスは、四十二回相手の攻撃を避けきらないと勝てないから」
「な、なんじゃって! そんなの無理ゲーに決まっているじゃろうが!」
「大丈夫、ルリちゃんならできるわよ!」
真っ直ぐな瞳で音羽が声を掛けると、目を輝かせながら力強く頷くルリ。
「そういえば、なんで音羽お姉ちゃんはそんなに詳しいんじゃ?」
「ああ、そのゲームなら、留学していたときに開発を手伝ったからね。ちなみに最初は二十回避ける仕様だったけど、簡単にクリアさせたら面白くないから、ちょっといじったの」
「あ……なんか聞いてはいけないことを聞いてしまったのじゃ」
音羽の話を聞いたルリが呆然と立ち尽くしていると、リビングの扉が開き、瑛士が中に入ってきた。
「ただいま……って、どうしたんだルリ? なんか燃え尽きてるけど? 何があったんだ、音羽」
「ちょっとゲームの話をしていただけよ。おかえりなさい、瑛士くん。……どうだった、迷宮の方は?」
呆然と立ち尽くすルリを気にすることなく、音羽は瑛士に問いかける。
「ああ、まだ目隠しのフェンスはそのままだったが、警備員の数が凄かったぞ。なんか物々しい雰囲気も漂っていて、黒塗りの車が何台も出入りしていたしな」
「明日の配信は、相当荒れそうね……」
「ああ、招待制の限定配信というだけあるな……」
険しい顔をした瑛士が、深くため息を吐きながら話しかける。
明らかにただ事ではない空気が漂う中――限定配信の時間は刻一刻と迫ってきていた。
最後に――【神崎からのお願い】
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