閑話⑮-4 策士紀元の本領発揮?
「博士! ちゃんと聞いてますか!」
「ハイハイ、キイテマスヨーワタシガワルカッタデスー」
峯川と別れてから数分後、紀元に捕まった飯島は応接室に連行されていた。ソファーの上に正座させられ、不貞腐れた顔で口を尖らせながら答える。
「全然反省してないじゃないですか!」
「ハンセイシテマスヨーワタシガワルウゴザイマシター」
「いい加減にしてください! 何度言ったらわかるんですか? 応接室は大事なお客様を迎える部屋なんですよ。毎回毎回、博士の私物や食べ残しを片付ける身になってください!」
あまりに反省の色がない飯島に対し、紀元が強い口調で怒りを露わにする。
「だーかーらー! 悪かったって言ってるでしょ! だいたいね、ほとんど使うことがない部屋なんだし、私が有効活用して何が悪いって言うのよ!」
紀元の言葉に苛立った飯島が、逆ギレしながら言い返す。普段であれば強く出ることのない彼だが、今日は一味違っていた。
「何が有効活用ですか! 勝手に業務用冷蔵庫まで購入して、さらにアイス代も経費で落とそうとしましたよね?」
「はあ? 別に業務に必要な物だし、何が問題あるのよ? 必要経費よ!」
飯島の言葉を聞いた紀元の口元が釣り上がり、怪しげな笑みを浮かべながら話を続ける。
「ほう? そこまで言い切るというのですか……たしかに必要経費かもしれませんね?」
「そ、そうよ! 福利厚生の一環として必要な物資よ!」
「福利厚生の一環ということですね……それであれば、我々社員一同が頂いても問題ないですね?」
紀元から放たれた一言に、飯島の表情が一変し、急に焦ったように声を上げる。
「な、何を言ってるの! これは私のものなのよ!」
「え? 何を言っているのでしょうか? 先程『福利厚生の一環』とおっしゃいましたよ。ちゃんと録音もしておりますし、言質としての証拠は十分成立しますよ」
言い切った紀元がズボンのポケットからスマホを取り出し、素早く再生ボタンを押す。すると先ほどの会話が流れ、飯島がはっきり福利厚生の一環と主張した音声が流れる。
「……こ、これは違うのよ」
真っ青な顔をした飯島が慌てて言い訳を始めるが、紀元は一切聞く耳を持たない。
「何が違うのでしょうか? 博士のお言葉で、しっかり言われてますよ」
「う……それは、その……」
完全に立場が逆転したことを確信すると、紀元の口調が急に柔らかくなる。
「でも……改めて博士のことを尊敬し直しましたよ」
「へ?」
何の前触れもなく態度を急変させた紀元に対し、呆気にとられる飯島。そんな様子を気にすることなく、彼は言葉を続ける。
「福利厚生の一環としてわざわざ業務用冷蔵庫を購入し、アイスまで常備させるなんて……我々では考えが及びませんよ」
「そ、そうね! 私くらいのできる上司ともなれば、このくらいは朝メシ前よ!」
「本当に博士は素晴らしいお方です! 我々社員一同は、神のような上司の元で働ける幸せを噛み締めなければなりません……」
顔を伏せ、肩を震わせ始める紀元。どう見てもわざととしか思えない持ち上げ方だが、気を良くした飯島は一切気が付かない。
「そのとおりよ! 私はもっと称賛されるべきなんだから! だいたい世間のヤツラがわかってなさすぎるのよ!」
胸を張って上機嫌で語り始める飯島を見て、ここがチャンスと踏んだ紀元が一気に畳み掛ける。
「そうですよね! いや、まさか社員のことを考えてアイスを常備させるなんて、流石ですよ!」
「へ? あ、いや、それは……」
「博士が大変お忙しい身であることは承知しております……それなのに我々社員一同のことまで考える、その御心の広さ。なんと感謝を伝えていいのかわかりません」
「……そ、そうね! あんたたちがいないと研究も進まないからね!」
「ありがとうございます! 博士の研究が成功するよう、社員一同で全力サポートいたします。というわけで、こちらは社員の共有おやつということでよろしいですよね?」
「え? そ、それは……」
満面の笑みで迫る紀元に対し、引くに引けなくなった飯島が大声で叫ぶ。
「あーもういいわよ! みんなで食べたほうが美味しいでしょ!」
「ありがとうございます! ではさっそく部下たちに共有させていただきますね」
この瞬間、紀元の勝利が確定した。膝から崩れ落ちる飯島に対し、笑みを浮かべてスマホを操作する紀元。
「ああ……私のアイスが……せっかくご当地限定物まで全種類揃えたのに……」
両手を床について項垂れる飯島に対し、何かを思い出した紀元が問いかける。
「そういえば博士、迷宮のことなんですが……完成検査で役所からいちゃもんを付けられておりまして……再オープンの見通しが怪しくなっていまして……」
「なんですって? どこの役所? この私に喧嘩を売るなんて、いい度胸してるじゃない!」
突然立ち上がり、怒りに満ちた表情で顔を上げる飯島。
「しょ、詳細はこちらの資料に書いてありますが……我々では打つ手がなく……」
「ちょっと見せなさい!」
紀元の手から乱暴に書類を奪い取ると、一瞬で目を通す飯島。すると不敵に笑いながら、驚きの提案を言い始める。
「へえ……面白いわ。その喧嘩、誰に売ったか後悔させてやろうじゃないの! あ、ちょうどよかったわ……紀元、私が指定した人間のみの限定配信をやるわよ!」
「はあ? げ、限定配信ですか?」
「そうよ。もともとやろうとは思っていたけど……気が変わったわ。リストは後で渡すから、そいつらにお知らせを送りなさい! 私に喧嘩を売るとどうなるか、見せつけてやるのよ……」
どす黒いオーラが飯島の全身を包み込むような錯覚を覚え、紀元は思わず後退りしてしまう。
「わ、わかりました……つかぬことをお伺いしますが、内容はどんなことを?」
「安心しなさい! この役所の担当者に、優しくわからせてあげるだけだから」
「しょ、承知いたしました。さっそく準備に取り掛かります」
(あ、これ絶対やばいやつだ……担当者に同情するわけではないが、喧嘩する相手を間違えたな)
あまりの迫力に圧され、慌てて応接室をあとにする紀元。扉が閉まる音がすると、不敵に笑う飯島の声が響く。
「フハハハ!! 私は神にも等しい存在ということを見せつけてやるのよ! 本当に楽しみだわ、限定配信が!」
飯島の高笑いは廊下まで響いており、歩いていた社員が真っ青な顔で走り去る様子が目撃されていた。
はたして限定配信で何が起こるのか? この時はまだ誰も知らなかった……
最後に――【神崎からのお願い】
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