第8話 迫る限定配信の日
「へえ、今回の限定配信は招待状を受け取った人間はスピーカーとしても参加できるのか」
「面白い試みじゃない。でも、どうする? 地声のまま参加したら誰かにバレちゃうんじゃない?」
画面を見入っていた音羽が少し困ったような顔で呟くと、不敵に笑うルリが話しかける。
「ふふふ……音羽お姉ちゃん、そんな心配はご無用なのじゃ! そんなこともあろうかと、ちゃんと手は打ってあるのじゃ!」
自信たっぷりなルリの様子を見て、瑛士が顔を引き攣らせながら呟く。
「お前が何か思いついたって聞くと、大概ろくなことじゃね―んだよな……」
「む? ご主人、その言葉は聞き捨てならんのじゃ。いつわらわの作戦が失敗したというのじゃ?」
「いつもだろうが! お前の作戦を聞いて実行すると、俺がひどい目に遭うんだよ!」
今までのことを思い返しながら瑛士が声を上げると、ルリがため息をつきながら話し出す。
「はぁ、やれやれなのじゃ。それはご主人にも大きな問題があるということを忘れておらんのか?」
「あ? 誰に問題があるっていうんだよ?」
「たしかに、わらわの作戦は完璧ではないじゃろう」
プライドが高く、自らミスを絶対に認めないルリがやけに素直な様子に驚く瑛士。
「やけに素直に認めるじゃないか? その自覚があったことは驚きだな」
「ん? わらわほど素直で素晴らしい人格者はどこにもおらんぞ? 何をいっているのじゃ」
「お前のどこが素直で素晴らしい人格者なんだよ……ツッコミどころが多すぎて草も生えん」
自信たっぷりに自画自賛する様子に呆れ果てながら、ツッコミを入れる瑛士。しかし、ルリの耳にその言葉が届くはずもなく、さらに話を続ける。
「カリスマ配信者として多くの下僕どもを従える故、弱気な姿勢を見せるのはご法度じゃからな」
「いや……そこはたまには見せてもいいんじゃないのか? ギャップ萌えという言葉もあるんだし……」
「本当にご主人はわかっておらんのじゃ……そんな安っぽい手を乱発するようでは、下僕どもは満足せん」
「……」
何をいっても言い返されるため瑛士は開いた口が塞がらず、言葉を失ってしまう。
「もっと全体像を把握して物事は判断していかねばならんのじゃ。ご主人のように木を見て森を見ずでは、この配信という世界は生き抜いていけんのじゃよ」
「ハーソウデスカ、スゴイデスネー」
「む? わらわがありがたい話をしているというのに、なんか反応が薄いのじゃ」
あからさまに投げやりな反応に気がついたルリが睨みつけると、露骨に目を逸らす瑛士。その態度を見て雲行きが怪しくなり始める。
「全くご主人は配信者としての自覚がなさすぎて困るのじゃ。これだから、わらわの作戦の意図している重要なところで、いつもドジを踏むのじゃぞ」
「は? いつ誰が配信者になったっていうんだよ? それにドジを踏むとは聞き捨てならないな」
ルリの挑発を聞いた瑛士がムキになって言い返す。すると待ってましたと言わんばかりに、ルリが僅かに口角を上げ、さらに煽り始める。
「何を言っておるのじゃ? わらわが迷宮配信を始める前から、下僕どもに認知されておるというのに……」
「いつの話だよ! それはお前が勝手にやったことで、俺の意思じゃ……」
「迷宮攻略においても、わざと完璧ではない作戦を立て、ご主人に花を持たせてやろうとしておるのに……気づかず暴走して凡ミスを連発しておるからのう」
「……誰が凡ミスばかりしてるんだって?」
話を聞いていた瑛士が俯き、肩を震わせ始める。その様子を見たルリは表情一つ変えず、さらに言葉を続ける。
「よくアーカイブを見てみることじゃな。ま、ご主人の必死さも下僕どもには好評じゃがな」
「お前な……ちょっとは自分のミスを認めるかと思ったら……」
「ん? だからいっておるじゃろ? 完璧な作戦ではないと……まあ、ご主人のミスを誘発するように指示しているのは、音羽お姉ちゃんじゃがな」
「はぁー? 音羽だと?」
話を聞いていた瑛士が思わず叫び、怒りの矛先が音羽に向けられる。すると、冷ややかな目で彼を見ながら口を開く。
「あら? そんな態度を私に取れるのかしら? さっきの件《再生リスト》、まだ許したとは一言も言ってないけど?」
「う……いや、俺は屈しないぞ……それとこれとは話が……」
瑛士が苦虫を噛み潰したような顔で立ち向かおうとした時、音羽の手に見覚えのあるスマホが握られていた。
「瑛士くん、これなーんだ?」
「それは、まさか……」
「そう、瑛士くんのスマホ。テーブルの上に置きっぱなしだったんだよね」
「……」
瑛士の視線が彼女の手に集中し、頭から滝のような汗が流れ落ちる。そしてスマホをちらつかせながら、音羽が揺さぶりをかける。
「へえ? 私に歯向かおうっていうんだ?」
「ふ……今までの俺とは一味違うんだ! 俺は脅しには屈しないぞ!」
「あ、そう。じゃあ私の方で全削除するってことで……」
「申し訳ございませんでした!」
床に頭を擦り付けながら、全力の土下座で許しを請う瑛士。その様子を見た音羽は光悦な表情を浮かべながら、優しく話しかける。
「ふふふ、よくわかっているじゃないの。私に楯突こうなんて思わないことね。ところで、ルリちゃん? 限定配信の件だけど、どうやって正体を隠して臨むの?」
「簡単な話じゃよ。実はエリアボス戦のときに、面白い本を見つけておいたのじゃ。これを使えば……」
ルリの話を聞いていた音羽と瑛士が、正反対の声を上げる。
「あはは! それなら正体をばらさずに、スピーカーとして対峙できるわね!」
「正気かよ……いくらなんでもリスク高すぎないか? 相手はあの飯島女史だぞ?」
「大丈夫じゃよ。直接対峙しておるわけじゃないしのう。後はわらわに任せておくのじゃ!」
「いや……それが一番ハイリスクなんだが……」
顔を上げた瑛士が顔をしかめていると、肩に優しく右手を置いた音羽が話しかける。
「大丈夫よ。ルリちゃんが失敗するわけないじゃない。それに、いざという時は……瑛士くんがいるじゃない!」
「やっぱり俺が犠牲になる未来しか見えないんだが!」
左手でサムズ・アップしながらウインクをする音羽に対し、瑛士の叫びがリビングに響き渡る。そんな二人を気にすることなく、窓際に移動したルリが夕日に照らされる迷宮を見ながら呟く。
「さて……同じ配信者という土俵で、勝負を仕掛けてきた意気込みは認めるのじゃ。まあ、最後に笑うのはわらわたちじゃがな! 首を洗って待っておれ、飯島女史よ」
迷宮を見つめる彼女の目には、たしかな決意がみなぎっていた。
ルリたちが限定配信で激突する日まで、残り三日……
最後に――【神崎からのお願い】
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