第6話 改ざん不能なデータが指し示す意味
タブレットに示されたデータ画面を見て、固まってしまった瑛士とルリ。思い通りの反応を示す二人を見て、音羽が笑みを浮かべながら話し始める。
「あはは、予想通りの反応すぎて面白いわね」
「予想通りって……そりゃそうだろうが! このデータはどういうことなんだよ!」
「そ、そうじゃ、ご主人の言う通りじゃ! 明らかに人間業じゃないのじゃよ……わらわたちがあれだけ攻略に苦労したエリアボスを、たった五分で攻略完了なんてありえないのじゃ!」
タブレットを指差しながら叫ぶルリに対し、腕を組みながら答える音羽。
「そうね、私たち三人がかりで倒した鉄牙狼を、ほぼ瞬殺といっていいスピードだもんね。しかも、たった一人で」
淡々と告げられる事実を聞いた瑛士が、音羽に食って掛かる。
「どう考えてもおかしいだろ、そのデータ自体が! 俺たちが対峙した鉄牙狼は普通の状態ではなかった……が、そこを加味しても一人で五分以内に倒すなんて無理だ。意図的にデータが書き換えられているだけじゃないのか?」
「普通に考えたら、その結論に行き着くわよね。申し訳ないけど、このデータは書き換えることなんてできないわ。だって、運営サイドのデータロガーから出てきた正式なものだし」
両手を天井に向けながら小さく首を横に振る音羽に対し、納得のいかない瑛士は追及の手を緩めない。
「それなら、運営がデータを弄った可能性も否定できないだろ?」
「その線も考えたわ。だけど、絶対不可能なのよね……」
「どうしてだよ! このデジタル社会なら、どんな手を使っても改ざんなんて……」
瑛士が食い下がる様子を見て、音羽は大きく息を吐くと、呆れた様子で決定的な一言を投下する。
「そうね、たしかにデジタル技術が進化した今なら、痕跡を残さず弄ることも可能……だけど、このデータは昔ながらの紙チャートで記録されてるのよ」
「それがどうしたっていうんだ? 別に紙だろうが……いや、ちょっと待てよ……」
「ようやく気がついた?」
なにかに気がついた瑛士が顎に手を当て、数秒考え込んだ後、顔を上げて声を漏らす。
「……どう考えても不可能だ……どれだけうまく誤魔化そうとしても、痕跡が残る」
「ようやく気がついた? アナログで非効率極まりない記録の仕方だけど、証拠としてこれ以上完璧なものはないわ。研究の現場で、いまだ紙チャートが無くならない理由の一つよ」
小さく息を吐いた音羽が諦めたように話すと、黙って聞いていたルリが声を掛ける。
「ふむ、音羽お姉ちゃんの言っていることは理解できたのじゃ。たしかに紙チャートであれば、インクが染み込んでおるし、下手に修正しようとすれば痕跡が絶対に残るのじゃ」
「そうでしょ? だから改ざんは、絶対に不可能だと言いきれるの」
音羽が自信たっぷりに返答すると、ルリが不敵な笑みを浮かべながら問いかける。
「たしかに普通に考えたら、そうじゃろうな。しかし、絶対とは言い切れないのがこの世じゃぞ? たしかに出てしまった物を弄るのは不可能じゃが……同じ機械をもう一台用意して、違うデータで出力させれば、不可能が可能になってしまわないかのう?」
「そ、そうだ! 同じ記録機械、同じインクを使えば、量産もできる!」
理論を聞いた瑛士が目を見開きながら賛同する。その後押しもあり、勝ち誇ったような顔で話すルリに対し、音羽が不敵な笑みを浮かべて答える。
「たしかにルリちゃんの言うように、同じ機械を使えばできないこともない……けど、同時に絶対不可能なのよね」
「な、なんじゃと? できないとは、どういうことなのじゃ?」
音羽から返ってきた言葉を聞いて、驚きを隠せないルリ。すると、すかさず援護射撃に回る瑛士。
「いくらなんでも、絶対不可能は言いすぎじゃないか? この世の中に、絶対は存在しないんだろ?」
「瑛士くんの言うことは間違っていないわ。たしかに絶対は存在しない……」
「なら、今回のことだって……」
「それが覆っちゃうのよね。この記録してる装置……生産終了したのが十年以上前で、現存する機械も全世界で数台なのよ。しかも、修理部品ももう手に入らないの」
「な……そんな……」
現実を突きつけられた瑛士は言葉を失い、その場に立ち尽くしてしまう。そんな彼に構うことなく、淡々と話し続ける音羽。
「ま、そういうことだから、このデータが物語っているのは真実なの。それに、なぜか運営の公式記録からは削除されているのよ」
「は? 公式にないだと? じゃあ、今の最速攻略者って誰だ?」
意味がわからないといった様子で問いかける瑛士を見て、呆れたように音羽が口を開く
「最速攻略者? 何を言っているの? 私たちに決まってるじゃない」
音羽から放たれた言葉を聞いたルリが、突然高笑いしながら声を上げる。
「ははは! やはりわらわは最強じゃったな! イレギュラーなエリアボスを前にして最速タイムを叩き出す、これぞカリスマ配信者というものじゃ!」
「あのな……たしかにすごいことだが、カリスマ配信者との関係が見えないんだが……」
「ふ、これだからご主人は困るのじゃ。カリスマたるもの、どんな困難が立ち塞がろうとも、すべてを跳ね除けるのじゃ!」
「だから、配信者である意味がわからねえって言ってるだろうが!」
聞く耳を一切持たないルリに対し、瑛士が食って掛かる様子を見ていた音羽が、二人に声をかける。
「はいはい、瑛士くんもムキにならないの。ルリちゃん、このデータから攻略分析をしない? 六階層以降のデータもあるわよ」
「おお! それは心強いのじゃ! わらわの最強伝説を作り上げるためにも、やるのじゃ!」
意気揚々とタブレットを回収すると、リビングのソファーに音羽と並んで座り、議論を開始する。キッチンに取り残された瑛士が小さくため息を吐き、二人の様子を伺っていると、ある疑問が頭に浮かぶ。
「そういえば……音羽のやつ、なんで記録が紙チャートだって知ってるんだ? しかも、機械が年代物だってことも……」
瑛士が仲良く談笑している二人に視線を向けると、不意に音羽と目が合った。すると、彼の耳元に聞こえるはずのない声が響く。
「……勘の良い人は、嫌いじゃないわよ。瑛士くん」
その言葉を聞いた瑛士の全身から、滝のように汗が流れ始める。
はたして音羽は、なぜ普通では知り得ない情報を手に入れていたのか?




