第4話 理解不能な音羽の強さ
ルリ専用の冷凍庫を開けると、そこには全種類のモーゲンダッツがきれいに整列していた。
「ふふふ、この光景はいつ見ても最高じゃのう。さて、今日のおやつは……」
「あー! ホントにすいませんでした! なにとぞお気に入りフォルダーを消すのは……」
ルリが意気揚々と本日のおやつを選ぼうとしたタイミングで、瑛士の大絶叫が響き渡る。
「あー! もううるさいのじゃ! ご主人もガタガタ喚くのはやめるのじゃ!」
「お前は何を言っているんだ! これは命の次に大事な問題だぞ!」
ルリが文句を言うと、瑛士が必死の形相で訴えかける。そして、彼の言葉を聞いた音羽の目が一段と鋭くなる。
「へぇ……命の次に大事なんだ? この私よりも大事な物なんてあったんだね?」
「あ、いや……その、趣味は別と言いますか……」
「趣味は別? たしかに趣味は大事よね」
「そ、そう思うだろ? だから……」
「ねえ? じゃあこのスパチャの課金はどういうことかしら?」
「……」
音羽がちらつかせたスマホには、数万円にも及ぶスパチャの課金画面が映されていた。それを見た瑛士の顔からどんどん血の気が引いていき、金魚のように口を動かしたまま固まってしまう。
「ねえ、ルリちゃん。せっかくのおやつタイムを邪魔したらいけないから、防音結界を張ってくれない?」
「えっと、それはどこに貼ればよいのじゃろうか……?」
一切ルリのほうを振り向かずに、淡々と話す音羽。彼女の有無を言わさぬ迫力に、恐る恐るルリが問いかける。
「私たち二人の周りだけで大丈夫よ。できれば、中が見えないようにスモークもかけてほしいな」
「ルリ、ダメだ! それだけはやらないでくれ!」
「あら? 瑛士くん……あなたにそんな選択権があると思ってるの?」
「ルリちゃん、早めに頼むわ」
「……わ、わかったのじゃ」
必死に懇願する瑛士に対し、凍てつくような視線を送る音羽。明らかにどちらの言うことを聞くのが正解か直感で理解し、ルリは短く返事を返すと両手を体の前に突き出す。
「それじゃあかけるのじゃ……動くな、世界――終焉静止界」
ルリが詠唱を唱えると、二人を包み込むように黒い球状の結界が出現する。その様子を見た瑛士が脱出を試みようと立ち上がるが、足がしびれたのか床に顔面からダイブしてしまった。数秒後、完全に音羽たちを包み込むと、リビングとキッチンに静寂が訪れる。
「……ご主人、ご武運を祈るのじゃ。さて、わらわはアイスを食べるという重要ミッションを遂行しないといけないのじゃ」
瑛士たちの結界には目もくれず、再び冷凍庫を開けてアイスを物色するルリ。
「ふむ……無難にバニラもありじゃが、この後のことを考えると、さっぱり系がよいのう……よし、チョコミントに決めたのじゃ!」
意気揚々とカップを取り出すと、右足で冷凍庫の扉を閉めるルリ。
「今日は小言を言うご主人もいないから快適なのじゃ! さて……アイスを食べながら、ヤツの限定配信について調査するかのう」
ご機嫌になったルリがテーブルにアイスを置くと、脇に抱えていたタブレットを立てて電源を入れる。
「どれどれ、ヤツが何を企てているのか、じっくり見る必要がありそうじゃのう」
慣れた手つきでルリがタブレットを操作し、飯島の限定配信のお知らせを眺める。内容は、迷宮オープン直前配信の前に、選ばれたリスナーを招待した特別配信を行うこと、新アバターのお披露目や彼女の近況報告を行う旨が書かれていた。
「ふむ……特に真新しい情報はなさそうじゃが、わざわざ限定配信でやるようなことじゃろうか?」
アイスを口に運びながら首をかしげるルリ。彼女の言う通り、わざわざリスナーを厳選して話す必要がある物はほとんどなかった。不思議に思いながらタブレットを眺めていると、不意に背後から声をかけられる。
「ふーん、ルリちゃんの言う通りね。わざわざ限定して配信する要素、ゼロね」
「あれ、音羽お姉ちゃん? いつの間に結界から出たのじゃ?」
「少し前よ。お話し合いもちゃんと終わったから、結界も解除しておいたわ」
タブレットを覗き込みながら淡々と話す音羽を見て、ルリの顔に一筋の汗が流れ落ちる。
(結界を解除……じゃと? 今のご主人でも数十分は格闘しなければならない代物じゃぞ……音羽お姉ちゃん、どんな手を使ったのじゃ……)
音羽を見つめながら固まっていると、視線に気が付いた音羽が笑顔で話しかける。
「どうやって結界を解除したかって思ったでしょ?」
「な、なんでわかったのじゃ?」
「ふふふ、顔に書いてあるわよ。えーっとね、それは禁足事項です」
満面の笑みで右手の人差し指を口に当てて答える様子を見て、ルリはこれ以上踏み込むのが危険と判断した。そして、思い出したかのように問いかける。
「そ、そういえば、ご主人はどうしちゃったのじゃろうか?」
「ああ、瑛士くんなら、そこにいるわよ」
音羽が指さした方を見ると、灰色を通り越して真っ白に燃え尽きた瑛士が正座したまま固まっていた。口からは魂のようなものが出ており、ただ事でない何かが行われていたのは明白だった。
(ご主人、ご愁傷様なのじゃ……)
瑛士の様子を見たルリは心の中で祈りを捧げる。そのまま音羽に視線を送ると、先ほどまでの笑みは消え、険しい顔でタブレットを睨みつけていた。
「音羽お姉ちゃん……ものすごく顔が怖いのじゃが、何か気になることでもあったのじゃろうか?」
「ええ、ルリちゃん……ここを見てほしいの。この限定配信、普通じゃないわね」
「こ、これは!」
音羽が指さした画面を見て固まるルリ。
はたして、彼女が示した先には何が書かれていたのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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