第2話 神回なんてあったのか?
「なんだこれは……」
タブレットの画面を見た瑛士が言葉を失って固まった。そこに映し出されていたのは、飯島の生配信の告知画面だった。
「へえ、面白いことするじゃない。しかも前に配信告知していた内容よりも、だいぶズレてるような気がするけど……」
「音羽お姉ちゃんもそう思うかのう。まあ、下僕どもが面白がって騒いでいたからいいのじゃが」
ルリと音羽が画面をのぞき込みながら話していると、我に返った瑛士がツッコミを入れる。
「お前ら、なんでそんな冷静なんだ? どう考えてもおかしいだろ!」
「えー? 今さら始まったことじゃないし」
「そうじゃぞ。バカと天才は紙一重というじゃろ?」
声を上げる瑛士の様子を冷めた目で見る音羽とルリ。二人の様子を見た瑛士は、さらにヒートアップする。
「だいたい何なんだよ、『いーちゃんオフィシャルショップのご紹介』って! いつの間にそんなものができたんだ?」
タブレットを指さしながら叫ぶ瑛士に対し、音羽が口に手を当てて、わざとらしく驚いた声を上げる。
「え? 瑛士くん……まさか知らなかったの? あんなに話題になっていた、世紀の配信者『いーちゃんオフィシャルショップ』の存在を!」
「知るか! だいたい世紀の配信者ってなんだよ? いつからそんな有名になったんだ?」
音羽の煽りにまんまと乗っかり、さらに声を荒げる瑛士。すると、面白がったルリが、遠い目をしながら瑛士に話しかける。
「な、なんということじゃ……こんなに大人気なのに、ご主人は知らないというのか……」
「なんで二人は、アイツがさも有名人のように話してるんだよ! そもそも配信だって一回しかしてないだろうが!」
「な……あの神回を見ていてその反応とは……音羽お姉ちゃん、これは重症かもしれん」
「ええ、ルリちゃん。もう手遅れかもしれないわね……」
顔を見合わせた音羽とルリは、そのまま俯いてしまう。その様子を見た瑛士が慌てて声をかける。
「お、おい……いったいどうしたんだ? まさか……俺のほうがおかしいのか?」
「いいのよ、瑛士くん……私は信じているから」
「うむ、わらわも信じておるのじゃ……」
「ちょ……どういうことだ? 何を信じているというんだよ? ちゃんと答えてくれよ!」
顔を伏せて肩を震わせている二人。その様子を見た瑛士の表情は、焦りから絶望へ変わり始める。
「……ご主人、教えてほしいのじゃな?」
「そう、瑛士くん……何が真実か知りたいのね?」
「頼む、教えてくれ……」
必死に教えを乞う瑛士が二人へ真剣な視線を送った時だった。
「……ぷっ、あははは! 音羽お姉ちゃん、わらわはもう無理なのじゃ!」
「ちょっと、ルリちゃん。早すぎるわよ、あははは!」
彼の必死さに耐え切れなくなったルリが噴き出してしまい、つられて音羽も笑いだす。
「は?」
何が起こったのか理解できない瑛士が呆然としていると、二人が声を上げて笑い始める。
「あははは! ご主人、面白すぎるのじゃ! まさかここまで必死になるとは思わなかったのじゃ!」
「ホントお腹痛い! 瑛士くんがもうちょっと早く突っ込むかと思っていたのに……どんどん深刻な表情になるから止められなかったわ」
「えっと……言ってる意味が全然分からないというか、話が見えないんだが?」
お腹を抱えて笑い続ける二人の様子を見て、何が何だかわからずに困惑している瑛士。すると、息絶え絶えになりながらルリがネタ晴らしを始める。
「ほ、ほんとにご主人はバカ正直というのか……ちょっと音羽お姉ちゃんと、からかってやろうとしただけなのじゃ」
「はあああああ! じゃ、じゃあ、神回の配信というのは……?」
「ああ、そのこと? それはある意味正解じゃない? 完全にネット界隈のおもちゃにされてるし、炎上系勘違い配信者としては大成功だったと思うわ。だから言ったでしょ、『バカと天才は紙一重』って」
「……へえ、そういうことだったのか……」
二人が笑いながら解説すると、急に俯いて低い声で答え始める瑛士。
「まあ、飯島女史の場合は『バカ』のほうでおもちゃにされてるわよ。それにしても、あんな配信が神回になるわけないんだし。ほんと、瑛士くんって素直なのね」
「まあまあ、それがご主人のいいところでもあるわけじゃしな。しかし、今回はここまでうまくいくとは思っておらんかったのじゃ」
「ほう……お前らは、俺を玩具にしていたわけだな?」
問いかける瑛士の声が一段と低くなり、さすがにまずいと感じた二人が慌てて声をかける。
「え、瑛士くん? もしかして怒ってる?」
「ご、ご主人……ど、どうしたのじゃ?」
さすがにマズイと思った二人が、顔を引きつらせた笑顔で問いかけた時だった。
「……お前らな……いい加減にしやがれ!」
限界を超えた瑛士の怒号がリビングに響き渡ると、二人が慌てふためく。
「わー! ご主人がキレたのじゃ!」
「瑛士くん、話せばわかるわよ」
「うるさい! 今日という今日は許すわけないだろうが!」
顔を真っ赤にした瑛士が二人に詰め寄ろうとした時、ルリのタブレットから通知音が鳴り響く。
「ご主人、ちょっと待つのじゃ! なんか変な通知が来たのじゃ……」
「あ? そうやってごまかそうとしたって……ん? 俺のスマホにもなんか来たぞ?」
「あれ? 私にも来たわよ」
三人が顔を見合わせ、それぞれの通知を開くと、空気が一変した。
「なんだよ、この通知内容は……」
先ほどまでの怒りがどこかへ吹き飛んだのか、スマホを見て固まる瑛士。
三人に届いた通知の内容とは、いったい何だったのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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