閑話14−④ ルナと翠の作戦会議②
瑛士たちだけでなく紀元も謎の大穴を目撃してさまざまな仮説を立てていた頃、体を丸くして寝息を立てている翠に近づく影があった。
「おい、あの大穴はお前の仕業だろ?」
真剣な表情で問いかけるルナに対し、体を丸めて顔だけ上げた翠が面倒くさそうに答える。
「んーなんのことを言っているのかわからないよ。ふぁ~せっかく気持ちよく寝ていたのに……」
「いやいや、寝てる場合じゃないって! さっきご主人様と合流した時、別の人間に見られていたんだぞ?」
「そうなんだー別にいいんじゃない? 見られたところでなにかできるわけじゃないんだし」
慌てるルリの様子を気にすること無く、気怠そうに答える翠。
「ねえ、もういいかな? 昼寝の続きをしたいんだよね」
ルナの方を見るとそのまま顔を下ろし、再び夢の世界へ旅立とうとする翠。
「ちょっとまてー! 人が話しているのに勝手に寝るな! だいたいお前、どこにいっていたんだよ? 御主人様たちと一緒にいたと思ったらいきなり姿消すし、どこ探し回っても見つからないし」
「えー? ちょっと散歩いっただけじゃん。それに猫は一日の大半を寝てるんだよ?」
「いや、まあそうなんだけど……って、いくらなんでも寝すぎだろ! いつも一日の殆ど寝てるじゃね―か……遊びに誘っても『眠いからムリ―」とか言うし……」
「それはまだ子猫だから仕方ないよ。遊ぶ時は全力だからすぐ疲れちゃうんだよ」
ルナの剣幕に圧され、仕方なく起き上がるとあくびをしながら答える翠。
「それは理解してるが……その前に遊びの時って、すぐどこかに消えるじゃねーか」
「だっていろんなところに行ってみたいんだもん。ルナさんは知らないの? 世界はとーっても広いんだよ?」
「そのくらい知ってるわ! でもな、外は危険がたくさんあるんだぞ? ご主人様たちみたいにいい人間ばかりとは限らないぞ……」
言い終えたルナの顔が露骨に曇り、思わず顔を背ける。そんな様子を気にすること無く、首をかしげながら翠が話しかける。
「えー? そんな悪い人にあったことないよ。みんないっぱい撫でてくれるし、おやつもくれるもん」
「……」
「それに悪い人が襲ってきても、ルナさんなら全員瞬殺できるじゃん」
「……間違いないな」
鋭すぎる指摘にぐうの音も言えず、納得するしかないルナ。その様子を見た翠がスッキリした顔で声を上げる。
「ルナさんも納得したことろでこの話は終わりだよね? じゃあ、もう一度寝るからご飯になったら起こしてね」
「おう、わかっ……たじゃないわ! ご主人様と合流する前にどこに行っていたんだよ?」
「あまりに暇だったからちょっと散歩していただけだよ?」
「だーかーら、どこを散歩していたんだって聞いてるんだよ! 場所だ場所!」
ルナが息を切らしながら叫び声を上げると、翠は首を左右に振りながらため息を付いて答え始める。
「もー最初からどこの場所にいたのかっていってほしかったよ。それとそんなに大声を挙げなくても聞こえてるよ?」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」
すっとぼけたような翠の返答に、再び声を荒げるルナ。
「はぁ……そんなに大きな声を出さなくても、ちゃんと聞こえてるよ。ルナさん、ストレスたまりすぎてない? 大丈夫?」
「お前に言われたくねーよ! それでどこを散歩していたんだ?」
「んーっとね……ルナさん、本当に聞く覚悟はある?」
突然真剣な表情になり、まっすぐルナに視線を向けるルナ。
「な、なんだよ。急にどうしたんだ……」
「聞く覚悟があるかどうか聞いてるんだ。どうする?」
今まで見たこともない真剣な眼差しを向けられ、ただ事ではないと身構える。そして、小さく息を吐くとまっすぐ翠を見つめて言葉を返すルナ。
「ああ……たとえどんな返答が返ってこようとも、きちんと全部受け止める覚悟だ」
「ほんとだね? どんな返答でもだよね?」
「当たり前だ。先輩として、一緒に暮らす大切な家族だからな」
ルナの言葉に一切の迷いはなかった。それは本当に翠を家族として、大切な仲間として受け入れている覚悟の現れだった。
「わかったよ。じゃあルナさんだから答えるね」
「ああ、覚悟は決まってる……さあ、教えてくれ」
「うん、どこを散歩していたか、それは……」
「それは……」
二匹の間に重苦しい沈黙と空気が流れ始める。時間にして数十秒程度だったが、ルナには永遠の時が流れているように感じられた。そして、沈黙を破るように翠が口を開く。
「……わかんない!」
「そうか……って、はああぁぁ? わかんないってどういうことだよ!」
「えーだって、なんとなく歩いていただけだもん。いつの間にか森みたいなところに着いたんだ」
「だから、その森みたいなところが重要なんだって! 迷宮の中に入ったのか?」
「んーどうなんだろ? 前みたいに階段登ったりした覚えはないから違うんじゃないかな?」
首を傾げながら答える翠を見て、すべてがどうでも良くなってきたルナが大きくため息を吐く。
「はぁ……これ以上聞いても埒が明かないわ……」
「なんかごめんね」
「いやいい、お前が無事であるなら……ちょっと近くを散歩してくるわ」
「は~い、いってらっしゃい」
「いいか! お前はここから動くんじゃね―ぞ! すぐ戻るからな!」
「大丈夫だよ。お昼寝の続きしてるから」
念を押すように声を荒げるルナに対し、笑顔で返答をしながら先ほどと同じように体を丸める翠。
「……頼むぞ。じゃあちょっと散歩してくる」
ルナが声を掛けると、迷宮の目隠しシートに沿うように飛び跳ねていった。そして、姿が見えなくなると、翠が小声で呟く。
「……ごめんね、ルナさん。まだ敵にバレるわけにはいかないんだ……みんなを守るためにも」
言い終えると同時に心地よい風が吹き、翠の呟きもかき消されていった。
「じゃあもう一眠りしていようかな」
その場で体を丸めて夢の世界へ再び旅立つ。
呟いた言葉は何を意図しているのか……翠は何を知っているのか……
この意味が明らかになるのは、もう少し後だった――
最後に――【神崎からのお願い】
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