第9話 深まる謎と音羽のケツイ
翠を抱いたまま含みのある言い方をする瑛士に対し、怪訝な表情をした音羽が問いかける。
「瑛士くん、何が言いたいのか全然話が見えてこないんだけど? それで大穴と翠ちゃんが関係してるのは、なんとなくわかるわ。さらに重要なことって、なんなの?」
「焦るなよ。今から見せてやるから」
不機嫌そうに聞く音羽をなだめながら、左手でズボンのポケットから、ある一枚の紙きれを取り出す。
「あ! それは、わらわの欠片ではないか!」
「そう、探している欠片だ。ルリ、お前も一緒の物を見つけたんじゃないか?」
「まさにその通りじゃ……なんでご主人は、わかったのじゃ……」
驚くルリの様子を見て、何か確信を得たような視線を腕の中で丸くなっていた翠へ向ける瑛士。
「謎の大穴、ルリの欠片、不思議な魔力反応……この三つが重なること自体が偶然とは思えない。そして、この現象が起こる時に必ずすぐそばに翠がいた」
「ま、まさにその通りじゃ……」
瑛士の言葉を聞いたルリは真剣な表情で瑛士を見つめている。その時、静かに聞いていた音羽が疑問をぶつけてきた。
「翠ちゃんが近くにいたからこの現象が起こった……そう言いたいのよね?」
「ああ、そうだな」
「結論付けるにはまだ弱くない? 翠ちゃんが何かを引き起こしている証拠もないし、瑛士くんの時は迷宮の中で起こった現状でしょ? 未知の構造物だし、何が起こっても不思議じゃないわよ」
音羽の指摘を聞いた瑛士は、腕を組みながら深く頷くと口元を吊り上げながら答える。
「たしかに俺の時は迷宮の中で起こったことだ。音羽、何か忘れてないか? ルリが遭遇したのは迷宮の外だぞ」
「あっ!」
瑛士の返答を聞いた音羽が口元に手を当てて、驚きの声を上げる。そして、畳みかけるように瑛士が言葉を続ける。
「お前の言うように迷宮の中だけで起こった事案なら、何も思わなかっただろう。今回は迷宮の近くとはいえ、外の空間だ。しかも、俺の時と共通項がまだある」
「共通項? 何かあったっけ?」
不思議そうに首をかしげる音羽に対し、勝ち誇ったような表情で瑛士が答える。
「大事なことを見落とすなんてお前らしくないな……いいか、どちらもある条件が揃った時に発生している。何を指すか……ルリ、わかるか?」
「は? え? わらわに聞いておるのか?」
急に瑛士から話を振られたルリが、豆鉄砲を喰らった鳩のような顔で答える。
「お前以外に誰がいるんだよ……」
「いや、あまりにもご主人が気持ちよさそうに語っておったから……ほれ、あれじゃよ。刑事ドラマでよくある、自信たっぷりに語り始めて盛大にずっこける人にダブって見えたのじゃ」
「お前な……なんで引き立て役になってるんだよ!」
「え? 美味しいところはわらわが回収できるように、お膳立てしてくれているんじゃろ?」
「ちょっと待て……お前、推理すらしていないのに何のお膳立てだ!」
全身を震わせながら必死に怒りを抑えて話す瑛士を見て、首をかしげながら答えるルリ。
「そんなの決まっておるじゃろ。名探偵は全てを掻っ攫う隙を、虎視眈々と狙うもんじゃろうが」
「あほか! お前の場合は難事件を解決する名探偵じゃなくて、迷宮入りさせる方の迷探偵だろうが!」
「なんじゃと! そのセリフは聞き捨てならんのじゃ……わらわが今までどれほどの謎を解き明かしてきたか知らんのか?」
「そんなことは知るか! そもそも難事件を解決したとか初耳だわ!」
「ふふふ……正義のヒーローは表に出ない謎の存在じゃからのう」
「目立ちたがり屋のお前にできるわけねーだろ!」
瑛士とルリのにらみ合いが始まった時だった。それまで静かに様子を窺っていた音羽が口を開く。
「ねえ、二人とも? 喧嘩もいいけど、話が進んでいないんだよね? 早く瑛士くんは簡潔に結論を述べてほしいな。ルリちゃん、ケンカは後からでもいいよね?」
「……いや、結論を話すには過程を説明しないとだな……」
「わ、わかったのじゃ……しかし、音羽お姉ちゃん……」
「もちろんわかってくれるよね?」
瑛士とルリが言い訳をしようとした時、音羽から更なる圧力が降りかかる。絶対に逆らってはいけない空気が漂い始め、二人は無言で頷くしかなかった。
「うん、二人ともわかってくれてうれしいわ。じゃあ、瑛士くん……早く結論を話してね」
「はい……ルリの欠片と謎の大穴、そして誰か一人と翠が一緒の時にしか起こらない。こんな偶然が続くわけがないから、翠が関係しているという結論だ」
「なるほどね。ルリちゃんは何か言いたいことある?」
「いや、ご主人の言う通りじゃと思うのじゃ」
問いかけに真剣な表情で答える二人を見て、小さく息を吐く音羽。
「ここまで同じことが続くとは、瑛士くんの推理でほぼ間違いなさそうね。じゃあ、二人はこれからどう動く? 翠ちゃんで何か実験するの?」
音羽の問いかけに対し、瑛士とルリが一斉に声を上げる。
「翠で実験なんてするわけないだろうが!」
「大事な家族を危険な目にさらすなんぞ反対じゃ!」
「その言葉を聞いて安心したわ。ふふふ、もう答えは決まっているみたいだし」
「当たり前だ! たしかに不確定要素が多いが、起きた時に対処していくしかないだろう。俺にとって翠が何者かなんてどうでもいいんだよ」
「わらわもいっしょじゃ! ルナも翠も大切な家族……これからもともに生きていくのじゃ!」
二人が必死に訴える様子を見て、安堵した表情を浮かべる音羽。そして、言い聞かせるように言葉を選びながら話し始める。
「そうね、私にとってもルナちゃんと翠ちゃんは大切な家族だし……危害を加えるようなヤツは消し去らなければいけないわ。今後も不思議なことが起こるかもしれないけど、みんなで共有していきましょうね」
「ああ、それがいいと思うぞ」
「うむ、一人で抱え込むのは無しじゃ!」
三人が納得した表情で頷き合うと、何かを思い出した音羽が口を開く。
「それじゃあいきましょう。あっ、忘れてたわ……今日、観光エリアでイベントがあって、みたらし団子食べ放題やってるんだった!」
「な、なんじゃと!」
音羽の言葉を聞いたルリの目が鋭く光る。
「危うく忘れるとこだったわ……二人以上で受付だったから瑛士くん、ルリちゃんと一緒に先に行っていてくれない?」
「別にかまわないが……お前はどうするんだよ?」
「ちょっとお花摘みに行ってから向かうわ」
「花摘み? そんなの後にすれば……」
瑛士が頓珍漢なことを言い出そうとした時、ルリが慌てて声をかける。
「ご、ご主人! 何をぼさっとしておるのじゃ! わらわのみたらし団子が呼んでおるのじゃぞ? 早く行くのじゃ!」
「わ、わかったから手を引っ張るなって! 転ぶだろうが!」
ルリに手を引っ張られ、観光エリアのほうへ向かう瑛士。そして、彼らの姿が見えなくなると、迷宮を見つめながら音羽が呟く。
「やっぱり翠ちゃんは研究所の……いや、そうと決まったわけじゃないわ」
小さく息を吐き、視線を動かすと関係者用入り口から出ていく黒い車が目に入る。その後部座席には見覚えのある女性が乗っていた。
「やっと見つけたわ……私の恩人を無下にした恨み、この手で必ず……」
音羽は唇をかみしめて拳を握ると、走り去る車を睨みつける。
ついに姿を現した飯島女史……瑛士たちの因縁が激突する日はすぐそこまで来ていた……
最後に――【神崎からのお願い】
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