第6話 翠と欠片の関係
「こ、これはわらわの欠片ではないか!」
翠が咥えていたものを見てルリが驚きの声を上げるが、当の本人は首を傾げて不思議そうな顔をしていた。
「ニャ―?」
「いやいや、どうしたの? じゃなくてのう……ちょっと地面に下ろすから、大人しくしているのじゃぞ」
翠を片膝をつきながら地面に下ろすと、咥えていたものを受け取ってまじまじと見つめるルリ。すると翠が首を傾げながら足元にすり寄って来た。
「間違いなく、わらわの欠片なのじゃ……しかし、ここは迷宮の外じゃし、なんでこんなところにあるのじゃ?」
「ニャ―?」
「なあ、翠よ。お主はこれをどこで見つけたのじゃ?」
真剣な眼差しで翠に問いかけると、首をかしげながら鳴き声を上げる。
「ニャー、ニャニャニャ―」
「ふむふむ、散歩していたら変なところに迷いこんだと申しておるのじゃな?」
「ニャ―。ニャニャニャ」
「面白そうだったから、ちょっと探検していたら草むらのようなところに落ちていたと」
「ニャニャ」
地面に座ったまま誇らしげに胸をはって鳴き声を上げる翠。その様子を見たルリは、小さくため息を吐きながら考えを巡らせる。
(まったく……翠の言っている意味がさっぱりわからんのじゃ。ネコじゃから、わらわが入れんところにも行けるじゃろう……じゃが、このあたりに草むらなんてないし、いったいどこまで行ったんじゃろうか?)
顔を上げると周囲を見渡すルリ。しかし、視界に入る景色には、よく手入れの行き届いた花壇と異様な雰囲気を放つ迷宮があるだけで、草むらなど見当たらなかった。その時、近くにいたルナが彼女たちのもとに近寄ってきた。
「ルナ。お主にも聞きたいのじゃが、翠が言っている草むらとやらに心当たりはないか?」
「キュー? キュキュキュー」
「やはりそうじゃな。草むらなんて見たことないか……」
「キュー、キュキュ」
「なんじゃと? 翠は突然姿を消すことが度々あるから、どこに行っているかわからんじゃと?」
話を聞いていたルリがびっくりして翠を見つめると、誇らしげに胸を張ったまま首を傾げる。何かおかしなことでもあったのかと言いたそうな表情を浮かべたまま……
「翠よ……お前はワープする能力でも持っておるのか?」
「ニャ―?」
「あ、いや、気にしなくても良いぞ……」
ルリの言葉を聞いて、首を傾げている翠。
(いかんいかん、だいぶ疲れてきているのかもしれん……翠がそんな能力を持っているはずがないのじゃ。しかし、ルナも翠も出会ったのは迷宮の中じゃ。それに、この謎空間も翠が何か鍵を握っているのではないじゃろうか?)
不思議そうな顔をしている翠を、怪訝そうな顔で見つめるルリ。すると何かを察したのか、満面の笑みを浮かべて再び足元に擦り寄る。
「ニャ―、ニャニャ」
「ふふふ、別に怒っているわけではないのじゃぞ。ちょっと不思議なことが続いていたから、考え事をしていたのじゃ」
喉を鳴らしながら甘える翠を見て、小さく顔を左右に振ると、優しく頭を撫でるルリ。すると今度はルナが鳴き声を上げながら近寄ってくる。
「キュー! キュキュキュ」
「ははは! 自分も撫でてくれと言っておるのじゃな。わかったのじゃ。本当にお前たちは可愛いヤツラじゃのう」
ヤキモチを焼いているのか、反対側の足に頭を押し付け、早く撫でろと要求するルナ。その様子を見て思わず頬が緩み、優しく二匹を撫で始める。先程まで悩んでいたことなど吹き飛び、ルリの顔に笑顔が戻り始める。
「ふふふ。お前たちのおかげで、悩んでいたことがどうでも良くなってきたのじゃ」
「キュー!」
「ニャ―!」
「そうかそうか、嬉しいと言ってくれるのじゃな。お前たちには助けられてばっかじゃのう」
彼女たちを包む雰囲気が柔らかくなり始めた時、何かを思い出したルリが、いきなり立ち上がって声を上げる。
「キュー?」
「びっくりさせて申し訳ないのじゃが……こんな大穴のど真ん中に、いつまでもいたら危ないのじゃ……ルナ、翠、早くここから脱出して、ご主人たちを呼びに行くのじゃ!」
ルリの声を聞いたルナと翠が顔を見合わせると、「あ、忘れてた」といった表情を浮かべる。
「キューキュキュキュ」
「ニャ―、ニャニャ」
「いやいや、言われてみればそうだったじゃないのじゃ。こんな異変が起こっておるのに、いつまでもこの場に留まっておるのは危険じゃ。翠、道案内をお願いできるか?」
少し困ったような表情でルリが話しかけると、自信たっぷりに鳴き声をあげる翠。
「ニャ、ニャー!」
「ふふふ、任せてくれとは頼もしいヤツじゃ。よし、ここから脱出して、ご主人たちを呼びに行くのじゃ!」
「キュー!」
「ニャー!」
二匹が鳴き声を上げると、翠が迷いなく真っ直ぐ歩き始める。その後ろを、ゆっくり追っていくルリとルナ。先ほど彼女がいた大穴の縁に到着すると、安心して緊張の糸が切れたルリが地面にへたり込む。
「な、なんとか無事に戻れたのじゃ……」
「キュー?」
「ニャー!」
「わらわなら大丈夫じゃ……少し安心したら、気が抜けてしまってな。さて、勝手に飛び出てしまったから、ご主人たちも心配しているじゃろう。早く戻るとするか」
ルリが二匹に声をかけると、無言で頷いた。ゆっくり立ち上がり、瑛士たちがいた方向へしばらく歩き始める。
彼女はまだ知らなかった――この直後に自分たちが信じられない光景を目にすることになるとは……
最後に――【神崎からのお願い】
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