第3話 爪の甘さは相変わらず……
腕を組んだまま自信たっぷりな表情を浮かべているルリに対し、瑛士が怪訝な顔で聞き返す。
「飯島女史本人はともかく、周囲は超優秀だ。そんなヤツラが無計画なことをするとは思えないんだが?」
「まあ……ご主人のいうことも一理あるのじゃ」
ルリは肩をすくめて答えると、瑛士がさらに畳み掛ける。
「そうだろ。いくら何でもリスナーあっての配信者だしな。そんな爆死するような真似をするとは……」
「じゃあご主人に聞くのじゃが、最初の配信でどれほどの新規リスナーを獲得できたかわかるのか?」
「い、いや……ちゃんとは見ていないが……」
ルリに質問を返されて言葉に詰まる瑛士。すると隣にいた音羽が顎に手を当てながら答える。
「飯島女史のチャンネル登録者は百人ちょっとよね? その大半は……まあ“ルリちゃんの界隈”が面白がって登録しただけでしょ」
「さすが音羽お姉ちゃんなのじゃ! ちゃんと冷静に分析をして、わかりやすく説明できるのはすごいのじゃ」
「ありがとう。あんな放送事故寸前の配信で三桁の登録者を獲得できること自体、かなり不自然だもん」
褒められた音羽が上機嫌で答えると、ルリが瑛士を見ながらため息を吐く。
「音羽お姉ちゃんはこれだけ冷静な分析をしているのに……おや? ご主人、口開けたまま時が止まっておるぞ? 大丈夫か?」
「あのな……何度も言っているが俺は配信者じゃない」
「はぁ……これだからダメなのじゃ。常日頃から幅広くアンテナを張り、いろんな情報を取り込んでいかねばカリスマになる事はできないじゃぞ」
「だーかーら、俺は配信者にもカリスマにもなるつもりはないってずっと言っているだろうが!」
「はいはい、わかったのじゃ。そういうことにしておいてあげるのじゃ」
苛立った様子で噛みつく瑛士に対し、掌を上に向けながら小さく首を横に振るルリ。火に油を注ぐような態度に向きになって言い返す。
「なんか癪に障る言い方だな……俺がいかにも何も知らないとでも言いたいのか?」
「ん? それはどうじゃろうな。少なくともわらわよりは世界の情勢に疎いのじゃないかのう?」
「あ? 偏った情報しか見ていないお前に言われる筋合いはない。だいたいお前の仕入れてくるのは、リスナーから聞くくらいじゃないのか?」
小馬鹿にしたような顔で煽る瑛士に対し、少し苛立ったルリが語気を強めて答える。
「ふ、負け惜しみとは見苦しいのう。たしかに下僕どもから仕入れる情報もあるが、カリスマ配信者たるもの聞いてばかりでは威厳が保てんのじゃ。当然、あちこちのニュースサイトもしっかり目を通しているにきまっているじゃろう」
「へえ? てっきりゲーム配信とかしか見ていないと思ったわ。ま、深くは調べたりしてないだろうな」
「は? ほんとにご主人は配信という物を分かっておらんな……そんな薄っぺらい知識で下僕どもに太刀打ちできるわけがないじゃろうに」
瑛士が勝ち誇ったように言い返すと、ルリは肩を落としてため息を吐く。すると何かを思い出したのか、彼女は口元を吊り上げて話しかける。
「そんなことよりもご主人? わらわがゲーム配信しか見てないと言っておったが、自分はどうなんじゃろうな?」
「急にどうした? 俺はお前と違って配信ばっか見ているわけじゃないからな」
「ほーん、たしかにそうじゃろう。でも、最近はある特定の配信者を熱心に見ているそうじゃのう?」
「……な、何のことを言っているのかわからんな」
ルリの放った一言を聞いた瑛士の動きが急に止まり、額から大量の冷や汗が流れ始める。その様子を見てさらに畳みかける。
「たいしたことじゃないんじゃがな。最近人気が出てきた女性配信者がいると小耳に挟んだのじゃ。なんでもそれなりに可愛いそうじゃのう?」
「ま、まあ結構人気あるみたいだな。ちょうど俺の興味があるゲームを配信していたし……」
慌てて聞いてもいないことを話し出す瑛士に対し、ルリがさらに煽り始める。
「別にわらわはいいのじゃ。じゃがな、さすがにルナたちの小屋で見るのはどうかと思っただけじゃ。たしかに冷房も効いておるが、やましいことがなければ堂々と見ればよいと思うのじゃが?」
「ち、違う! やましいとかじゃなくてだな……!」
慌てて弁明しようとしたところで、背後から瑛士の肩を叩く人物がいた。ゆっくり振り返ると、満面の笑みを浮かべた音羽が話しかける。
「瑛士くん? ルリちゃんの話は本当かしら?」
「お、音羽さん……あの、これには深いわけがありまして……」
「深いわけってどんなことかしら? 私は確認を取っただけなんだけどな?」
目が笑っていない音羽が沈黙のまま距離を詰めてくる。
「話せばわかるから、な? ずっとやって見たかったゲームの配信でつい見入っちゃって……」
「ふーん、それならなんで自分の部屋で堂々と見ないのかな?」
「それはお前が盗聴器や隠しカメラを至る所に仕掛けるからで……」
「そういうことね。でも……後ろめたい気持ちがないのであれば、見られていても関係ないんじゃないかしら?」
「そこはプライバシーの問題というか……」
しどろもどろになりながら話す瑛士に対し、少しずつ笑顔で詰め寄る音羽。
「まったく……本当にご主人は学習能力がないのう。こうなってしまったらしばらくかかるじゃろうし、どうするかのう?」
「キュー!」
揉めている瑛士と音羽の様子を見て、ルリがため息を吐くと、どこかに出かけていたルナが鳴き声を上げながら駆け寄ってきた。
「ん? どうしたんじゃ?」
「キュ、キュー」
ルリの元にたどり着くと、勢いよく飛び跳ねながら何かを訴えかけるルナ。彼女が困惑していると、来た道を戻るように走り出して振り返り、鳴き声を上げる。
「キュ、キュー!」
「ついて来いと言っておるのか? おい、ちょっと待つのじゃ!」
ルナが大きく頷いて勢いよく走り出すと、慌てて後ろを追いかけ始めるルリ。
いったいルナは、何を訴えかけようとしているのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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