第2話 予測不可能な配信予告
信じられないような言葉を放った音羽に対し、困惑しながら問いかける瑛士。
「お前は何を言っているんだ? 相手はあの飯島女史なんだぞ?」
「もちろんわかっているわよ。瑛士くんこそ少しは冷静になった方がいいんじゃないの?」
「どういう意味だよ……」
こみ上げる怒りを押し殺した瑛士が震える声で問いかけると、わざとらしくため息を吐く音羽。
「はぁ……ほんと飯島女史のことになると周りが見えなくなるんだから」
「それは……でもお前ならわかるだろ? 俺がどんな仕打ちを受けてきたか……」
顔をそむけた瑛士が吐き捨てるように言葉を放つと、音羽が少し苛立ったように声をかける。
「何が起こったのか知らないわけないでしょ! 私だってあの研究所にいたんだから……それに恨みがあるのは私も一緒よ!」
「じゃあ、なんで飯島女史の肩を持つような発言をするんだよ! どう考えてもおかしいだろうが!」
怒り狂った瑛士が怒鳴りつけると、音羽は大きく息を吐きながら話し掛ける。
「……さっきあれほど冷静になれって言ったのに……まあ、怒り狂う理由もわかるけど。ねえ? 瑛士くん、飯島女史が何が何でも欲しいものってなんだと思う?」
「なんだよ、急に……アイツが一番欲しいもの?」
急に投げかけられた質問に戸惑いながら、必死に考えを巡らせる。するとある一つの結論が脳裏に浮かぶ。
「もしかして……自分自身が認められることか?」
「そうよ。彼女が欲しいものは自身に対する名声が何よりも大切だと思うの。だから今回のケースも実績作りの一環だと予想してるのよ」
彼女の話を聞いた瑛士が口を大きく開けて固まっていると、黙って聞いていたルリが口を開く。
「ご主人が驚くのも無理はないのじゃ。アイツの考えることを理解しようとすること自体が無理なんじゃしな」
ルリの言葉を聞いた瑛士が俯いて無言になるが、お構いなしに彼女は話を続ける。
「昔から変わっているようなヤツじゃったが、信念はしっかりしておったからのう。自分の目的を邪魔する奴は無関係な人間であろうと排除するが、無駄に手をかけるようなことはせんぞ。 なぜなら自分に火の粉が飛ぶような事態になっては全てが台無しじゃからな」
「そうか……だから俺の時も自ら手を下すようなことはしなかったのか……」
「そういうことじゃ。そんなことばっかしておるから実績も名声も手に入らんかったんじゃろうな。フハハ、実にいい気味じゃ」
言い終えたルリが笑い声をあげると、スマホを操作していた音羽が怪しげな笑みを浮かべて二人に声をかける。
「ルリちゃんの言う通りよ。まあ、それなりに実績はあったみたいだけど、あのプライドの高さじゃね。そんなことよりもこれを見てほしいの。なんか面白いことを始めるみたいよ」
慣れた手つきで画面をスライドさせた音羽が手を止めると、ある画面を瑛士たちに向けて突き出した。
「な……飯島女史はいったい何を考えているんだ……」
「ははは! これは傑作じゃのう!」
画面を見た二人の反応は対照的だった。呆れて物が言えないといった様子で固まる瑛士に対し、ルリはお腹を抱えて大笑いし始める。そこに書かれていたのは、数日後に行われる予約配信だった。
「本当にあやつは何を考えておるのじゃ! 何が『迷宮再オープン直前スペシャル! いーちゃんがその魅力をレポートします』じゃと? アホなのか?」
「……自ら迷宮の関係者ってばらしてどうするんだよ。アイツも攻略配信するんだろ?」
笑いが止まらないルリのことを気にすることなく、瑛士はスマホを持っている音羽に問いかける。
「そうね、たしかに迷宮攻略の配信をするって宣言していたわ」
「だよな? ほんと天才の考えることはわからない……」
「飯島女史がどこまで考えているかわからないけど……もし、ブレーンがいて指示を出しているのであれば、恐ろしく頭の切れる人がいるってことね」
「は? どういうことだ?」
彼女の言っている意味が理解できない瑛士が問いかけると、真剣な表情で話し始める。
「普通に考えたら迷宮の関係者であることをばらすなんてデメリットしかないわ。でも、あえて公表することによって、公式が認めた迷宮攻略方法というとんでもない実績ができる。さらにアバターを使って表に出るということは、飯島女史やその関係者にはメリットしかないの」
「たしかに実績で言えば間違いないな。でもアバターを使うメリットって……そうか!」
何かに気が付いた瑛士が声を上げると、音羽が小さく頷く。
「そう、アバターを使うということは中の人は誰でもかまわないということなの。それに飯島女史の顔は割れていないわけだから、たとえ本人が裏で動いていてもわからないというわけ」
「ちょっと待て。いくらアバターだからと言っても、さすがにばれるんじゃないのか?」
言葉を遮るように瑛士が食い下がると、彼女は腕を組みながら答える。
「相手は普通や一般常識が通用しない飯島女史なのよ? そんな間抜けなことをするとは思えないの。きっと完璧に手を打ってくるに決まってるわ」
「たしかに……ヤツならやりかねない」
真剣な表情で考え込む瑛士と音羽の様子を見ていたルリが、首をかしげながら問いかける。
「二人ともなんか難しく考えすぎておらんか? 正直、あやつに繊細な計画ができるとは思えんのじゃ。たぶんまた大爆死じゃろ」
腕を組んで怪しげな表情で二人を見つめるルリ。
彼女の口からさらに放たれた言葉に、二人はさらに混乱することになる……
最後に――【神崎からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




