閑話⑬ー6 VS謎の子供?
仲裁に入ろうとして勢いよく扉を開けたルリの目に飛び込んできたのは、中学生くらいに見える容姿の女性だった。紺色のスーツを着ているが、腰まである黒髪をツインテールにしているため子供っぽく見える。彼女の周りには黒いスーツを着た男性が困り果てた様子で立ち尽くしていた。
「何事かと思えば、子供がわがままを言っておったのか」
店員を睨みつけている女性を見て、ルリは小さくため息をつくと優しく声を掛ける。
「こりゃこりゃ、店員さんを困らせているようなことを言ってはならんぞ?」
「あ? あんたは誰よ?」
「ん? わらわのことを言っておるのか?」
「他に誰がいるって言うのよ。そもそもこの私に意見をしようなんて面白いわね」
いきなり目の前に現れた金髪ツインテールの少女に対し、怒りより興味が勝ってまじまじと見つめる女性。
「ふむ……わらわの話を聞く気はあるようじゃのう」
「はあ? 何を言っているのかしら? 私が話を聞いてあげるって言ってるんだからありがたく思いなさい!」
「ふふふ、お子様がイキっているのは微笑ましいのう。ここはお姉さんとしてきちんと話を聞いてあげなければならんのじゃ」
「だーれーがお子様なのよ! あんたのほうがよっぽど子供でしょうが!」
言葉を聞いた女性が目を吊り上げながら、声を荒げてルリに噛みつき始める。
「威勢の良さは認めるのじゃが、どう見てもお子様にしか見えんからのう。ほれ、周りをよく見てみるのじゃ、みんな困っておるじゃろ?」
ルリに促されて周囲を見渡すと店員を始め、黒服の男たちや店内にいたお客さんたちが微笑ましい表情を浮かべていた。
「……どこをどう見ても困っている様子なんてないんだけど?」
「それなら良かったのじゃ。まあ、子供のわがままということが理解してもらえたんじゃろうな」
「だーかーら! 私はれっきとした大人のレディーなのよ! お酒だって飲めるんだから!」
「はいはい、わかったのじゃ。でも、悪いことを自慢したい気持ちはわかるのじゃが、法律は守らないといけないのじゃ」
「なんで子供に言われなきゃいけないのよ!」
顔を真っ赤にして発狂する女性に対し、ルリは右耳をふさぎながら呆れた様子で話しかける。
「もうちょっと静かにできないのかのう……」
「はあ? あんたがバカにするのがいけないのでしょうが! 私みたいな大人な女性を捕まえて子供扱いするほうが間違いなのよ!」
「あーはいはい、わかったのじゃ、精一杯背伸びして大人になろうとしているレディーってことにしておくのじゃ」
「ふざけるのもいい加減にしなさい! こんな唯一無二で世界中の男が構いたくなるような女性がどこにいるのよ!」
「……うん、まあ、ごく一部の大きなお友達には人気が出そうなのじゃ」
的を射た言葉に、今まで黙って聞いた黒服たちが一斉に吹き出す。その姿を見たルリの口元が釣り上がる。
「ぶっ……それは間違いない……」
「あんたたち……何を笑っているの?」
「げっ……見つかった。い、いえ決して笑っているわけではなくてですね……」
「は? 思いっきり笑っていたわよね? 普段からそういう目で私を見ていたってことなの?」
「い、いえ……決してそのようなことはなくて……」
怒りの矛先が黒服たちに向かい、鬼の形相で詰め寄っていく女性。
「じゃあ何なの? どういうふうに思っているのか早く言いなさい!」
「ちょっと待ってください……今ここで正体をバラすのはまずいといいますか、お忍びで来ているわけなので……」
「は? 何言ってるか全然わからないんだけど? あ、そう。何も言えないというのならお仕置きが必要みたいね?」
言葉に詰まって困惑する男性たちに対し、女性の怒りが臨界点を突破した。近くのテーブルに置いてあった水の入ったコップを手に取り、そのままぶちまけようとする。
「む! これはいかん! 他のお客さんに被害が出てしまうかもしれん」
頭で考えるよりも先に体が動いたルリ。右手に力を込めると、わずかに光を纏い始める。
「いけ、浄めよ、光――聖浄庇」
ルリが短く詠唱を唱えると淡金色の光膜が男性たちを包み、掛けられた水が女性めがけて跳ね返る。そして、女性に水がかかる寸前、まばゆい光とともに小さな爆発が起こって周囲が煙に包まれる。
「キャー!」
店内に悲鳴が響き渡ると同時に煙が薄くなり、目を回した女性が床に倒れていた。その姿を見た黒服の男性たちが真っ青な顔で慌て始める。
「た、大変だ! しっかりしてください!」
「おい、早く車の手配をするんだ!」
慌ただしく女性を担ぎ上げると、急いで店の外へ出ていった。店内にいた人たちが呆然としていると、戻ってきた男性が話し始める。
「この度はご迷惑をおかけしました。気絶しただけですので、我々の方で引き取らせていただきます。迷惑料というわけではございませんが、本日のお代はすべて我々が負担させていただきます。それでは失礼いたします」
深々と頭を下げるとルリのもとに近寄り、小声で話しかける。
「先程は守ってくれてありがとう。あのまま暴走されたら面倒くさいことになっていた……さすがはカリスマ配信者だ」
「ふふふ、よくわかっておるのじゃ。ヒーローはピンチのときに輝くのじゃからな」
ルリが勝ち誇ったような顔で返事をすると、わずかに頬を緩ませた男性が店内に向かって宣言する。
「皆様、ご注目ください! こちらの勇敢な女性が我々の窮地を救ってくれました! なんとこの方は人気急上昇中のカリスマ配信者でもありますよ!」
「もしかしてと思ったけど……超人気配信者のルリ様じゃない?」
「あの金髪ツインテールは……まさか降臨されるとは!」
「ああ……ルリ様に救って頂けるなんて……まさに神だ!」
店内が一斉に色めき立ち始め、人々が一気にルリの周りに集まり始める。
「これは……一体何事なのじゃ!」
「あとは頼んだぜ、カリスマ配信者さん」
困惑するルリの様子を見て、黒服の男は笑みを浮かべながら人混みの中に姿を消した。
この後、店内の中央に椅子が用意され、まるで神のように崇められることになった彼女が悲痛な叫びを上げる。
「どうしてこうなったのじゃ! わらわのみたらし団子体験はいつになったらできるのじゃ!」
彼女の叫びが届くことはなく、瑛士たちが現れるまでこの状況は続くのだった……
店の奥から香ばしく焼かれたみたらし団子の香りが漂い始めていた。
最後に――【神崎からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




