閑話⑬ー4 カリスマ配信者といわれる由縁
瑛士たちが迷宮前で紀元と鉢合わせしたころ、ルリは二匹を連れて観光エリア近くを散歩していた。
「まったく……ご主人は人使いが荒いのう」
「キュー、キュキュ!」
「ニャー」
「そうかそうか。お前たちも同じ考えなのじゃな」
ため息を吐きながら一緒に歩くルナと翠へ愚痴をこぼすルリ。
「だいたい下僕から聞いたことを話しただけなのに、なんであんな怒ったような顔になるのかわからんのじゃ。まあ、工事現場に子供がおるというのは不自然な話じゃが……」
立ち止まると腕を組み、首をかしげて考え込むルリ。事の発端は彼女たちが迷宮に隣接する公園を散歩していた時、以前から面識のあった女性警備員と雑談をしたことだった。
「え? ル、ルリ様じゃないですか? なんでこんなところにいらっしゃるのですか!」
ルナと翠を引き連れて公園内を散歩していたルリは、背後から聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り返る。
「ん? おお! お主は警備員の下僕ではないか」
「お、覚えていただいていたのですか? 私のような一般人のことを……」
「何を言っておるのじゃ? わらわと一緒にソフトクリームを食べた仲じゃろうが」
「ひゃ、ひゃい! ソフトクリームにご相伴させていただいた者です! ああ……警備員やっていてよかった……」
両手を胸の前で合わせ、顔を空へ向けると涙を流して微動だにしなくなる女性。その様子を見たルリが不思議そうな顔で問いかける。
「ありゃ? どうしてしまったのかのう? おーい、戻ってくるのじゃ」
「はっ! 申し訳ございません、幸せのあまり昇天しかけておりました」
「ははは、大げさじゃのう。わらわも会えてうれしいぞ」
「ああ……これは現実なの?」
再び違う世界へ飛びかける女性に対し、何かを思い出したようにルリが問いかける。
「そういえば、なんでお主はこんなところを歩いておったのじゃ? 以前会ったときは迷宮の一階層だったはずじゃが」
不思議そうな顔でルリが問いかけると、女性は背筋を伸ばして胸を張って答える。
「はい! 自分の担当はおっしゃられたように一階層の警備が主な業務です。現在は改修工事に伴う業者の誘導と周辺の警備を担っております」
「なるほど、本格的に工事が始まって人の出入りが多いからのう。不審人物が紛れ込んでは大変なことになってしまうのじゃ」
「はい! 先日も迷宮の一階層でトラブルが発生し、対応に追われておりました。なんでも新規出店する工事現場に中学生くらいの子が紛れておりまして……」
「中学生くらいの子供が? それは興味深い話じゃのう。それと、普通に話してくれて構わんぞ」
工事現場に子供がいたということに興味をひかれたルリが、食い気味に問いかける。
「わかりました。出入りしている業者から、『ヒステリックに叫びながら子供が暴れている』と通報がありまして……現場に急行すると、スーツを着た男性数名が床に正座して子供に頭を下げているという奇妙な光景が広がっておりまして……詳しく話を聞こうとしたら『何? 私は忙しいの! そいつらに聞いておいて!』っと言われ、立ち去ってしまったのです」
「ふむ、ずいぶん横柄なやつじゃ。わらわがガツンと言ってやらねばならぬな」
「いえいえ、ルリ様のお手を煩わせては……。今日は同様の通報があって、本人から事情を聴こうとしているのですが、逃げ足が速くて探している最中なんです」
疲れたような表情で女性が小さく息を吐くと、何かを思いついたように手をたたいたルリが声を上げる。
「よし、事情は分かったのじゃ。わらわも一緒に探してやろう!」
「え? いいんですか? ものすごくお忙しいルリ様にお時間取らせるなんて……」
「何を言っておるのじゃ! 下僕が困っておるのに無視などできぬ!」
「ありがとうございます!」
何度も深々と頭を下げる女性に対し、優しく言葉をかけるルリ。
「困ったときはお互い様じゃ。わらわに安心して任せるがよい!」
「もうなんとお礼を申し上げてよいのか……」
ルリの言葉を聞いた女性が感激していると、耳につけていた無線へ同僚から連絡が入る。
「すいません、無線が入りましたので……どうした? 例の子供がスーツを着た男性とまたもめているだと? 場所は……私のほうが近いな。今から現場へ急行する」
無線を切ると小さくため息を吐き、ルリへ話しかける。
「ルリ様、大変心苦しいのですが業務に戻らねばなりません。例の子供が見つかったそうなので、今から行ってきます」
「そうか。くれぐれも気をつけてな」
「ありがとうございます。ルリ様も何かございましたら、すぐご連絡ください」
ルリに一礼すると迷宮のほうへ向かい走り去っていく女性。手を振りながらその姿を見届けると、足元に控えていた二匹へ話しかける。
「何やらトラブルが多いのう。お前たち、おとなしく待てて偉いのじゃ」
「キュー」
「ニャー」
ルリから褒められて誇らしげに返事をするルナと翠。
「さて……話していたらちょっと小腹もすいてきたことじゃし、おやつでも堪能しに行こうではないか! たしか新しくできた観光エリアに気になる店を見つけたのじゃ。もちろんお前たちも一緒じゃぞ」
「キュ、キュー!」
「ニャ、ニャ、ニャー!」
おやつという言葉を聞いた二匹が目を輝かせ、ルリの周りを勢いよく走り回る。その様子を見て、笑いながら声をかける。
「ははは! はしゃぎすぎじゃぞ。それじゃあ向かうとするか!」
笑いながら観光エリアにある目的の店に向かって歩き始めるルリたち。
この直後、話に上がっていた「あの子供」と鉢合わせることになるとも知らず――
最後に――【神崎からのお願い】
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