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ラストリモート〜失われし読書魔法(リーディング・マジック)と金髪幼女で挑む迷宮配信〜  作者: 神崎 ライ
幕間⑬

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閑話⑬ー3 暴走は加速して?

 飯島が姿を消してから数日が経過し、忙しく日々の業務を進めていた紀元。次の打ち合わせに向かうため、廊下を歩いているとスマホに着信が入る。


「紀元だ。珍しいな、こんな時間に連絡なんて。何か問題でもあったか?」


 電話をかけてきたのは、迷宮の改装工事における現場管理を任せている部下からだった。


「お疲れ様です。本部長にどうしても報告しなければならないことがありまして……実は……」


 疲れ切った様子の部下が口を開くと、信じられない言葉が聞こえてきた。


「はぁ? 博士が迷宮の改装工事で()()()()を執ってるだと?」

「は、はい……昨日急にお見えになられて、『今日から私が監督よ!』っと言われました」


 部下から上がってきた報告を聞いた紀元は、目を覆うように右手を当てると顔を上にあげて大きなため息を吐いた。


「なんで博士が迷宮にいるんだよ……こっちは行方が分からずに大混乱に陥っているのに……」


 絞り出すような声で言葉を漏らす紀元。数日前、飯島がモニタールームから忽然と姿を消したことにより、会社内が大パニックに陥っていた。前迷宮管理団体理事の一斉逮捕、各報道機関へ大事にしないための根回し、関係取引先への説明など、日常業務が回らないほど状況は切迫し始めていた。


「す、すいません……博士から『紀元にはまだ報告しないように。見つかると怒られるから』と言われておりまして……何とか監視の目をかいくぐって連絡させてもらいました」

「そうだったのか……よくぞ報告してくれた。これから俺も迷宮に向かうから、何とか博士にばれないように引き留めておいてくれ」

「は、はい! できる限りやってみます。あ、何かトラブルがあったようなので一旦現場に戻ります」「おい、無理はするなよ……って、遅いか。あれ? 通話つながったままなのか?」


 慌てた部下が通話を切り忘れたため、スピーカーから現地の声が聞こえてきた。すると聞き覚えのある甲高い怒鳴り声が響いてくる。


「ちょっと! そんなところに棚があったら私が目立たないじゃない! いい? 世界中からファンが押し寄せることは間違いなんだからもっと考えなさい!」

「は、はい……しかし、ここに棚を作らないと設計強度が……」

「はあ? 棚の一つや二つなくても変わらないわよ。そもそもの設計がおかしいんじゃないの? ちょっとその設計士を呼び出しなさい!」

「博士、ちょっとそれは難しいといいますか……役所の許可も取り直されたら大変なことに……」

「役所が何だっていうの? いいわ、私が誰だかまとめてわからせてあげる! さっさと担当を全員呼び出しなさい!」


 スマホから聞こえてくる音声を聞いて、大きく肩を落としてうなだれる紀元。


「……あの人は何をやってるんだ……頼むからこれ以上仕事を増やさないでくれよ」


 頭を抱えたまま、しゃがみ込む紀元。これ以上現地の様子を聞いていられる気力はなく、静かに通話終了ボタンを押すと大きく息を吐いてその場にしゃがみ込んでしまう。すると近くの部屋から出てきた部下がその姿を発見し、声をかける。


「本部長、お疲れ様です。そんなところにしゃがみ込んで、どうされたのでしょうか?」

「ああ、お疲れ。ちょっと問題が発生してな……」

「そうでしたか。ここ最近ずっと働きづめでしたから、しっかり休んでくださいよ。自分が言えることじゃないですが、たまには外の空気を吸われたほうがいいかもしれませんね」

「間違いないな。改修工事の進捗状況も自分の目でしっかり見ておきたいのだが……」


 話を聞いてくれていた部下に思わず愚痴をこぼすと、驚きの提案が返ってきた。


「本部長……()()()視察に行ってみてはどうですか?」

「いやいや、それは無理だろ。これから打ち合わせが入っているし、本部長という立場で抜けるわけには……」

「次の打ち合わせって自分が責任者のやつですよね? 大方の方向性は前回の会議で決まりましたし、任せて頂いて大丈夫です! なので、たまには気分転換してきてくださいよ」

「そ、そうか? それなら迷宮のほうに顔を出してくるとするか……」


 部下からの思わぬ提案に心の中でガッツポーズをする紀元。


「本部長、顔に出てますよ」


 嬉しさのあまり表情にも出てしまっていたようで、部下に笑いながら指摘される。


「仕方ないだろ……本音はずっと気になっていたんだから」

「でしょうね。たまにはいいんじゃないですか? きっと本部長が顔を出せば迷宮のメンバーも喜びますよ」

「そこまで言われると照れるな……じゃあ、あとのことは任せたぞ」

「はい、お任せください!」


 胸に手を当てて誇らしげに話す部下を見て、心の底から安堵する紀元。


(本当に頼もしい部下たちに支えられて幸せだ)


 部下と別れた紀元は迷宮に向かうため、会社の外に出るとタクシーを拾うために周囲を見渡す。


「……いや、せっかくだから歩いていくか。たまには外の空気に当たって気分転換だ」


 顔を左右に振ると、迷宮方面に向けて歩き始める。先ほどまでの追いつめられたような雰囲気はなく、晴れ晴れとした表情だった。


「さてと……まずは博士と合流する前に()()()に接触しておくか。その後、観光エリアで英気を養おう」


 軽やかな足取りで歩みを進める紀元の表情に確かなケツイが宿る。

 まだ彼は知らなかった……この判断が後に大きな災いの元となるとは――

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