第7話 みたらし道の極意
ルリを囲んでいた観客たちが店内から走り去って数分後、先程までの喧騒が嘘のように辺りが静まり返る。
「……なんだったんだ?」
「まあ、これでゆっくり話が聞けるからいいじゃない」
瑛士が困惑した様子を気に留めることも無く、音羽が走っていった人々の方角を眺めながら不敵な笑みを浮かべていた。
「そういえば、いつの間にポストカードとかサインとか用意したんだ?」
「ああ、そのこと? ずっとルリちゃんと計画していたのよね?」
まだ呆然としていたルリに音羽が話を振ると、胸を張って答え始める。
「そうじゃぞ。先日無料でアイスを食べさせてもらった恩もあるのでな。音羽お姉ちゃんのアドバイスを受けながらわらわの自撮りポストカードを作ったんじゃ」
「いや作ったって……何枚印刷したんだよ?」
「うーん……五百枚近くは作ったかのう」
「は……? それ全てにサインを入れたのか?」
返答を聞いて唖然としている瑛士に対し、ルリと音羽が思いっきり吹き出しながら答える。
「ぷっ……いくらルリちゃんでも五百枚に全部サインするなんてできるわけ無いでしょうが」
「あはは! ご主人は相変わらずおもしろいことを言うのう。そんなの印刷に決まっておるじゃろう。まあ、数枚は手書きをしたがな」
あっけらかんというルリに対し、口を大きく開けたまま固まっている瑛士。そんな彼を気にかけること無く、音羽が彼女に問いかける。
「さてと、邪魔な人たちも消えたことだし……ルリちゃん、お店で騒いでいた子供のような人ってどんな感じだった?」
「おお、そうじゃった! 背はわらわと同じくらいで、やたら甲高い声で騒いでおったのう」
黙ってルリの話を聞いていた瑛士と音羽だったが、甲高い声で騒いでいたというところが引っかかった。
「ルリと同じくらいの背でやたら甲高い声? なんか引っかかるな……」
「そうね。ルリちゃん、他にどんな特徴があったとか覚えていない?」
話を聞いていた瑛士が険しい顔で顎に手を当てて俯く中、音羽はさらなる情報を集めようとルリに聞き返す。
「そうじゃのう。『自分は高貴な存在だー』とか『迷宮のおかげでこれだけ盛り上がってるのは私がいたからなのよ』とか言っておったのう」
腕を組みながら答えるルリを見て、瑛士と音羽は顔を見合わせる。
「おい……そんな事を言うやつなんて、この世に一人しかいないんじゃないか?」
「ほぼ間違いないと思うわ。でも、どうしてこんな人の多いところで大騒ぎしていたんだろ?」
二人が首を傾げながら話していると、少し離れた位置にいたルリが駆け寄ってきた。
「二人ともどうしたんじゃ? 何かおかしなことでもあったかのう?」
「話を聞いただけだが、色々とツッコミどころが満載でな……」
ルリの話を聞いていた瑛士が複雑な表情をしていると、隣で聞いていた音羽が話しかける。
「その人物の正体は置いておいて……どうしてルリちゃんがさっきみたいに称えられるような事になったのかしら?」
「多分なのじゃが……その騒いでいた人物を黙らせて追い出したからかのう? わらわがやりたかったみたらし団子制作体験を邪魔されたから、かなり頭にきたのじゃ」
「はあ? みたらし団子制作体験?」
ルリの話を聞いた瑛士が怪訝な顔をしていると、ルリが少し苛立った表情で噛みつき始める。
「なんじゃ? ご主人はみたらし団子制作がいかに奥深いものかわかっておらんのか?」
「いや、みたらし団子はそのへんでも売っているじゃん」
「あーこれだからダメなのじゃ! その辺に売っている物と自分で制作するものはぜんぜん違うのじゃ!」
両手の手のひらを上に向けて持ち上げ、呆れたように肩をすくめるルリ。
「そのへんで売っているみたらし団子ももちろんうまいのじゃがな、ここでは自分も焼き加減を調整できるんじゃ。じっくり焼き加減を調整して外をパリパリに仕上げることもできるし、もっちもちの食感を楽しむこともできるのじゃ。それに誰も数種類から選ぶことができ、自分好みにアレンジすることも可能なんじゃ」
「お、おう……」
ルリの口から次々と出てくるこだわりに圧倒される瑛士。そんな様子を気に留めることもなく彼女のマシンガントークは止まらない。
「ここからが重要なんじゃ! 美味しいみたらし団子を作るには静かな環境で、じっくり団子と向き合う必要がある。それなのにじゃぞ? あの中学生みたいなやつはキャンキャン喚き散らして、素晴らしい環境をぶち壊しておったのじゃ。それにルナや翠に危険が及ぶ可能性もあったから、わらわが驚かせて追い出したのじゃ!」
勝ち誇ったような表情で胸を張って答えるルリに対し、真剣な表情で話を聞いていた音羽が話しかける。
「ルリちゃんの言う通りね……みたらし道は奥が深い。真剣に団子と向き合うためには、精神統一が必要だもんね」
「いやいや、なんで精神統一が必要になるんだよ? それにみたらし道ってなに? 始めて聞いたんですけど!」
「みたらし道の何たるかもわからないおこちゃまは、黙っていてくれないかしら?」
「おこちゃまって同じ年だよね?」
騒ぐ瑛士を無視して、ルリに話しかける音羽。
「ねえ、ルリちゃん。その騒いでいた子を追いかけた時、何人か連れの人はいなかった?」
「そうじゃった。スーツを着た人がおったのじゃが、なぜか全員から頭を下げられたのじゃ」
「やっぱり……瑛士くん、その騒いでいた人物の正体がわかったわよ」
確信を得たような表情で瑛士に声を掛ける音羽。
彼女が言う騒いでいた人物の正体とは誰なのか?
最後に――【神崎からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




