第6話 カリスマ配信者の災難は続く?
警備員についていくと迷宮とは反対方向に向かって歩き始める。
「あれ? そっちは新しくできた観光エリアのほうじゃないですか?」
疑問に思った瑛士が問いかけると、一切振り返ることなく淡々と答える警備員。
「そうですよ。ルリ様がいるのは観光エリアの一角ですから」
「そうですか……アイツそんなところで何をしでかしたんだ?」
「まあまあ。行ってみたらわかるでしょ? それに心配いらないわよ、ルリちゃんだもん」
「うーん、ルリだから心配なんだけどな……」
涼しい顔をしている音羽とは対照的に、腕を組みながら唸り声を上げている瑛士。そんな会話をしながら歩いていると、新しくできた観光エリアが見えてきた。すると奥の方から何かを叫んでいる声が聞こえてきた。
「だーかーら、いい加減わらわを解放するのじゃ!」
「そんなこと言わずにお願いしますよ……ルリ様はいてくれるだけでいいですから」
「もう飽きたのじゃ! それにわらわはこれからアイスを食べるという重要なミッションが残っておるのじゃ!」
「あいつは何をやっているんだ……」
駆け付けた瑛士たちが見たものは、お店の中央に設置された豪華な椅子に座らされているルリの姿だった。そして、彼女を取り囲むようにお客さんが手を合わせて拝んでいた。
「なんだこの状況は……」
「あ! ご主人、ちょうどいいところに来たのじゃ! 早くわらわを助けるのじゃ!」
瑛士の姿を見つけたルリが、身振り手振りをしながら大声で叫ぶ。
「いったい何があったんだよ……なんか宗教団体の儀式みたいになってるぞ」
「わらわは何もしておらんのじゃ! 店にクレームをつけていた子供がいたから、ちょっと驚かせて追い払ったらこんなことになってしまったのじゃ」
「追い払ったって……いったい何をしたんだ?」
「え、あ、それはじゃのう……」
瑛士が聞き返すと、露骨に視線を逸らしながら顔を背けるルリ。その姿を見て何かを察した瑛士が、彼女を睨みつけながら声をかける。
「ルリ、まさかと思うが……魔法を使ったのか?」
「……」
「おい、ちゃんと答えろ。使ったのか使ってないのかどっちだ?」
「……ちょこっとだけ? そんなに派手に使ったわけじゃないのじゃよ」
目を泳がせながら必死に言い訳をするルリを見て、瑛士は大きくため息をつきながら話し掛ける。
「へえ? 少しだけ魔法を使ったんだな? でもお前って加減して使うことが苦手じゃなかったか?」
「う……そこはあれじゃよ。わらわも日々成長を続けておるからのう。今までとは違うのじゃ」
一瞬返答に詰まったが、すぐに立ち上がると胸を張って答えるルリ。その様子に取り囲んでいた観客は神でも見るかのように、涙を流しながら両手を合わせて崇めている人もいた。
「ルーリー、怒らないからどんな魔法を使ったんだ?」
「えーっと、ちょこっと光が出て大きな音がする……」
鋭い視線を向けられてルリが言い淀んでいると、瑛士の隣にいた音羽が一歩前に出て話し始める。
「ルリちゃん、私が教えたように光と音で脅かすように追い払ったのね?」
「そ、そうなんじゃ! 音羽お姉ちゃんに教えてもらったようにやったのじゃ! こんなお客さんがたくさんいる中で攻撃魔法なんてぶっ放したら、大変なことになってしまうからのう」
「うんうん、ルリちゃんはできる子だもんね。やっぱりカリスマ配信者は違うわ」
「ははは! わらわほどになれば不可能も可能にできるのじゃからな」
音羽の言葉を聞いてさらに調子に乗るルリに対し、額に手を当てて大きなため息をつく瑛士。
「誰がカリスマ配信者だよ……やっぱり音羽が裏で糸引いてたんじゃねーか」
「まあまあ、ルリちゃんを持ち上げておいた方がいろいろ動きやすいしね」
「ん? どういう意味だ?」
彼女の言っていることが理解できず、首をかしげていると音羽がルリに話しかける。
「ルリちゃん、ちょっと聞きたいことがあるからこっちに来てくれないかな?」
「うーん、わらわも早く抜け出したいのじゃが……この状況では難しいのう」
問いかけにルリが困った顔をしていると、音羽が小さく息を吐いて彼女を取り巻く観衆に声をかける。
「はいはい、皆さん。ルリちゃんが困ってますよ」
音羽が声をかけると観客たちがざわつき始める。
「誰だ、あれ?」
「ルリ様とやけに親しげに話していたぞ?」
「いったい何が始まるんだ?」
色んな声が上がる中、音羽は軽く手を叩くとさらに話を続ける。
「はいはい、大切なことを言いますから良ーく聞いてくださいね。彼女は配信者としても活動していて、お悩み相談も行っています。チャンネル登録は無料ですのでよろしくお願いします。それで……ここからが重要なお知らせです!」
音羽の言葉を聞いた観衆が一斉に静まり返る。すると口元を吊り上げながら、声高々に宣言した。
「なんと本日限定でルリちゃんのサイン入りポストカードを配っちゃいます! これはもう二度と手に入れることはできない激レアものですよ。配布場所は迷宮の展望フロアにあるアイス屋さんです。無料でもらうこともできますが……彼女のおすすめアイスも楽しんでもらえたら嬉しいな」
「おいマジかよ……」
「サイン入りとか激熱じゃん」
「ポストカードだけもらうのもアレだし、アイスも食べてみようかな?」
再び観客がざわつき始めると、さらに追い打ちをかけるように音羽が煽る。
「それでは今から配布スタートします! 特別なメッセージ付きも紛れているかもしれないから、はやくゲットしてみてね」
音羽が言い終えると同時に観客たちは、一目散に展望フロアを目指して迷宮の方へ走り出した。
はたして彼女の作戦は吉と出るのか凶と出るのか……
最後に――【神崎からのお願い】
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