閑話⑫ー2 嫌な予感は的中する
「はあ……配信用のアバターを作るのですか?」
「そうよ! 私のような天才美女が表に出てしまったら、世界中が大騒ぎしちゃうでしょ?」
(その自信はどこから湧いてくるんだよ……むしろ別の意味で大騒ぎになるわ)
腕を組みながら胸を張り、自身に満ち溢れた表情で話す飯島。話を聞いていた紀元は額に手を当てながら大きなため息を吐いた。そして視線を机の上に向けると、大きく赤まるを付けられた企画書が目に入った。
(ああ、企画書を読んだのか……でも、どうしたら博士が配信をするという発想になるんだ?)
事の発端は、若手社員が発案した迷宮攻略初心者に向けた動画の提案だった。二次元のイラストを元にしたアバターを使用し、顔出しをしないで配信できるメリットがポイントだった。
(顔出し無しで配信ができるなんて最高じゃない!)
面が割れることを危惧していた飯島にとって夢のような企画だった。詳細な説明をしている若手の言葉を遮ると独断で承認すると、満面の笑みを浮かべてエントランスへ向かう姿が目撃されていた。何も知らない紀元が建物に入ると、有無を言わさずモニタールームまで引きずられて現在に至るというわけだ。
「それで博士は何の配信をされる予定なんですか? まさか博士の研究を全世界に向けて発信するとかじゃないですよね?」
「はあ? なんで私の高貴な研究成果を無償で発表しなきゃいけないのよ!」
「ですよね……じゃあ、何を発信されるのでしょうか?」
顔を引きつらせた紀元が問いかけると、口元を吊り上げた飯島が話し始める。
「決まってるじゃない! 私が直々に迷宮攻略配信をしてやるのよ!」
「えっ……冗談ですよね?」
返答を聞いた紀元が大きく口を開けて固まっていると、飯島が自信満々に語り始める。
「ふふふ、衝撃のあまり言葉が出ないようね! 最近迷宮配信がバズってるし、底辺どもに本物の攻略というものを直々に教えてあげるいい機会じゃない。まあ、私が配信を始めたら世界中のファンが迷宮に押し掛けちゃうかもしれないわ」
(……クレームが殺到する未来しか見えないのだが)
上機嫌に笑う飯島を見ながら最悪の事態を想像していた時、紀元の頭に一つの妙案が閃いた。
(一か八かだが……ネット掲示板を利用すればうまくいくかもしれないな。へそ曲げられても困るから持ち上げとくか)
「博士、さすが素晴らしい着眼点ですね! ネットの世界も支配できるチャンスを思いつくとは」
「でしょ? ちょっと可愛いだけの配信者が人気出るんだったら、私が成功しないわけがないのよ! なにせ天才美女ともてはやされた女ですから!」
高笑いの止まらない飯島に対し、何とも言えない表情で立っている紀元。
(自分で美女って言ってるけど……明らかに中学生の頃から一切成長してないような容姿だし、その性格じゃな)
「ん? 紀元……今すごく失礼なこと考えていたでしょ?」
「い、いえ……そんなことは一切ありません!」
「ふーん、まあいいわ。今日の私はすごく機嫌がいいから。さあ、大成功の布石のためにイラストを発注しないとね!」
「そうですね、著名なイラストレーターさんをピックアップして参ります。取引先への声掛けはどうしましょうか?」
紀元の問いかけに顎に手を当てて考え込む飯島。数秒の沈黙の後、ゆっくり口を開く。
「取引先への声かけはしなくていいわ。ほら、スポンサーとかが殺到したら対応が大変になるし、いろいろ制約が大きくなるでしょ? そんな裏から手を回さなくても、すぐに向こうから頭を下げてくるわ」
「そうでしょうか……ま、まあ、徐々にリスナーを増やしていけばいいですしね」
「そうね。前に私をバカにしてきたあのリスナーどもが、手のひらを返してくるのも時間の問題ね!」
「そ、そうですね……」
高笑いが止まらない飯島に対し、口元を引きつらせて何とか笑顔を保つ紀元。
(ものすごく嫌な予感しかしないんだが……)
「それでは博士、アバターのデザインや発注などの取りまとめがあるので失礼します」
「はいはい、よろしくね。なるべく早く見本を持ってきなさいよ」
モニタールームを後にした紀元は大きなため息を吐いた。
「だめだ……どう考えてもアンチが大量発生する未来しか見えない……」
額に手を当てながら重い足取りで廊下を歩き始める紀元。 彼の心配が的中する日がすぐそこまで来ているという事も知らず、準備は着々と進んでいった。
最後に――【神崎からのお願い】
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