第6話 アンチは新たなおもちゃを手に入れました
テレビに映し出される配信画面のある部分を見た瑛士は笑いが止まらなかった。
「あはは! やけに視聴者数が多いかと思ったらアンチが湧いてるじゃねーか」
「そうそう、たぶんこのリスナーってルリちゃんのファンだわ。ちょっとコメントの部分を拡大しよっと」
音羽がリモコンを操作するとコメント欄が大きくなり、より鮮明に見えるようになった。
《チャットコメント》
『あいかわらず画面に何も映ってねえwww』
『ババアの顔出し配信はきつすぎるwww』
『チャンネル名が……いやこれ以上は何も触れまい』
『そこは触れちゃダメだって……自称“天才”が考えた高貴なお名前なんだからw』
『自称天才www』
次々と流れるコメントに飯島の怒りが爆発し、ヒステリックな金切り声が響き渡る。
「キー! 誰が自称天才ですって! 実績も富も名声も手に入れた完璧な美女の声を聞かせてあげてるのよ? もっと褒め称えるべきでしょ!」
「いや、そこは自分で言うなよ……」
飯島の言葉を聞いた瑛士は、すかさず画面に向かってツッコミを入れる。
「瑛士くん、テレビにツッコミを入れても伝わらないわよ」
「それはわかっているんだが、つい癖でな」
「私も同じことを思ったから気持ちはわかるわ。でもコメント欄がもっと面白いことになってきてるわ」
少し呆れたような表情で瑛士に声をかけると、口元を吊り上げながら画面を指さす音羽。
《チャットコメント》
『妄想乙www』
『富と名声があるやつがなんで配信なんてやってるんだよwww』
『必死過ぎ、ワロタ』
『ワースゴイデスネーテンサイノカンガエルコトハチガイマスネー(棒読み)』
『なんで俺たちはこんなBBAの金切り声を聞いているんだ?』
ヒートアップするたびにどんどん大喜利状態になっていくコメント欄に対し、飯島の怒りもどんどん加速していく。
「こいつらはいったい何なのよ! 何で大喜利みたいなことになってるの? ちょっとどういう事よ、話がちがうじゃない? アンタが配信を始めれば大成功間違いないって言ったじゃないの! あ、ちょっとどこ行くのよ!」
画面の向こうで誰かが部屋から出ていくような音が聞こえると、飯島の態度が一変する。
「ちょっと……ひどくない? わたし、初めての配信でこんなに頑張っているのに……」
泣き落としとも思えるような豹変ぶりに手厳しいコメントが飛び交う。
《チャットコメント》
『急に被害者ぶり始めたぞw』
『BBAの泣き真似は見苦しいw』
『三流役者のほうがましじゃね?』
ツッコミの嵐に対し、飯島の化けの皮が速攻ではがれる。
「泣き真似なんてしてないっていってるでしょォォ!」
「あはは、いい気味だわ! 放送事故レベルになってきてるわね」
お腹を抱えて大笑いしている音羽の隣で、顔を引きつらせている瑛士。
「これはさすがに引くな……ちょっと部下の人なのか、助言した人が気の毒になってきたぞ……」
「そう? 私は何をどう見たら飯島女史が成功すると思ったのか、聞いてみたいんだけどね」
笑いの止まらない音羽を見た瑛士が複雑な表情を浮かべていた時だった。庭のほうから賑やかな声が聞こえてくると、リビングの窓が開く。
「ただいまなのじゃ! あ、もう配信が始まっておったのじゃな」
ルナと翠を抱きかかえたルリが戻ってくると、画面を見ていた二人に声をかける。
「あ、おかえりなさい。ルナちゃんも翠ちゃんも一緒だったんだ」
「キュー」
「ニャー」
二匹が元気よく返事をすると、ルリの腕から飛び降りて音羽と瑛士の元に駆け寄っていく。
「うむ。小屋の中で遊んでおったが、そろそろ時間じゃから戻ってきたのじゃ。配信のほうはどんな感じなのじゃ?」
「どうもこうも面白すぎることになっているわよ。ぶっ」
「どれどれ……あはは! さすが我が下僕どもじゃな、煽り方が面白すぎるぞ」
コメントを見たルリが指をさして笑いだすと、瑛士が呆れたような表情で問いかける。
「ルリ……やっぱりお前のリスナーたちかよ……」
「そりゃそうじゃろ。わらわがわざわざ配信で『飯島というヤツが配信をするらしいから盛り上げてやるのじゃぞ』っと予告してやったからのう」
「マジかよ……だからこんなコメントも視聴者も多いのか……」
瑛士が視線を送った先に表示されていた視聴者数は百人を超え、コメントも次々と書き込まれていた。その様子を見た音羽がため息を吐きながら呟く。
「まあ、普通であれば新人の初配信でこの数字は異常すぎるんだけどね。芸能人とかでもない限り」
彼女が指摘したように、先日の一件を加味したとしても初配信でゼロ人でもおかしくない。状況はさておき、異常な数値を叩きだしていることは紛れもない事実だった。
「たしかに音羽の言うとおりだな……なあ、ルリ? リスナーになんて言ったんだ? 盛り上げてくれって言うだけでここまで集まるとは思えないのだが」
「ん? そうじゃな……たしかに盛り上げてくれだけではパンチが弱いと思ったのじゃ。だから『下僕ども、新しいおもちゃが手に入るチャンスじゃ。一番面白いコメントをした者には褒美をくれてやるから、張り切って盛り上げるのじゃぞ!』と話しただけじゃ」
「めっちゃ悪質な煽り方してるじゃねーか! なんだよ、新しいおもちゃって!」
「そのまんまの意味じゃが、何かおかしかったじゃろうか?」
「ツッコミどころが多すぎて何も言えねえ……」
大きく肩を落として項垂れる瑛士を見て、ルリが近づくと肩を優しくたたきながら声をかける。
「ご主人、心配することは何もないぞ? むしろ負担が減るのじゃからよかったではないか」
「どういう意味だよ! 負担が減るって!」
「え? そりゃ下僕どものおもちゃ第一号はご主人に決まっておるじゃろ」
「ふざけんな! 俺はおもちゃになった覚えはねーぞ!」
瑛士の絶叫がリビングに響き渡った時、配信を見ていた音羽が一喝した。
「ちょっと瑛士くん、静かにしてくれない? 飯島が面白いことを言い始めてるのが聞こえないの!」
「俺のせいなのか……」
項垂れる瑛士を無視してルリと音羽が配信に耳を傾けると、思わず口角が吊り上がる。
飯島が口走った内容とはどんなことだったのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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