第4話 音羽の暴走は止まらない
ルリが放った一言でリビングの空気が静まり、緊張感が高まり始める。瑛士と音羽は言葉を発することができず、真剣な表情で見つめていると自信たっぷりな表情の彼女が口を開く。
「ふふふ、二人とも大切なことを忘れておるようじゃな。わらわの下僕どもが迷宮で働いているという事を」
「……それがどうかしたのか?」
自信たっぷりに答えるルリの言葉を聞いて、豆鉄砲を食らった鳩のような表情になった瑛士が静かに聞き返す。
「ご主人は何もわかっておらんようじゃな。よいか? 迷宮の様々な場所にわらわの下僕どもがおる。これが何を意味するか分かるかのう?」
「あーうん、まあいろんな人がいるもんな。リスナーさんだもんな」
いまいちピンと来ていない瑛士を見て、わざとらしくルリが大きなため息をつく。
「はぁ~ここまで鈍感じゃとは思っておらんかったわ。これは音羽お姉ちゃんが苦労する理由がわかったかもしれん」
「言っている意味がさっぱり分からんのだが……」
「でしょ! ルリちゃん、わかってくれる? 本当に鈍感どころじゃないから困っちゃうのよ」
瑛士の言葉にかぶせるように音羽が割り込んでくる。そして、日ごろのうっぷんを晴らすかのように一気に話し始める。
「だいたいね、私が留学を早く切り上げて帰ってきたのに『おかえり』の一言もないのよ。将来を誓い合った婚約者が帰ってきたら泣いて喜ぶものじゃないの? それどころか『なんで帰ってきた』みたいな言い方だし……ルリちゃんと一緒に住み始めたなら真っ先に私に報告する義務があるんじゃないの? まあ……瑛士くんより先に連絡くれたし、すごく協力的だったから助かったけど。それに迷宮探索でもさんざん裏からサポートしてあげてたってのに全然気が付かないし、私という者がありながら他の女にへらへらしてるし……もうね、脇が甘すぎるのよ! だから盗聴器と監視カメラにエアタグをつけて常に監視していないと……」
「ちょっとまて! 盗聴器に監視カメラは知っていたけどエアタグってなんだよ! いつの間にそんなもの仕込んでいたんだ?」
「え? GPSで追跡なんて当たり前でしょ? それに瑛士くんに仕掛けたものは私が独自に改造したものだから音声も映像もリアルタイムでクラウド保存されているのよ」
「……ナニソレ? 俺にプライバシーという物は存在しないのか?」
「あるわけないでしょ。それに、瑛士くんのことは全て知っておきたいのよね……きゃ、言っちゃった!」
「これはどこに通報すればいいんだ?」
頬を赤らめながら両手で顔を隠す音羽に対し、この世の終わりのような表情で固まる瑛士。すると静かに話を聞いていたルリが口を開く。
「ふむ……音羽お姉ちゃんは心配性なんじゃな。これはご主人が悪いという事じゃ」
「どうしてそうなるんだよ! どこにそんな要素がある? 俺は被害者っすよね? 盗聴器にGPSまで仕掛けられてるんだぞ!」
「別にやましい行動をしなければ問題ないじゃろ? そこまで慌てるという事は何かあると言っているようなもんじゃし」
「え……? ちょっとどういう事なの……やっぱり何か隠していることがあるのね?」
音羽がどこからともなく刀を取り出し、柄に手を当てて殺意のこもった目を瑛士に向ける。
「ちょっとまて! お前どこから刀を出した? というか落ち着け!」
「大丈夫、私は落ち着いているわ。大丈夫、すぐ終わらせるから」
「絶対落ち着いていないだろうが! 目が血走ってるし、何がすぐ終わらせるだよ! 明らかに殺す気満々だろうが!」
「何を言っているのかわからないわね……大丈夫、永遠の時を二人で生きるだけだから。そう、誰にも邪魔されないで」
「俺はまだそっちの世界に行きたくはない! ルリ、ボケっとしていないで止めろよ!」
何とか説得を試みている瑛士が、腕を組んでこちらを見ているルリに助けを求める。
「ご主人、人間はあきらめも肝心なのじゃ。大丈夫、わらわはどんな形になっても見守っておるからのう」
「冗談を言っている場合じゃねーんだよ! そうだ! 音羽もルリも最近できた観光名所はまだ行ったことないだろ?」
「観光名所? 何のことじゃ?」
「何のことを言っているのかしら?」
瑛士の口から告げられた観光名所に心当たりのない二人が揃って聞き返す。
「やっぱり知らなかったか。前々から看板は立っていたけど、昔の城下町を再現する一環で新たな物産エリアがオープンしたんだよ」
「ほうほう。それでその物産エリアとわらわたちが何か関係あるのか?」
「食べ物エリアも充実しているらしくて、自分で作るみたらし団子とかりんご飴の体験コーナーもあるらしいんだ」
「なんじゃと? 体験コーナーじゃと?」
「ちょっとそれは詳しく聞かないといけないわね……」
瑛士の言葉を聞いた二人の目が一気に輝き始める。
「俺も行ったことがないから詳細はわからないが、全国の有名お菓子店が監修した店が入っているらしい。それに公園も併設されているから、ルナや翠を連れて思いっきり遊ばせておいてもいいかと思ってな」
「名案なのじゃ! ルナと翠も広いところで思いっきり遊びたいじゃろうし。こうしちゃおれん! すぐ連れてくるのじゃ!」
「あ、ちょっと待て!」
瑛士が引き留める暇もなく、光の速さで庭に立てられた小屋に向かうルリ。
「アイツは……誰が今から行くって言ったんだよ……」
瑛士が庭のほうを見ながらため息をついていると、笑顔の音羽が近づいてきた。
「ふふふ、瑛士くんにしては上出来じゃない」
「まあ、俺も行ってみたかったしな」
小さく息を吐きながら安堵した表情で答える瑛士。
この時、静かにリビングのテレビが立ち上がったことに二人は気が付いていなかった。
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