第3話 実は凄腕のハッカーだった?
小さく息を吐いた音羽がゆっくりと口を開く。
「実は迷宮に忍ばせておいたドローンの存在がバレちゃったかもしれないの」
「は? どういうことだ?」
苦笑いしながら話す音羽に対し、意味が分からないといった様子で聞き返す瑛士。
「だから、私が迷宮内に設置したドローンと接続ができなくなったって言ってるの。昨日までは全部見れていたんだけど、今日になって『接続できません』ってエラーが頻発するようになったのよ。やっぱり管理システムのネットワークへハッキングして接続させていたのがまずかったかしら」
「絶対それだろうが! ってかなんでそんな危ない橋を渡ってるんだよ!」
「だって……あまりにも管理が甘すぎたし、ちょっと間借りするくらいならいいかなって」
片目を閉じてウインクしながら右手をおでこに当てて可愛く笑う音羽。
「アホか! 何が『ちょっと間借りするくらいいいよね』だ! あからさまにヤバいことしてる自覚あるんか?」
「えー別に誰かに迷惑かけてるわけじゃないし。ちょっと管理者側の弱みを握ったから、優しくお願いしただけだよ?」
「弱みを握った時点で優しくない!」
音羽の話を聞いていた瑛士が頭を抱えてしゃがみ込む。すると黙って話を聞いていたルリが肩に手を置きながら、優しく語り掛ける。
「ご主人、頭を抱えたくなる気持ちはわかるのじゃ」
「ルリ、わかってくれるのか! お前からも何か言ってやってくれ!」
突然現れた良き理解者の出現に一気に表情が明るくなる瑛士。希望に満ちた目で見つめる彼の様子に優しくほほ笑むと、音羽に向かって真剣な目でルリが口を開く。
「音羽お姉ちゃん、さすがにハッキングとやらはマズいと思うのじゃ」
「うう、ルリちゃんに言われると言い返せないわね」
ルリの指摘を受け、気まずそうに顔を背ける音羽。そんな彼女の様子を見て満足げに話を続ける。
「うむ、証拠が残るようなやり方ではバレた時に面倒なことになるのは、わかっておるじゃろ?」
「たしかにね。だから一時間ごとにアクセスログとキャッシュが消えるように、自動プログラムを組み込んでおいたわ」
「なんかすごいプログラムが組み込まれてるんですけど! そもそもどこでそんな技術を身につけたんだよ!」
二人の話を黙って聞いていた瑛士が思わずツッコミを入れるが、ルリは何事もなかったように話を続ける。
「たしかに有効な手段じゃが、飯島が絡んでおるかもしれんところに潜っているわけじゃろ?」
「そうね、ヤツもアクセスしている痕跡をいくつか観測できたわ」
「じゃろ? それであれば迷宮のシステムではなく、ヤツの大元を破壊してやった方が良かったんじゃなかろうか?」
言い終えたルリが口角を吊り上げて怪しい笑みを浮かべる。すると、音羽がわざとらしくため息を吐いて語り始める。
「ルリちゃん、私も同じことを考えたわ。だけど、向こうもいくつものサーバーを経由している上に、普通には突破できないファイアウォールが何重もあってね。私の知識と技術力があれば突破できるけど、リスクが高すぎるのよ」
「やはり一筋縄ではいかないのじゃな……わらわが手伝ったとしても難しそうかのう?」
「二人が本気になれば可能だと思うわ。でも、向こうにこちらの居場所がバレるリスクが高いし、割に合わないわよ」
「そうか……それであれば迷宮内のサーバーをハッキングするほうが合理的じゃな」
「何が合理的なんだよ! ってかお前ら二人はいつの間にそんな技術を手に入れてるんだ? 悪いことしているって自覚ある?」
ルリと音羽が腕を組みながら深く頷いていると、思わず立ち上がった瑛士が全力でツッコミを入れる。
「ん? ご主人、どうしたんじゃ? もう元気になったのか?」
「瑛士くん、いきなり大声出してどうしたの?」
大声を出して訴える瑛士に対し、不思議そうな顔で聞き返す二人。
「いやいや、普通に驚くだろうが! いつからそんなハッカーみたいなことができるようになってるんだよ! それよりもうちのネット回線を使ってるんだろ? 特定されるのも時間の問題じゃねーか!」
身振り手振りを交えながら慌てた様子で必死に訴える瑛士を見て、呆れた様子で話し出す二人。
「は? わらわがそんなヘマをすると思っておるのか?」
「まったく瑛士くんはお子ちゃまね。そんなの普通のブラウザでアクセスするわけないじゃない」
「へ? 言っている意味が分からないのだが……」
豆鉄砲を食らった鳩のような表情の瑛士に対し、額に手を当てて語りだす音羽。
「たぶん説明してもわからないと思うけど、ネットの世界って氷山の一角のようなものなの。深層のほうは普通には見えないようになってるし、特別なブラウザでアクセスするのよ。ちょっと設定は必要だけど、海外のサーバーをいくつも経由して戻ってくるから簡単にはバレないの」
「そうなのか?」
「そういうものなのよ。今までは迷宮のサーバーもセキュリティがガバガバだったから楽勝だったんだけど……このタイミングで管理会社を変更したことが厄介なのよ」
「ん? 言っている意味がよくわからないのだが……」
音羽の言っている意図がいまいち掴めず、瑛士が首をかしげているとルリが話しかけてきた。
「鈍感じゃな、ご主人は。ほれ、今度契約を結んだ会社の概要を聞いておったじゃろ?」
「ああ、たしか飯島絡みの会社だったよな? はっ! まさか……」
ようやく事の重大さに気が付いた瑛士が驚いていると、音羽が静かに語り始める。
「やっとわかった? 飯島の息がかかった人間がこれまで以上に迷宮内に増えるということよ。それを踏まえて私たちがどうやって動くかが重要になるの」
音羽の言葉を聞いた瑛士が険しい表情になると、ルリが不敵に笑いながら話し出す。
「ふふふ。ずいぶん困った顔をしておるのう、二人とも。仕方がない、わらわがレクチャーというものをしてやろうではないか!」
険しい表情で固まっている二人に対し、自信たっぷりに胸を張るルリ。彼女はどんな秘策を打ち出すのか――瑛士と音羽は固唾をのんで見つめていた。
最後に――【神崎からのお願い】
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