第2話 謎のシステム改修
「な……迷宮のメインサーバーにサイバー攻撃ってどういうことだ?」
「しかも発生した日時がアイスを堪能しておったときではないか! そうか……わらわに無償で提供したいと考えた神様の導きだったのじゃな」
「なんでそうなるんだよ! だいたいお前にアイスを食べさせて、何の徳があるって言うんだよ!」
「何を言っておるのじゃ! わらわは多くの下僕どもを従える神のような存在じゃぞ?」
「お前のはただ配信を見てくれるリスナーだろうが!」
ノートパソコンの前でいつものように言い争いを始める瑛士とルリ。そんな二人の様子を黙って見ていた音羽が、手を叩きながら割り込んでくる。
「はいはい。もう話してもいいかしら? 瑛士くんもルリちゃんの冗談を真に受けないの」
「いや、コイツの場合は本気だと思うのだが……」
小声で文句をつぶやく瑛士を無視して、音羽は話を続ける。
「ルリちゃんが言うようにサイバー攻撃があったのが、ちょうど私たちが展望フロアに移動したタイミングなのよね」
「間違いないのじゃ。でも音羽お姉ちゃん、それが何か問題でもあるのかのう?」
「いい着眼点ね。ちょっとマズいことになりそうなのよ」
言い終えた音羽がキーボードで何かを入力すると、別のニュース画面が立ち上がる。
「これを見てほしいんだけど、どうやら大規模なシステム改修が入るみたいなのよ」
映し出された画面に書かれていたのは、今回のハッキングを受けて全面的にシステムを入れ替えるという記事だった。改修には時間がかかるようで、展望フロア以外の迷宮施設が解放されるのは最短で二週間後ということだった。
「ふむ……二週間というのは長いのう。もっと短縮できんのか運営に文句を言ってやるのじゃ」
「ルリちゃんの気持ちもわかるわ。普通のシステム改修程度なら一週間もあれば終わるから。でもね、今回の問題はそこじゃないの……受注した会社が問題なのよ」
音羽が画面を指さした先に書かれていたのは、『株式会社I・T・S』という会社だった。
「ん? 聞いたことのない会社なのじゃが、何か問題でもあるのかのう?」
「この会社が問題しかないのよ。説明するよりも見てもらった方が早いかも」
再び音羽がパソコンを操作すると、株式会社I・T・Sのホームページが表示されていた。そのままマウスを操作して会社概要を開くとルリの表情が固まった。
「ど、どういうことじゃ……創業メンバーの名前の中に飯島というヤツがいるではないか!」
「そうなの。しかも、この取締役のメンツが飯島の研究チームに所属していた人間で固められているのよ」
「な、なんということじゃ……しかも創設してまだ五年も経過していないのに、迷宮のような大規模なシステムを扱えるのじゃろうか?」
ルリが指摘したのは、創業年月日の欄だった。創業は今から五年前、奇しくもディバインカンパニーが研究所閉鎖を決めた直後だった。
「へえ……面白い情報だな。あの飯島女史ならやりかねないと言ったところか。しかし、行方をくらましていたヤツがこんなに堂々と現れるとはな」
無言でパソコンを眺めていた瑛士が腕を組みながら二人に声をかける。
「でしょ? 私も最初に見た時はビックリしたの。研究所が閉鎖になった時、うちの両親も大変だったから。運よく取引先から声がかかって、別の研究機関に移籍して……すぐに海外勤務になるなんて聞いてないわよ!」
普通に話していた音羽だったが、昔を思い返し始めるとその表情がどんどん怒りに満ちていく。右手で握っていたマウスから軋むような音が響きはじめ、左手はキーボードにめり込み始める。画面はAの文字で埋め尽くされはじめ、ルリの顔が恐怖で引きつり始める。
「音羽お姉ちゃん、落ち着くのじゃ! パソコンが壊れてしまうのじゃ!」
涙目になったルリが音羽の右手にしがみつき、必死に訴えかける。その声が届いたのか、すぐに音羽が我に返って話しかけた。
「あ! ルリちゃん、止めてくれてありがとう。危うくパソコンを壊してしまうところだったわ」
「良かったのじゃ……」
二人の様子を見ていた瑛士の額から一筋の汗が滴り落ちる。
(いや、良くないと思うぞ……マウスがあらぬ形に変わっているんだが)
瑛士が視線を向けた先にあったのは、先ほどまで音羽が握りしめていたマウスだった。楕円形の外装にはところどころにひびが入り、指の形がくっきりと残っている。割れ目からみえた基盤は斜めに曲がっており、レーザーの光が漏れていた。
「な、なあ音羽……マウスは無事ではなさそうだが……」
「何を言っているのかしら? マウスは使い捨てじゃないの?」
「いや、言っている意味が分からんのだが! 普通は握りつぶしたりしないからな!」
瑛士が必死に訴えかけると、不思議そうな顔をしているルリと音羽。
「ご主人? どうしたんじゃ? マウスを不注意で壊してしまうなんてよくあることじゃろうが」
「そうそう。オンライン対戦で負けると、ムカついて壁にぶん投げるなんてよくあることじゃない」
「あるわけないだろうが! 悔しくても物に当たるなよ!」
リビングに瑛士の絶叫が響き渡るが、当事者の二人はどこ吹く風といった様子だった。
「そんな細かいことはどうでもいいとして……ちょっと厄介なことが発生したのよね」
「細かいことって……ん? 厄介なことってなんだ?」
突っ込むのをやめた瑛士が聞き返すと、少し困ったような表情になる音羽。
「驚かないで聞いてね? 実は……」
音羽の言葉を聞いた瑛士は口を開けたまま石のように固まってしまった。
はたして彼女の口から語られた内容とは――?
最後に――【神崎からのお願い】
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