閑話⑪ー5 飯島の誤算
瑛士たちが隠し通路を使って展望フロアに移動する様子を、モニター越しに見ている人物がいた。
「やるじゃない。隠し通路を探し当てるなんて」
椅子にもたれ掛かりながら、飯島は感心した様子で映し出される光景を眺めていた。
「あのお面を付けた娘……なんか見覚えがあるのよね。嫌な感じね、小骨が喉に引っかかっているようなむず痒さがあるわ」
マウスを操作して映像を拡大した彼女は、目を細めながら考えを巡らす。すると、以前研究所で見かけたことのある人物に行きついた。
「そういえば研究所の実験に参加していた子がいたわね……たしか、瑛士くんと同い年くらいだったかしら?」
飯島が思い出したのはまだ研究所にいた頃の奇妙な光景だった。瑛士と同い年くらいの娘が、研究チームの一員として動き回っていた。最初は特に気に留めることもなかったが、徐々に成果を上げ始めて頭角を現すと自然と目に付くようになっていった。
「小学生でプロジェクトに参加できるくらいだから、才能はあったのよね。まあ、私の足元には到底及ばなかったけど」
モニターの中で立ち回る女性の様子を眺めながら、当時の記憶と重ね合わせる。すると飯島は大きく息を吐き、小さく首を横に振る。
「ありえないわね。あの子は研究所がなくなった後すぐに海外に移住したはずだし、部下の情報によるとまだこっちに帰ってくる時期じゃないわ。あと数年は向こうに縛り付ける手はずになっていたし……でもちょっと引っかかるわね……念のため紀元に指示を出しておこうかしら」
腕を組みながら今後の対応を含めて考えていた時、再びモニターに視線を戻した飯島は言葉を失った。
「……あの子たちはいったい何をしてるのよ……」
映し出されていたのは迷宮内ではなく、展望フロアの床で正座させられている瑛士の様子だった。
「ちっ……ここは一般人が多すぎて隠しカメラが設置できないのが難点ね。無理やり防犯カメラの回線に割り込んでるから、音声は拾えないし」
モニターを眺めながら悔しそうに唇を噛む飯島。すると瑛士が警備員に連行されていく様子が映し出されたかと思うと、いきなり信号が消えてブルースクリーンが現れた。
「ちょっと! 何で信号が途絶えるのよ!」
部屋中に飯島の絶叫が響き渡ると、入り口のドアが開いて紀元が飛び込んできた。
「飯島博士、どうされました? 何か問題でも発生しましたか?」
「な、何でもないわ。それよりも展望フロアの防犯カメラが故障したみたいよ」
「え? そうなんですか? 早速部下に伝えて、メーカーの人間を修理に向かわせます」
「頼んだわよ。何か起こってからでは遅いからね」
「承知いたしました……あれ? 防犯カメラのチェックを博士が直々にされるとは聞いていなかったような……」
部下に指示を出すためにスマホを取り出した時、紀元が違和感を覚えて考え込む。
「し、指示は後でいいから! それよりも私に何か話があって来たんじゃなかったの?」
彼の顔を見た飯島が慌てて問いかける。
「そうでした! 実は博士と共同研究を行ないたいという企業の問い合わせがございまして……」
「ふーん、面白そうな話ね。詳しく教えなさい」
うまく話をごまかすことに成功し、いつもの勝気な表情で話を聞く飯島。
(ば、ばれなくてよかった……)
真剣に話を聞く表情とは裏腹に、飯島の胸中は穏やかではなかった。
(くくく、こっちはすべてを知っているのだがな)
焦る飯島を眺めながら、紀元は心の中で笑いが止まらずにいた。
この時の彼は順調に計画が進んでいると信じていた……まさか自分が掌の上で踊らされているとは知らぬまま――
最後に――【神崎からのお願い】
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