第6話 崩壊する目論見?
祝勝会と聞いたルリは、飛び跳ねながら喜んでいた。その様子を見た瑛士が必死に笑いをこらえて、肩を震わせる。
(くくく……何も知らないでのんきなものだ)
必死に笑いをこらえて、何とも言えない表情をしている瑛士を見た音羽は、大きなため息を吐く。
(うわ……絶対ろくなこと考えてないわね。でも好都合……打ちひしがれて心折れた時こそチャンス! 私が優しく声をかければ、一撃で落とせるわ)
声を押し殺して笑みを浮かべる音羽。三者三様の思惑が渦巻く中、我に返ったルリが瑛士に向かって問いかける。
「そういえばご主人、祝勝会って言っておるが何をするのじゃ?」
「ああ、そうだったな……普通に祝勝会をしても面白くないから、ちょっとした勝負をしてみないか?」
「望むところじゃ! わらわが勝つのは間違いないのじゃがな」
瑛士の提案を聞いたルリは、勝利を確信したような表情で胸を張りながら話し掛ける。
「勝負というのは、何をするのじゃ?」
「この間、お前がもらったアイス食べ放題券があっただろ?」
「うむ。今も大切に持っておるぞ。それがどうかしたのか?」
「ふふふ、アイス食べ放題で勝負というのはどうだ? どちらが多く食べられるかで勝敗を決する、制限時間はなしという条件で」
瑛士の言葉を聞いたルリが目を見開き、声を震わせながら笑顔で聞き返す。
「ご、ご主人……正気なのか? アイスマイスターの称号を持つわらわに挑むという意味を分かっておるのか?」
「なんだ、アイスマイスターって……そんな称号は初めて聞いたぞ?」
「なんじゃと? この誇り高き称号を知らぬとは……ふっ、これだから素人は困るんじゃ」
驚きの表情を浮かべたと思えば、腕を組みながら半目でバカにしたような視線を向けるルリ。
そして、さらに煽るように配信を見ているであろうリスナーに問いかける。
「下僕ども聞いておるか? アイスマイスターのことすら知らぬ大バカ者が勝負を挑んできたが、どう思うのじゃ?」
ルリが高らかに声を上げると、コメント欄は一気に盛り上がる。
《チャットコメント》
『アイスマイスタールリ様を知らぬヤツがこの世に存在しただと?』
『マジか……ご主人、大丈夫か?』
『嘘だろ……嘘だと言ってくれ……』
『これは勝負あったなw』
『ルリ様の大勝利配信確定だ! 祝杯の準備だ!』
スマホに流れるコメントに余裕の笑みを浮かべていた瑛士だが、ある一文が目に留まると思わず声を上げた。
「な……そんなバカな……なぜ、俺の考えがばれている……」
瑛士がスマホを握りしめたまま、驚愕の表情を浮かべて固まった。すると、背後から近づいてきた音羽が話しかける。
「そんな驚くようなコメントでもあったの? まあ、何を考えていたかだいたい想像つくけど」
「ナ、ナニヲイッテイルノカサッパリワカラナイナ」
「明らかに動揺してるじゃない……」
壊れたロボットのようにカクカクしながら振り返る瑛士を見て、大きくため息を吐く音羽。
そして、核心を突く一言を突き刺す。
「『最悪でもダブルクラッシュを狙ったんだろうが、相手が悪かったな』ってコメントじゃないの?」
「な、なぜバレたんだ……」
「やっぱりね。ちゃんと説明してあげるから、良ーく聞きなさいよ」
額に手を当てながら大きく息を吐くと、順を追って説明を始める音羽。
「あのね、瑛士くんは覚えてないかもしれないけど……以前、ルリちゃんがアイス食べ過ぎてお腹壊したことがあったでしょ?」
「ああ、たしか階層で異変が起こった時だったか……」
「そうよ。あの後、個別配信でリスナーのみんなとアイスの対策談義していたのは知らないでしょ?」
「なんだそれ……初耳だぞ」
「よっぽど悔しかったみたいよ。それから反省会と称して打ち合わせを重ねて、対策を取っていたみたい。エリアボスを倒したらアイスを食べまくる配信を計画していたらしいし……」
音羽から明かされた事実に、口を開いたまま固まる瑛士。
そんな彼の様子を気に留めることなく、さらに追い打ちをかける。
「ルリちゃんとしてはもともと勝負をするつもりみたいだし、瑛士くんから提案してくれたことがよほどうれしかったんじゃない? 最高の“取れ高”というおまけ付きで」
「なっ……まさか、掌の上で踊らされていたのは……」
「そう、瑛士くんの方だったというわけね。今のルリちゃんは強敵よ? お腹が痛くならないように毎日アイスを食べて鍛えていたし、胃腸薬も常備してるみたい。どの順番で食べれば胃への負担が少ないかとか、リスナーから専門知識も学んでいるって聞いたわ」
「ちょっと待て……なんでそんな専門家のような人間が? あれ? これってもしかして……」
「ようやく気が付いた? 勝ち目のない負け戦だけど、頑張ってね」
音羽から告げられた衝撃の事実に固まってしまい、呆然と立ち尽くす瑛士。
「おや? ご主人、ずいぶん顔色が悪いみたいじゃな。どうしたんじゃろうか?」
上機嫌で鼻歌を歌いながら近づき、笑みを浮かべながら話し掛けてくるルリ。
固まってしまった瑛士に、果たして打つ手はあるのだろうか――




