第4話 音羽の策略
スマホを見ていた瑛士が肩を震わせながら大声を上げた。
「テメーら……なんで俺の敗北が決定してるんだよ!」
画面に流れるコメントのほとんどが、彼が負けることを前提としていたのだ。いつの間にかタブレットを取り出して配信を見ていたルリが、煽るような口調で話しかける。
「ふふふ……戦う前から勝負あったようじゃ。ご主人、大人しく負けを認めたほうがいいのじゃないか?」
「あ? 何言ってるんだ? お前こそ負けるのが怖いんだろ?」
「はっ、そのセリフをわらわに向けたことを後悔するがよいのじゃ!」
画面から顔を上げた瑛士とルリの視線が交わると、まるで火花が散るような空気が流れる。その様子を見たリスナーたちは、さらに盛り上がる。
《チャットコメント》
『さっさと負けを認めとけwww』
『ルリ様に勝つなど三世紀早まったな』
『ご主人、俺はお前が勝てると信じてないぞw』
『ルリ様の祝勝配信の待機せねば!』
次々と流れるコメントを、少し離れた位置で見ていた音羽は笑いをこらえきれずにいた。
「あはは! ホントにリスナーのみんなが面白すぎるわ!」
スマホをポケットにしまうと、二人に向かって声をかける音羽。
「じゃあ、始めるわよ……って思ったんだけど、何が原因でケンカになったんだっけ?」
「それは……」
急に冷静になった音羽が振り向きながら問いかけると、瑛士は急に言葉に詰まった。彼の様子を見たルリが、再び煽るような口調で話しかける。
「おや? ご主人はもう忘れてしまったのか? あれほどわらわに立てつこうと意気込んでおったのに、拍子抜けじゃな」
「あ? いちいち癇に障る言い方しかできないのか? そういうお前こそ何のことか覚えていないんじゃないのか?」
「わらわを誰だと心得ておるのじゃ! あんな屈辱を忘れるわけがなかろうに……」
言い終えると同時に口元に手を当て、顔を背けるルリ。すると再び、瑛士のスマホがけたたましく通知音を鳴らし始める。
《チャットコメント》
『緊急事態発生、緊急事態発生!』
『なんということだ……ルリ様が悲しんでおられる……』
『これは由々しき事態であるぞ……おでが一刻も早い癒しを……』
『特定班並びに粛清班、不届き者が現れたぞ!』
『抜け駆けしようとする裏切り者に天誅を!』
『おまいら、まて! おではまだ何も――』
『「まだ」だと? 危険分子は排除すべし! ご主人にも天罰を!』
『ルリ様を泣かせた罪は重い!』
次々と流れるコメントを眺めながら、瑛士は頭に手を当てて大きくため息を吐く。
「カオスすぎるだろ……ってか、なんで俺に対する殺意が湧いてるの?」
「そりゃ、ご主人が自分のしたことの重大さを理解しないのがいけないのじゃ」
「はぁ? 俺は何もしていないだろうが!」
「むむむ、まだ認めぬというのか? のう、下僕どもよ。こんなことを言うご主人じゃがどう思う?」
顔を伏せたままのルリは、いかにも困った様子でリスナーへ問いかける。
《チャットコメント》
『まだ認めないとは……ご主人、男なら潔く認めろ!』
『ルリ様の御心が広すぎる……』
『さすがルリ様! ご主人、もうあきらめるんだな』
『最初から勝負は決まっていた……相手が悪かったな』
『勝負あり! ご主人乙www』
圧倒的にルリを支持するコメントで溢れかえると、瑛士が発狂したような声を上げる。
「テメーら、いい加減にしやがれ! 何をあきらめろって言うんだ! そもそもコイツは泣いてねーぞ! お前らのコメント読みながらずっと笑ってるんだ!」
「くっ、何を言っておるんじゃ? わらわが、くくっ、笑っておるなんて……」
「ふざけんな! 隠しきれてねーだろうが! なんでリスナーどもは騙されてるんだよ!」
瑛士が雄たけびを上げるように声を出すと、離れた位置で見ていた音羽がため息を吐きながら近寄ってきた。
「見てられないわね……この勝負はここで終わりにしましょう」
「ちょっと待て! まだ何も始まってないだろ?」
「始まるも何も、もう勝負はついてるわよ。ねえ? ルナちゃんに翠ちゃん?」
音羽が顔を向けた先にいたのは、岩の上で仲良く並んでいるルナと翠。
「キュ」
「ニャ」
声をかけられた二匹は、短く鳴き声を出すと音羽の言葉に同意するように頷く。
「ほら、ルナちゃんも翠ちゃんも同意してるわよ?」
「うそ……だ! そんなはずはない!」
「そうはいってもね〜。今までの様子をずっと見ていたし、あの子たちはリスナーのみんなと違って公平だからね」
「ぐぬぬ……俺は認めんぞ……」
頭を抱えてうめき声を上げる瑛士に対し、腕を組みながらため息を吐く音羽。すると、勝ち誇ったような顔をしたルリが上機嫌で話しかけてきた。
「ふふふ、ご主人よ。素直に負けを認めるんじゃな」
「認めるわけには……」
苦悶の表情を浮かべる瑛士に対し、音羽が優しく肩に手を置くと耳元で囁く。
「な……それはどういう意味だ?」
音羽の言葉を聞いた瑛士は目を見開いて驚くと、すぐに苦虫を嚙み潰したような顔になる。
彼女はどんな助言をしたのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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