閑話10−④ ルナと翠の作戦会議①
ルナと翠は人の言葉を話すことはできませんが、二人はこんな感じで話しております。
瑛士たちがエリアボスの対策の打ち合わせをしていた頃、体を丸め眠っていた翠の元にルナが近寄って話しかける。
「お疲れ様。ちょっと気になったことがあるんだが、どこかで会ったことないか?」
「ふぁー。まだ眠いよ……」
ルナが話しかけると、大きなあくびをしながら目を覚ます翠。起き上がって伸びをすると、身を震わせながら答え始める。
「うーん、どこかで会ったことがあるような、ないような……昔のことなんて覚えてないかも」
「そうか。ご主人たちが言っている研究所ってところで、見かけたような気がするんだよな」
「研究所? もしかして人間がたくさんいるところ?」
「そうだ。白い服を着た人間がたくさんいたところだ」
翠の言葉を聞いたルナは目を見開き、固まってしまう。
「あれ? どうしたの? あそこ嫌いだったんだよね。変な檻に入れられるし、痛そうなこといっぱいされたからさ」
「やっぱり研究所にいたのか……ちょっと待て! 檻に入れられたって……」
「そうだよ。なんか変な檻に入れられて、動く床に乗ってよくわからないところに連れていかれたんだ。暗い部屋に入れられたら、男の子が椅子に縛られて泣いていたよ」
「……」
飄々と話す翠の言葉を聞いたルナは言葉を失った。なぜならこの時、天井裏の排気口に侵入しており、その後に起きた惨劇を目撃していたからだった。
「ん? ちょっと待て……翠、なんでお前はここにいるんだ?」
「え? なんでそんなことを聞くの?」
「いや……だってあの時、男の子が放った魔法が直撃して檻が炎上していたじゃないか!」
ルナが一段と大きな声を上げて翠に詰め寄る。なぜなら泣きわめく男の子が強制的に魔法を撃たされ、檻の中にいた子猫に直撃して炎上した姿を目撃していたからだ。あまりの惨劇にすぐ排気口を引き返して脱出を試みたため、その後どうなったのか知ることはできなかった。
「あー、ほんとびっくりするよね。でも、魔法が飛んでくる寸前に男の子の声が聞こえたんだ。『コピーと入れ替えるからその場で伏せて! 逃げて!』って。だから、その後すぐに檻が開いたタイミングで逃げ出したんだよね」
「そ、そうだったのか……無事なら良かった……」
衝撃の事実に言葉を失って呆然とするルナを見て、翠は不思議そうな顔をしながら首をかしげる。
「うん! その後もいろいろあったけど、優しいお兄ちゃんに出会えたからいいんだ。でも、逃がしてくれた男の子のような気がするんだよね」
(そういうことか……まだご主人様に伝えるのはやめておこう。翠の期待を裏切らないためにも、あの下僕を鍛えてやらねばならんな。立ち位置をはっきりさせるためにも)
翠の言葉を聞いたルナの心に闘志が宿り、次の言葉をかけようとした時だった。五階層のフロアから奇妙な物音が微かに聞こえた。
(ん? 何か侵入者が現れたかもしれない。ご主人様の邪魔をさせるわけにはいかない……ちょっと懲らしめてやるか。翠の実力を見るいい機会でもあるしな)
「翠、ちょっと体動かしたくないか?」
「うん! 遊んでくれるの?」
「ああ。この先に遊んでくれる人が来たみたいだから、一緒に行こうか?」
「やったー! 僕たちだけで行ったら怒られないかな?」
「大丈夫だ。ご主人様たちの助けにもなるから、きっと褒めてもらえるぞ」
「わかった!」
会話を終えた二匹は、物音を立てないように瑛士たちの脇を通り抜け、五階層のフロアへと向かった。
──侵入者にとっての悪夢が幕を開けるのは、この後すぐのことだった。
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