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女神に悪役令嬢にされたので代理復讐していたら、公爵家が嫁にしようとしてきます  作者: 風間レイ
悪役令嬢奮闘記

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裁判? いいえ、代理復讐です   3

「なんの騒ぎなの?」


 そこに機嫌の悪そうな顔で王妃が登場した。

 これから夜会にでも出席するのかと思うような華やかなドレスで、大きなエメラルドのアクセサリーをつけている。

 指輪なんて全部の指にはめているんじゃないかと思うほどの数だ。


「王妃様、この女が彼女にお茶をかけたんです」


 その言い分には無理があるでしょ。

 レティシアとお茶のセットが置かれているテーブルの間に、あなたたち三人が立ち塞がっているじゃない。

 

「熱い! 熱い! 医者を呼んでください」


 熱湯をかぶって叫んでいる仲間の横で、ふたりの御令嬢はおろおろするばかりだ。

 早く冷水で冷やしてあげないと、顔にやけどの痕が残るわよ。


 裁判が始まる時の王妃は、優しげな雰囲気で国王の隣に座っていた。

 たぶんあれが表向きの顔だったんだろうね。

 でも映像の中の王妃の表情は冷ややかで、顔を扇で隠しながら大袈裟にため息をついた。


「その娘を医者の元に連れてお行き。三人とももう戻ってこなくていいわよ。全く役に立たないうえに愚かだわ」


 火傷をしている御令嬢に、いたわりの言葉ひとつかける気はないらしい。

 部屋を出ていく三人の御令嬢よりも、割れたポットや濡れた床が気になるようだ。

 三人とも王妃付きの宮廷侍女で貴族の御令嬢なんだから、この場に親や親せきがいてもおかしくない。

 さすがにまずいと感じているのか、王妃は貴族たちのほうには顔を向けずに俯いている。


「おまえは相変わらず趣味の悪い服を着ているのね。それもあの男の趣味なの?」


 映像の中の王妃は、ソファーに腰を下ろして足を組みひらひらと扇を揺らした。


「それで? 魔力は?」

「……」

「質問にはすぐに答えろと言っているでしょう!」


 王妃は怒鳴りながら扇をレティシアに投げつけた。

 いったい何がそんなに気に入らないのか知らないけど、レティシアじゃなくたってそんな言い方をされたら怖くて答えられないよ。


「変わりありません」

「はっ。まったく無能ね。なんで陛下はこんな娘を気にするんだか。あの男は何て言ってるの?」

「養女になれと」

「ちっ」


 舌打ちした。

 この王妃、舌打ちしたよ。


「何か策があるのか……いや、私の知らないことを陛下もあの男も知っているんだわ。それは何? おまえも知っているんでしょ?」

「……なにがなんだか……わかりません」

「ふん。あの用心深い男が、おまえに話しているはずがなかったわね。まったく気に入らない男だわ。陛下はなんであんな男の話を真に受けているんだか。あの男がこれ以上力をつけるのが困るなら、こんな出来損ないの娘は殺してしまえばいいものを」


 誰もが自然と、玉座に座る国王と王妃に視線を向けた。

 レティシアは侯爵令嬢だ。

 いくら王妃といえど、裁判が存在するこの国で今の発言はまずいはず。

 特に今は、レティシアがこの国の命運を左右する存在だと、この場にいる人みんなが知っているんだ。


「王妃!」


 映像を食い入るように見ていた国王が、イライラとした顔で言った。


「レティシアと母親代わりのように親しくなれと言ったはずだ」


 そりゃ国王は事情を知っていたからそんなふうに言うけどさ、何も知らない王妃からしたら、国王が気にかけるだけでもレティシアの存在を疎ましく思うでしょうよ。

 母親代わりなんて言われたら、隠し子かもなんて思ったかもしれないじゃない。


「説明してくださらなかったのがいけないんじゃないですか」

「いちいち説明しなくては、まともに役目をこなせない女に王妃は務まらない」

「よくそんなことが言えるわね」


 怒りに震えながら王妃が立ち上がった。


「もとはと言えばあなたとオグバーンのせいでしょう!」

「揉めるのはあとにして」


 さすがサラスティア。

 喧嘩中の国王夫妻に割って入って、冷ややかに言い切るなんて素敵。


「この後が大事なのよ」


 また一瞬で場面が変わった。

 最初の映像と同じような廊下を、近衛騎士団の騎士に前後を挟まれてレティシアが歩いている。

 でも護衛されているというより、罪人を護送している雰囲気だ。


 待って。

 あの騎士の制服はシルバーラインじゃない。

 なんで王妃付きの近衛じゃなくて、王太子の近衛がいるの?

 ……まさか、王妃が命じたの?


「あの……いつもの通路と違います」


 前を行く近衛が右に曲がったのを見てレティシアは足を止めたのだが、後ろの近衛に乱暴に肩を押されてつんのめった。


「いいから進め。今日はこちらから行く」


 私は王宮がどんな作りになっているかわからないけど、このルートがおかしいのはわかる。

 貴族たちがざわつき始め、王妃が落ち着かない様子で握っているハンカチをこねくり回しているからだ。


「もういいでしょう。裁判を……」

「黙って見ていろ」


 最初からだけどフルンは国王夫妻に対して、まったく敬意を示さない。

 フルンだけじゃなくて、眷属全員か。

 でも国王は全く文句を言わず、むしろ眷属たちの機嫌を損ねないようにしているので、王妃も何も言い返せない。


 いつのまにか映像の中のレティシアは、ふたりの近衛に連れられて中庭に来ていた。

 中庭を進むと、ポプラ並木が現れ、並木の向こうに大きな川と、座って景色を眺められるベンチが現れた。

 確かに美しい景色だ。

 しかし川は階段を十段ほど降りていかなくてはいけないほど低い場所を流れ、かなり流れが早く水量も多い。


「ようやく来たか」


 ベンチに座っていた男が立ち上がり振り返った。王太子だ。

 横にはランドンと近衛と魔道士がふたりずつ立っている。

 全員が魔法の檻に捕らえられているやつらだ。


 彼らは王太子のお気に入りなのかな?

 どうしてこう弱いやつらはつるみたがるのかね。

 王太子と側近たちというより、ヤンキー集団という雰囲気じゃない。

 こんなのが王太子でいられるなんて、本当にこの国は終わっている。


「魔力なし。きさまは王宮に来ていい人間じゃない」


 それは、あなたの母親に言いなさいよ。

 王妃に呼ばれたら、来ないわけにはいかないでしょうが。


「しかもオグバーンに取り入り、ランドンを排除しようとしているそうだな」

「そうなんです。この女のせいでうちはめちゃくちゃですよ。おまえさえいなければ」


 なにが呆れるって、ランドンは本気でそう思っていそうだってことよ。

 オグバーンは息子にどういう説明をしていたんだろう。


「心配するな、ランドン。母上の許可が出た。こんなやつがいなくなったところで誰も気にしやしない。おまえたち、やれ」


 王太子に命じられてためらう者はいなかった。

 近衛のひとりがレティシアを羽交い絞めにし、もうひとりが彼女の両足を抱えて持ち上げ、川辺に近付きその勢いのまま川に投げ込んだ。


 あまりにあっけなく、あまりに手際が良かった。

 慌ててブーボが川に近付いたが、すでに川面に波紋が広がっているだけでレティシアの姿はない。

 この間、レティシアはいっさい歯向かわず、逃げるぞぶりも見せず、一言も話さなかった。


「……ふざけるなよ」


 怒りで拳が震える。

 てっきり突き落としたんだろうと思っていた。

 まさか川があんな下にあるというのに、あの高さからふたりがかりで投げ込むとは思わなかった。


 明らかな殺意と、ごみでも捨てたような気軽さで、レティシアは殺されたんだ。

 そう。殺されたのよ。

 私はレティシアじゃないんだから。


 彼女がもう、この世界で生きていけないと言っていた意味がようやくわかった。

 そりゃあこんなやつらしかいない世界を守りたくなんてないだろう。


「レティシア」


 いつの間にか立ち上がっていた私を止めようとするクレイグの手を振り払った。


「邪魔しないで」


 許さない。

 こいつらだけは許せない。


 こいつらに復讐しなくては、私はレティシアとして生きていけない。


「死にかけたせいで忘れていたわ。そうだった。突き落とされたんじゃなくて、投げ込まれたんだったわ」


 王太子たちが捕らえられている結界に近付く私を、止めようとする人はいなかった。

 眷属が止めないのに、他の人間に止められるわけがないもんね。

 それに神獣の巫子がどんな能力を持っているのかわからないから、下手に手出しできないんでしょう。


「それがどうした」


 この期に及んでも王太子はにやにやと笑っている。


「俺は王太子だぞ。この国の役に立たない魔力なしをひとり始末したくらいで、なんの問題があるんだ」

「血筋以外にとりえが全くなく、むしろ国王になったら国を滅ぼすこと間違いなしのくず男より、神獣様の力を回復することが出来て、魔素病の治療が出来て、聖女と一緒に結界を守れる神獣の巫子のほうが、ずっとこの世界に必要な存在よ」


 あいつら全員ぼこぼこにしないと気が済まない。


「それが王太子に対する態度か!」

「そうよ!」


 怒りに任せて最後は駆け寄ろうとしたところで、空中にまばゆい光がさく裂した。

 一瞬、目がくらんで動けなくなるくらいの強い光だ。


「おお、神聖な光だ。女神様」


 大神官が喜びに顔を輝かせて跪いたのが視界の端に見えた。


「これは奇跡か」

「おお、これが聖なる光」


 周囲では次々に感嘆の声が漏れ跪く人が増えているけど、私にとって重要なのは弱まる光の中から現れた物体のほうだ。


「木刀?」


 いつも枕元に置いていた木刀とほぼ同じものだ。

 でも色だけは黒ではなくて、かすかに紫味を帯びた銀色だ。


『イメージは大事よ。可愛い色のほうが神獣の巫子にあっているわ』


 色なんてこの際どうでもいいわ。

 やつらをぶっ飛ばす武器がもらえたことは重要よ。


 上空に伸ばした手に、ゆっくりと木刀が下りてくる。

 私が敵ならここでタックルして武器を奪うのに、王太子は目を見開いて口を半開きにして見ているだけだ。

 なんて間抜けな顔なんだろう。


 ようやく手元に降りてきた木刀を握った途端、体を包むドーナツのような光の輪がいくつも現れ、頭から足元まで滑り落ちて消えていった。


 バフだ。

 木刀を持っただけでフルバフがかかるんだ。

 なんて素敵なの!

 勇者も真っ青な聖なる木刀よ!


「女神様。ありがとうございます!」


 これはもうやっちゃえってことよね。





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― 新着の感想 ―
[一言] この神聖な木刀で顔がパンパンになるまでタコ殴りですね でもどうせなら神器らしく罪深い者ほど滅茶苦茶痛み感じて悶えるとかだと最高 貴様の罪を数えろ!
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